秋葉原探偵社
成川誠一
秋葉原は特殊な街である。
戦後の闇市から始まり、真空管部品販売で時代を作り、電化製品やゲームで栄え、今やサブカルチャーなオタクな街になった。
毎日曜日には大小様々なイベントが行われ、ウェブアイドルのイベントや即売会などが頻繁に開催されていた。
そんな秋葉原の街で探偵業をしている男がいる、名前を「成川誠一」と言う。
趣味はフィギュア収集で、 趣味と仕事が両立できると安易な発想で秋葉原に事務所を構えてしまった。
言葉使いが妙に丁寧で、何を考えているか分からない男だ。
依頼される仕事も「素行調査」が主で、今日も「素行調査」で尾行中である。
「この対象者は良く動くな、早く何処かへ落ち着いて頂けないだろうか」 成川は一人つぶやきながら忙しなく尾行をしている。
何故に忙しないのかは、「ショップ ウミオー」限定の大型フィギュアの販売日なのである。
対象者がどこかで落ち着いてる間に購入を考えていたが、この対象者が中々落ち着いてくれないので、少し苛立ち始めていた。
「もう時間がありませんので、対象者を見失いなった事にしましょう。そう報告書に書いておきましょう。」
成川は仕事より自分の趣味を優先する男である。
成川は急ぎ「ショップ ウミオー」へ向かい、急いで店内に飛び込んだ。
この「ウミオー」という店は予約を取らず、整理券も配布しない変わった店で、店長が「漢なら努力と根性で手に入れろ!」を掲げている武闘派な店なのである。
販売日は告知するが、何時から販売するのかは店長の気分次第で店頭に出た瞬間に並ばないと買えないのである。
店内は手に入れようと考えてる人で賑わっていた。
普通に考えればこの様な販売方法は、客同士のトラブルが多くなるのだが、店長が古武術を習得してるらしく、問題を起こせば店外に投げ飛ばされるのである。
この為に「ショップ ウミオー」のお客は大人しいのである。
過去に限定品が買えず、店長に詰め寄ったお客が店長に関節を外され、投げ飛ばされた事があった。
その後「ウミオーの店長には手を出すな」が この界隈の暗黙のルールになっていて、周りからは「この店長の人生は三巡目」とも言われており、友人関係の広さと、武器の扱い方は異常である。
成川は何故か、このマスターに気に入られている。
お気に入りだからと言って、優先的に購入できる訳ではないが、安東が来たと分かった時に限定品を販売開始するのである。
成川に気がついたマスターが一声
「良しっ!販売を開始するぞ、並べ!」購入希望者は黙って並び始めた。
その列の中に安東はいた、かなり後ろの方である、先頭を取ろうとしない成川は毎回、後ろの方になってしまう。
今回、成川は最後尾になってしまった。
「多分買えないだろう」と思いつつ並んでいた。
そこにリュックサックを背負った小太りの男性が走り込んで並んだ、他の店を巡ったのであろう、リュックサックは大きく膨らんでいた。
「買えるかな?」その男性は成川に語りかけて来た。
成川はオタク特有の『ここにいる人は自分と同じ考え』という思考が嫌いで、「分かりません」と素っ気なく返答していた。
並ぶ事、三十分、成川の番が来た。
「ここで完売です、ありがとうございました!」 店長の大きな声が響いた。
最後の一人で成川は入手出来たのである。
リュックサックの男性が顔を赤らめながら「キャンセル分は無いの?、一つぐらいあるんじゃないの?」必死にマスターに食い下がっていた。
それを横目に成川は、「あぁ、この人も投げ飛ばされるな」と思いながら、足早に店を出て行った。
成川は急いで事務所に戻った。
「事務所に戻って飾りましょう」その事だけを考えながら、素行調査の仕事をしていた事をすっかり忘れているようだ。
成川の事務所は秋葉原と言っても少しはずれの方で、「神田明神」近くの古いビルの2階にある。
看板も窓とドアに申し訳なさそうに「秋葉原探偵社」と出ている。
古いビルで家賃も安いので2階フロア全部借りている。
何故に依頼人がこの探偵社に来るのかは、『2階フロアを全て借りれるだけ儲かってる』と勝手に思い込み、仕事が入って来るのである。
家賃が安いとは言っても「千代田区」でそれなりの金額になるのだが、成川が姑息な手を使い、破格値で借りている。
それはまた別の機会でお話ししましょう。
笑みを浮かべながら事務所のドアを開けた成川だが、一瞬にして凍り付いた。
「お早いお帰りですね‼︎ 仕事を放棄してお買い物ですか! 何ですかそれは? また下らない物を買ってきたんですか!何してるんですか‼︎」
助手として雇っている「江澤加奈子」が激怒している。
「加奈子」は成川がメイド喫茶からスカウトしてきた人物で、秋葉原探偵社とメイド喫茶「ぱんぷきん」の掛け持ちで仕事をしている。
掛け持ちなので探偵社では「メイド服」で仕事をしてる事が多い。
気が強い加奈子はいつも成川を怒鳴りつけて、どっちが雇われてるか周りの人からは分からないようだ。
事務所の外まで聴こえる大きな声で加奈子は成川を怒鳴りつけている。
近所では「いつもの事」と認識されてるようで、怒鳴り声が聴こえない日は近所の人が覗きに来るまで定着している。
そんな秋葉原探偵社の下に「ショップ ウミオー」に並んでいたリュックサックの男性がいた。
「探偵だったのか、倍額で譲ってもらおうと考えたが、儲かってるようだから譲ってもらうのは無理だな」
どうしても限定品が欲しかった、リュックサックの男性は成川を追いかけて探偵社まできたのである。
リュックサックの男性は交渉を諦めその場を立ち去って行った。




