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「へー。たまには夜出歩くことあるの?」
「学生時代や仕事してた頃の人と会うとか、僕の学校のPTAの打ち上げくらいです」
「主婦なんてそんなもんだろ」
「でも、なんか楽しいことあるのかなー?って思うんですよ」
ふっと美咲が涼介のことを話す嬉しそうな顔が頭に浮かんだ。
「涼介君の成長だろ」
「こんなんに?」
自分を指さす涼介。
「『涼介がいればいい』って言ってた」
「母に会ったんですね!」
ミス。
「まあ、何回か」
「でも、出かけてた感じしなかったけど」
「会うって言っても、ま、こんな風に食事できたことすらないけど。忙しいから」
「そうなんですか。僕なんて、相当遊んでもらったのに」
「いやいや、こちらこそ。涼介君との方が気兼ねなく、ゆっくり会えるな」
最後にオレンジジュースをおかわりする、オレ。
「もし、もしだけど。つき合うことになったら、涼介君の家にご挨拶に行くよ」
「え? どーしてですか?」
「結婚してる人だから」
「もう、相手はとっくにいないのにですか?」
「大人は難しいんだ」
「僕なんて、彼女の家に挨拶してからつき合うなんてしてませんけど」
「彼女いるんだ?」
「ああ、えーっと。まあ」
へー。照れてる。日に焼けた顔を赤くする涼介。
「写真ある?」
「えええっ?!」
「見せて見せて」
「えーっと」
スマホでデータを探しているらしい。
「どこで知り合った? 男子校なのに」
「中学のとき、塾で一緒だったんで」
「お、かわいーじゃん」
なんかいーなー。
「K女なんです」
「女子高かぁ。へー。ライブのチケット、家族分渡したけど、追加しようか?」
「いえ。祖父母は行くらしいんですけど、母は行かないみたいで、母の分のチケット彼女にもらったんです」
「来ないのか」
「あ、すいません。なんか、自治会の敬老会の手伝いがあるらしくて」
「いろいろあるんだな」
「ご馳走様でした。美味しかったです」
「いえいえ」
「お土産ありがとうございます」
「また、メシでも一緒に食おう」
涼介との食事、約1時間半。
9時か。帰ろう。誰もいない405号室へ。
『涼介君に京都土産渡した』
『ありがとう。お世話になります』
『つき合っていい?って聞いたら、いいって』
『どうして勝手にそんなこと言うの! 私、涼介にどんな顔すればいいの?!』
『つき合おう』
『会うだけ』
『わかってる』
キスとハグはしてもよさそーだし。
おっと。今、自然に顔ニヤケてたよな。
2日後、最寄り駅のロータリーへ車を寄せる。
「おはよ」
「迎えに来てくれてありがとう」
車に乗り込むと「生八つ橋美味しかった。ごちそうさま」って。
美咲はスエット素材の紺色のワンピースにグレーの厚手のカーディガン。足元はブーツ。草むしりのときとは違い、女っぽさが艶やか。
「マンション古くなったよ。外壁の色変わったし。結局、オレ、あそこの部屋買ったんだ」
「買ったの? 古いのに」
「大家に買ってくれって言われた」
助手席で美咲が笑う。
懐かしの405号室へ案内する。何年かぶりに、鍵を回すとき、406号室を見なかった。美咲がいるなら見る必要なんてない。
『おかえり、美咲』
「ぜんぜん違ーう。改築した?」
「もう2回改築した。ドアの高さ変えたら、頭ぶつけなくなった。構造上、無理なとこもあったけど」
「ふふふ。家でも涼介がよくぶつけてる」
2人てソファに埋もれて、DVDを見た。
DVDの中の涼介は、よちよち歩いたり、お遊戯会で踊ったり、運動会で女の子の声援を浴びながら走ったりしていた。
美咲はオレの胸にもたれたままはしゃいで。オレは美咲の鼻をつついて、髪を触って。
美咲の胸に手をやると「もうペタンコだよ」と言われた。
「変わるの?」
「涼介が吸ってなくなっちゃった。歳取ったし」
そーゆーもんなんだ。
「ベッド行こ」
結局我慢できず、美咲を寝室へ連れて行った。クイーンサイズのベッド。あの頃と同じ。
「あんまりにオバサンで、もう会いたくなくなるかもよ?」
この期に及んで僅かな抵抗を見せる美咲の口を唇で塞ぐ。
今でも綺麗なままじゃないか。




