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朝食後、ガキが学校へ行くのと一緒にお暇させてもらった。
やっちまった感、半端ねー。
帰り際、立派な門を見ると「二階堂」と表札に書かれていた。
え?
「君、二階堂ってゆーの?」
「はい。そういえば、昨日、自己紹介していませんでした。二階堂涼介です」
二階堂だって? まさか。
いくら似てたって。
あいつが嫁に行ったのは、神奈川4区のはず。
ここは東京都だ。
「小笠原亮です」
「分かってますよー」
できた高校生、涼介は、またあいつと重なる笑顔を見せた。
「もう一度改めて、お礼に来たいんだ。それに、二階堂君とも友達になりたいから、連絡先教えて」
「連絡先は是非、小笠原さんのも知りたいです。誰にも教えませんから。でも、お礼なんていいですよ」
「それだけはさせてくれよ。真夜中に見ず知らずの男を泊めてくれたんだから」
「そーなんですか?」
お互いの連絡先を交換した後、涼介が言った。
「僕、小笠原さんと同じ高校なんです。だから、今日、小笠原さんの時間が許すなら、一緒にいたいなって思うんですけど」
きゅん
なんつーかわいいこと言いやがるんだ。
(寂しい)オジサンは一発KO。
遥か昔通ったオレの母校は、ゆる~い感じの大学の付属高校。やることやってれば、授業に出なかろーが、金髪にしよーが、私服で登校したっておとがめなし。
自由な校風。
「へー、あの高校なんだ。予定、3時から」
「あの、いいんですか?!」
「おう。こちらこそ。でも、その前にシャワーと着替えに部屋行っていい?」
「やったー!」
涼介は両手をグーにしてガッツポーズ。
こんなに素直に喜ぶなんて、すっげかわいい。
オレさ、女にこんなこと言われると面倒くさいのに、なんでこんなにウキウキしてんだろ。
これって、休日を息子と過ごすおとーさん的な気持ち?
「オレのマンション、こっち」
東京を網の目みたいに張り巡る地下鉄を乗り継いで、オレのマンションに到着。
「こ......こ?ですか?」
ま、そんな反応だよな。
「そ。意外?」
「はあ......」
だよな。
オレは売れる前から同じマンション。20代から同じところに住んでるわけで、その頃だって新築じゃなかったから、マンションはかなり老朽化している。
名の知れたミュージシャンは、大抵もっといーとこ住んでるからさ。
「気に入っててね。ただ、本当に古いから、天井が低いけど。二階堂君も背が高いから、気をつけて」
「あ、涼介でいいです」
「涼介君」
気に入ってるとか、そんな理由で長々といるわけじゃない。
ここから出られないんだ。
あいつが帰ってくるかもしれないから。
動くときにガコンと揺れるエレベーターで4階へ。
405号室の鍵穴に鍵を入れて回すとき、406号室を見る癖が治らない。
もう、とっくの昔にいないのに。
ガチャ
「うわーぁ。これがミュージシャンの部屋なんだー」
オレの部屋に入って、まず深呼吸をする涼介。
「別に男臭いだけだろ?」
「部屋の芳香剤の匂いがします」
「はははは」
中は1年前に2回目の改築済。
「その辺で、適当に。テレビ点けても、オーディオ点けてもOK。飲み物は冷蔵庫。コップはあの辺にあるの使って」
「はい」
オレは涼介をリビングに残し、下着を取りにベッドルームの扉を開けた。クローゼットから下着を取り出すときに目に入るクイーンサイズのベッド。
未だに使い続けている。
自分の女々しさを再認識し、自己嫌悪に陥る。
こんなにも意識してしまうのは、涼介があいつに似ているせいだ。おまけに苗字まで「二階堂」。
シャワーだ。
頭ん中もさっぱりしよう。
少し熱めの湯にしてシャワーを浴びる。
それにしても、昨日、なんであんなに飲んだんだろ。
後悔。
高校生のガキに酒勧めるなんて、週刊誌ネタじゃん。




