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「よ、お待たせ」
「いえ。ぜんぜん待ってないです」
近くのライブ会場と同じビルにあるレストランに入った。
「すっげー。大人の店」
「そーでもないって」
「でも、なんか、社会人ばっか」
値段的にも、ガキ相手じゃない店。別にコーヒーショップで京都土産を手渡してもよかった。でも、聞きたいことがある。
「メシ、つき合えよ。家にある?」
「大丈夫です。2食くらい食べられます」
「ははは。オレの若い頃と一緒」
自分で言っておいて、はっとする。ニアミス。
「こーゆーとこ、よく来るんですか?」
「ここは仕事の打ち合わせとか、上で友達がライブやったときに打ち上げで使ったかな」
「かっけー、業界って感じですね」
「かっけー? オレにしてみりゃ、涼介君のお祖父さんが利用してそうな料亭とかの方がかっけーけど」
「どーなんですかね。僕が知ってるのは、家にいる姿だけなんで」
涼介は学ランを脱いで背もたれにかける。
白いYシャツに日焼けした顔。こんなにも日焼けして、髪も少し明るくしてパーマかけてるのに、こいつ、チャラく見えないんだよなー。はっきり言って、モデルができるくらいカッコいい。
今日もピシッと背筋を伸ばし、水が運ばれてくると「ありがとう」とウエイトレスに軽く言う。好少年。
「ほい、土産。ありきたりだけど」
「ありがとうございますっ」
息子だと思うと、ただのファンとは違うことが気になってくる。
高校の志望動機なんて聞いてしまったり。
「この高校、モテるって聞いたんです。制服やバッグ見ただけで女の子がついてくるって」
なーんだ。オレと一緒じゃん。中学生のときに考えることなんて、男はみんな同じ?
「でもさ、入るのは結構大変だろ? 勉強頑張った?」
「そこそこ頑張りました。祖父や母には『ちっとも勉強しない』って言われてましたけど」
「はははは。お母さんは、本当に勉強家だったからなー」
ああ、またついニアミス。
「母のことをいつから知ってるんですか?」
「......あんまり言うと、怒られそうだけど。大学時代」
「一緒ですもんね、大学」
「知ってた?」
「はい。小笠原さんの出身校はウィキペディアに載ってました」
「あれ、何でも載ってるもんな」
ガーリックトースト、オレンジジュース、サイコロステーキ、サラダ、パスタ。テーブルはいっぱい。男2人だから次々と皿が空いていく。
話の方向が美咲に向いたところで、緊張が生まれる。
言おう。宣言するんだ。
「あのさ、涼介君」
「はい」
「その、涼介君のお母さんと」
「はい」
「つき合ってもいいかな?」
「もちろんですっ」
「いや、そんなに大きな声ださなくても」
「すみません」
「まだ、そんな、ただのメル友くらいで。あっちにそーゆーつもりはないかもしれない」
「母を幸せにしてください」
「寛大だな」
「どうしてですか?」
「母親って、自分にとっては"女"って生き物に思えない年頃だろ?」
「そんなことないです。小笠原さんの歌詞を見て、母が小笠原さんの曲を聴いてて、離れてるなんて不自然だと思いました」
オレが父親だって知っているからだろう。
「まあ、なるようにしかならないけど、な」
「週刊誌ネタになったりするんですか?」
「ならないならない。オレなんて名前知れてないし、ジジイだから。アイドルか俳優、著名人限定だから、あれ」
涼介はサイコロステーキを頬張りながら、嬉しそうに頷いている。
「母って、ぜんぜん遊ばないんです。勤めてないからってのもあるけど、夜出歩くことなんて殆どなくて。家のことばっかりして、自分がやりたいことなんて、何もしてこなかったんじゃないかなって思って」




