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君は我がすべてーーーAll The Things You Areーーー  作者: summer_afternoon


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8/33

「あれ、いい曲ですよね。歌詞も」

「ありがと」


歌詞の舞台は、当時まだ造成中だった横浜のみなとみらい。

街灯すらない夜。


あの時のみなとみらいは、まだ名前もなくて、ただだだっ広い、茶色の土が広がる場所だった。

深夜は車も人もいなかった。

所々に今にも動き出しそうなショベルカーがあって。

風だけが吹く荒野。


涼介が褒めてくれた歌詞は、サスペンスにぴったりの内容。

男が、他の男のところへ行く女を殺そうとする。

首に両手をかけて、白い喉を絞めていくとき、出会ったころや恋人同士だった情景を思い出していくというもの。

遠くに横浜の夜景を見ながら、土だらけの足元を見つめる。

最後は、これからできる街の幻想。


ドラマの舞台が横浜だったから起用されたのかもしれない。


「あの歌詞が、他の曲と違って、妙にリアルな気がするんです」


そりゃそーだ。

両手をかけたところまでは一緒だから。


「そう?」

「だから小笠原さんは、女の人を殺したいくらい、好きだったのかなーって思って」

「そんな気持ちになったことある?」

「ないです」

「涼介君ならならないだろーね。モテるだろ?」

「男子校で部活オンリーの生活です」

「ははは。あの学校、遊んでるヤツは遊んでるんだけどな?」

「小笠原さんはきっと、遊んでましたよね?」

「それなりに。でも、ちゃんと卒業した程度には勉強してたから、遊びっつってもほどほどだけど」

「本当に遊んでたら、留年するし、付属の大学行けませんもんね」


オレは付属の大学に進学した。ただ、大学在学中に1年留年。


「じゃ、ドライブでもすっか?」

「車ですか? 歌と一緒ですね」

「オレは初心に戻れるかもな」

「初心と今は違いますか?」

「今の方がマシ。あの歌作った頃は、人生投げてたから」

「じゃ、初心に戻っちゃダメじゃないですかー」

「ホントだ。はははは」


オレはジープ、グランドチェロキーのキーを取り出す。

自分でもおかしなことをしている自覚はあった。

昨日、偶然知り合ったガキとドライブなんて。


古いマンションには地下駐車場もなく、車はマンションの敷地内に停めてある。


涼介が助手席に座ったときにまた思った。

似てる。

だから、あの夜を思い出した。

あの女を殺そうと思った夜。



出逢いは合コンだった。


教育学部の可愛い系で、チアガールもいるらしいと聞いて参加したんだっけ。

チアガールは、大学でも美人でナイスバディ揃い。

ふらふらしてるオレなんか手に届くはずない存在。

たいてい、彼氏はラグビー部、アメフト部、野球部。

6対6のやや大人数の合コン。(チアガールがいることで、野郎の参加希望者が減らず、女の子には強引に数を合わせてもらった)


美咲がいた。


美咲はピンクのリネンシャツにデニム姿で、いかにも数合わせで急遽来ましたって感じだった。それでも垂涎もののスタイルは男達の目を捕えた。

はっきりとした顔立ち。緩いウエーブの肩までの髪。

一目惚れだった。


他の女の子達はかわいいタイプだった。だから、美咲を狙ったのはオレだけ。

つーか、オレが美咲狙いだって分かった時点で、他の奴らは遠慮してくれた。男同士の友情ってやつ。


「小学校の先生になるの?」


ま、話題はこの辺から。教育学部(女子)と商学部(男子)の合コンだから。


「私、政経なの。今日は友達に頼まれて」


この学校の政治経済学部は最難関。男子に混ざる優秀な女子は「ちょいダサい真面目」ってタイプが多い。


「へー。ひょっとして合コン初めて?」

「ううん。もう2年じゃん。さすがにそれはないよー」


心地いいハスキーボイス。

笑うと目が垂れる。

かわいい!

へー、寝転んだ三日月みたいな目になる。


もっと笑わせたいと思った。

頑張ったよ、オレ。


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