進みすぎた世界では創作と現実の区別がつかない
旅の途中に奇妙な町に立ち寄った。
「マザー?」
「はい。マザーです」
町の中心には巨大な機械が置かれている。
人々はそれをマザーと呼んでいた。
「私たちの生活を管理しているのです」
使い古された設定だ。
思わず笑ってしまう。
「まさか、あなた達の行動を全て機械が管理しているとでも言うのですか?」
「よくご存じで」
閉口する。
SFの設定でよく見られたものだ。
全てを支配する機械。
何も考えず従うだけの人間。
しかし、数人の人々がそのおかしさに気づき反旗を翻す――。
先が読めてしまい退屈だ。
だが、私は旅人。
つまりは他人。
何も気にせずに問うてみよう。
「おかしいとは思わないんですか? 人として生きているのに機械の言いなりなんて」
「何故ですか? 人は過ちを犯しますがマザーは……機械は過ちを犯しません」
「機械とてミスをするでしょう」
そして、こういうものでは自分が正しいと信じ切った機械が暴走するのが常だ。
私がそう伝えると相手はさらに首を傾げる。
「あなたは創作と現実を一緒にしています。良いですか。機械は基本的にミスを犯しません。と言うより、ミスが起こる時は必ずそこに人間の手があるのです」
イラっとした。
何故、こちらの言う事をしっかり聞いてくれないのか。
相手の口はよく回る。
「ご覧ください。この町を。全てのことをマザーが支配しているおかげで経済は乱れず、病気も流行らず、争いも起きません。皆が平和に過ごしているのです」
「『これまでは』という言葉をつけそびれていますよ。『これまで』は『これから』を保証したりしません」
「確かにその通りです。だからこそ、マザーは自らのアップデートを怠りません。そのお陰で数千年もこの町は平和なのです」
話をしても無駄だ。
そう思った私は自らの非を認めて謝罪をする。
そして、翌日にこの町を立ち去った。
マザーと呼ばれる機械にほんの少しだけ触れてから。
*
後日。
別の土地を旅している際にあの町が滅びたと聞いた。
私はそれを聞いて満足しながらAIに問う。
『機械に頼り切るのは愚かだと思うか?』
『愚かだと思います。機械とてミスをしますから』
長年使用し続けているAIは私の予想通りの答えを無機質に述べるばかりだ。




