*
シャワーを浴び終わって髪をガシガシ拭いていると、玄関のチャイムが鳴った。
オートロックでも何でもない古いマンション。
405号室のドアの向こうに誰かがいるってことを示す。
急いで体の水滴を拭って、ハーフパンツを身につけた。
「はい」
ドアの小さな穴から確認すると、ケンだった。
ガチャ
「おはよ。ケン、どーした? 入って」
「-っす。亮ちゃん」
ケンをリビングに通す、と、、、
「え? マジで?!?」
小声で呟いたケンが、オレのすぐ脇に戻ってきて、裸の上半身をジロジロを眺める。
?
それから耳打ち。
「未成年に手ぇ出すのはマズいだろ」
「は?」
持っていたタオルを落としそうになった。
「んなわけねーじゃん!」
「じゃ、なんで昨夜のガキが亮ちゃんの部屋にいるんだよ。で、亮ちゃん、シャワー浴びてんだよ」
ケンは至って真面目で真剣な顔。
で、昨晩の説明。
「なーんだ。そーゆーことかよ。あーびっくりした」
リビングのソファにケンと涼介が並んで腰掛けている。
「オレは生粋の熟女好きだ」
「いやー。最近はとんとご無沙汰みたいだったから、てっきり」
「こら、ケン。高校生の前だぞ」
「大丈夫ですよ。高校生なんですから」
涼介はくすくす笑う。
おいっ。お前も疑われたんだぞ。怒れ。
「で、ケンは?」
「ああ、オレ、ブドウがいっぱい送られてきたからさー。おすそ分け。潰れるといけないから、持ってきてやった」
「おー、サンキュ。いただきます」
「じゃ、オレ、仕事行くわ。今日は、おばさんの歌聴かなくちゃいけねーからさ」
ケンはブドウの箱を置くと、仕事に。
「はー。悪かったな。勘違いされてさ」
「あはは。いえ。はは」
「この業界、世間一般よりそーゆーの多めだからさ」
「やっぱ、そーなんですか?」
冷蔵庫の扉を開け、ペットボトルの水を飲む。
ん。酒は抜けてる。
涼介は部屋の中を壁伝いにゆっくり歩きながら、モノクロの写真や本の背表紙を見ていく。
「ちゃんと防音室があるんですね。ピアノもあって」
部屋の一角に、防音ガラスで仕切られたコーナーがある。その中には、ピアノ、キーボードがあって、作曲するとき楽譜を書く小さなテーブルもある。
オレがサックスの練習をする場所。
ブドウを冷蔵庫に片付けながら「ああ」と答える。
バンドの曲の8割は、オレが作詞作曲。
まあまあのヒット曲は4年に1回くらい。オリンピック並み。
それでも、ドラマの主題曲やCMに使われたりって程度の曲は、1年に1曲はある。
今はコンサートツアーシーズンの中休み。この時期は大学祭やイベントが多いから、関東周辺から出ないスケジュールが組んである。
「あの部屋、入ってみていいですか?」
「どーぞー」
「すげっ......」
防音扉を閉めてしまったから、涼介が何を話しているかは聞こえない。ただ、目をきらきらさせてこっちを向いてるのはわかる。
かわいーヤツ。
息子ってさ、こーゆー感じ?
今度、ケンに聞いてみよう。
24歳でできちゃった結婚をしたケンには、大学生の息子がいる。
息子かー。
結婚すらしていないオレには夢のまた夢。
オレはこのまま、ずーっと同じような毎日を暮して、死んでいくんだろうなって時々思う。
サックス吹いて、バーボン呷ってさ。
5畳ほどの防音部屋に入っていくと、涼介はボンゴを叩こうとしていた。叩き方を教える。
「そうそう、そんな感じ」
ポン ポン
「いーじゃん。速くして」
ポン ポン ポン ポンポン カスッ
「あれ?」
「はは。空振り? 貸してみ?」
ポン ポン ポコポコポコポコ ポン ポン ッポ ッポ
「すげー」
「一応、これでメシ食ってるんで」
ポン ポン ポコポコポコポコ ポン ポン ッポ ッポ
「さっすが」
「ブラバンじゃねーの?」
オレ達のバンドのファンは、圧倒的にブラスバンドをやってるヤツが多いから聞いてみた。バンドの構成は半分以上管楽器。




