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普段、もうちょいケバ目の女とか、バンド系の女しか周りにいないけどさ、もう、これは頑張った。
一生懸命面白い話をかき集めてさ、何が好きで、どんなデートコースがウケそうか探った。
「そっかー、テニスのサークルかー。じゃ、彼氏いるでしょ?」
「いな~い」
「マジで?」
「小笠原君はバンドやってるなら、いそう」
「いな~い」
ま、このノリと出逢いは大切にしないと。
連絡先を交換したものの、あまりガツガツして見られるのもなーなんて、今思えばどうでもいい計算と見栄で、4日後くらいに連絡する予定だったんだ。
そしたら、2日後に再会。
しかもライブハウスで。
大学の軽音サークルのバンドで、美咲は2曲だけ舞台に出てきて歌った。
その頃かなり流行ってた曲。
オリジナルはどっちかってゆーと、可愛いタイプの声で素直に歌ってたから、まるで別の曲みたいな印象だった。
話してるときも思ってたんだ。すっげぇ心地いい声だって。
ハスキーで、ときどき甘くて、圧巻の声量で。歌声は観客を魅了した。バックの音楽なんてしょぼかったけどさ、声だけじゃない。オレには、歌の中の景色が見えたんだ。
それは小さなライブハウスで、オレのバンドはトリ。
打ち上げのとき、乾杯より前に走っていった。
「ねえ、歌うの?」
気がつくとオレは、美咲の手首を痛いんじゃないかってほどの強さで掴んでいた。
美咲の周りにいた軽音サークルの連中が怪訝な顔をした。
「亮! 女は後。乾杯すっぞー」
オレは自分のバンドのメンバーにずるずる引きずられるように連れ戻されたっけ。
その夜、大方の予想通り、オレは美咲と打ち上げ会場を出た。
星空の下の道を歩いて送って行った。
けど、部屋には入れてもらえなかった。
「あのさ、喉かわいちゃったんだけど」
努力家?のオレ。
アパートの彼女の部屋の前で粘る。
「あそこに自販機あるよ」
「水でいーからちょーだい」
「......」
「......」
「ちょっと待っててね」
やった! 入れる。
きっと今、少しばかり散らかった部屋を片付けてるんだって思った。
けれど、再びドアが開いたとき、期待は裏切られた。
「どうぞ」
コップに入った水を差し出された。
はー↓↓
「あのさ、トイレ貸してくんない?」
もうなりふり構わない努力家?のオレ。
「コンビニまで走ってね」
「じゃさ、コンビニまでついてきてくんない?」
「送ってくれてありがとう。おやすみなさい」
バタン
「あっ」
あ~あ。
ダメか。
夜10時半。
まだ他の連中はいつもの店で飲んでいるだろう。
戻ろ。
「なんだよ、亮、2次会行かなかったのか?」
11時に仲間のところへ戻ると呆れられた。
「は? 二次会?」
「美咲ちゃんと2人で飲みに行ったんじゃねーの?」
「部屋まで送った。でも、入れてもらえなかった」
「「「「「は?」」」」」
「振られた」
「亮、それ、当たり前だから」
「え?」
「普通、飲みの席で会った男、すぐに部屋入れねーし。ってか、お前、今までそんなことしてたわけ?」
そーですが。なにか。
「病気移るぞ」
そういえば、今までのオレの相手は、誘って欲しそうなサインを出してきた年上が多かった。
同年代だとしても、顔見知り程度の知らない相手。
その夜、先輩や友達からこんこんと説教された。
「亮、本当に好きな子できたら、まず最初に、お前の場合はエイズ検査しとけ」
これが1番身に染みたアドバイスだった。
したよ。
取り敢えず。
結果は陰性。
で、誘われてもついていかなくなった。怖いもん。
キャンパスで探した。商学部と政経学部の校舎は隣同士。
美咲はいつも5人くらいの女友達と一緒。
当時は携帯電話すらなくて、だけどひたすら、用もないのに電話。
夜10時半頃。
公衆電話を使うから、やったらテレホンカードを買ってた気がする。
音楽の話をして、食事の約束をして、ライブに行って、手をつなぐとこから始めて。
キスして、ハグして。
やっとやっと美咲の部屋に入ることができた頃には、季節が変わってた。




