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「あれ、いい曲ですよね。歌詞も」
「ありがと」
歌詞の舞台は、当時まだ造成中だった横浜のみなとみらい。
街灯すらない夜。
あの時のみなとみらいは、まだ名前もなくて、ただだだっ広い、茶色の土が広がる場所だった。
深夜は車も人もいなかった。
所々に今にも動き出しそうなショベルカーがあって。
風だけが吹く荒野。
涼介が褒めてくれた歌詞は、サスペンスにぴったりの内容。
男が、他の男のところへ行く女を殺そうとする。
首に両手をかけて、白い喉を絞めていくとき、出会ったころや恋人同士だった情景を思い出していくというもの。
遠くに横浜の夜景を見ながら、土だらけの足元を見つめる。
最後は、これからできる街の幻想。
ドラマの舞台が横浜だったから起用されたのかもしれない。
「あの歌詞が、他の曲と違って、妙にリアルな気がするんです」
そりゃそーだ。
両手をかけたところまでは一緒だから。
「そう?」
「だから小笠原さんは、女の人を殺したいくらい、好きだったのかなーって思って」
「そんな気持ちになったことある?」
「ないです」
「涼介君ならならないだろーね。モテるだろ?」
「男子校で部活オンリーの生活です」
「ははは。あの学校、遊んでるヤツは遊んでるんだけどな?」
「小笠原さんはきっと、遊んでましたよね?」
「それなりに。でも、ちゃんと卒業した程度には勉強してたから、遊びっつってもほどほどだけど」
「本当に遊んでたら、留年するし、付属の大学行けませんもんね」
オレは付属の大学に進学した。ただ、大学在学中に1年留年。
「じゃ、ドライブでもすっか?」
「車ですか? 歌と一緒ですね」
「オレは初心に戻れるかもな」
「初心と今は違いますか?」
「今の方がマシ。あの歌作った頃は、人生投げてたから」
「じゃ、初心に戻っちゃダメじゃないですかー」
「ホントだ。はははは」
オレはジープ、グランドチェロキーのキーを取り出す。
自分でもおかしなことをしている自覚はあった。
昨日、偶然知り合ったガキとドライブなんて。
古いマンションには地下駐車場もなく、車はマンションの敷地内に停めてある。
涼介が助手席に座ったときにまた思った。
似てる。
だから、あの夜を思い出した。
あの女を殺そうと思った夜。
出逢いは合コンだった。
教育学部の可愛い系で、チアガールもいるらしいと聞いて参加したんだっけ。
チアガールは、大学でも美人でナイスバディ揃い。
ふらふらしてるオレなんか手に届くはずない存在。
たいてい、彼氏はラグビー部、アメフト部、野球部。
6対6のやや大人数の合コン。(チアガールがいることで、野郎の参加希望者が減らず、女の子には強引に数を合わせてもらった)
美咲がいた。
美咲はピンクのリネンシャツにデニム姿で、いかにも数合わせで急遽来ましたって感じだった。それでも垂涎もののスタイルは男達の目を捕えた。
はっきりとした顔立ち。緩いウエーブの肩までの髪。
一目惚れだった。
他の女の子達はかわいいタイプだった。だから、美咲を狙ったのはオレだけ。
つーか、オレが美咲狙いだって分かった時点で、他の奴らは遠慮してくれた。男同士の友情ってやつ。
「小学校の先生になるの?」
ま、話題はこの辺から。教育学部(女子)と商学部(男子)の合コンだから。
「私、政経なの。今日は友達に頼まれて」
この学校の政治経済学部は最難関。男子に混ざる優秀な女子は「ちょいダサい真面目」ってタイプが多い。
「へー。ひょっとして合コン初めて?」
「ううん。もう2年じゃん。さすがにそれはないよー」
心地いいハスキーボイス。
笑うと目が垂れる。
かわいい!
へー、寝転んだ三日月みたいな目になる。
もっと笑わせたいと思った。
頑張ったよ、オレ。




