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こんな風に話してるだけで、楽しいけど、時間はどんどんなくなっていく。もうコップは空。
「出よう」
「うん」
人気のない平日の植物園。
そっと手を繋いでみた。
ぱっと振り払われる。
「私たち、オジサンとオバサンなんだよ」
「誰もいない」
指を絡ませる。逃げられないように力を込める。
人目なんか気にするなよ。
世間なんか気にするなよ。
どーでもいい、そんなん。
「あ、まだバラが咲いてると思う。秋のバラは10月ごろ咲くから」
「もう11月じゃん」
「結構長い間咲くの」
小学校のとき駆け回った植物園は、もっともっと広大だと思ってた。
鬱蒼とした木々が生い茂る小道に入る。
「確か、この道も向こうの方へ続いてるんだったよーな」
言いながら、狭い道で美咲との距離を縮める。
「歩きにくいよー。この道」
「なんでカカト高い靴履いてんの? 草むしりなのに?」
「車降りるときに履き替えたの」
ちょっと嬉しい。それって、オレを意識してるってこと?
誰もいない。
キス。
「びっくりしたー」
「ん?」
ニヤッと笑って美咲を見る。案の定赤い顔。
抱きよせる。
抱きしめる。
「いつ、オレの部屋来れる?」
「『会うだけ』って言ったのに」
説得力に欠ける。抱きしめられたまま言っちゃってさ。
「部屋で会うだけ」
「......」
ダメか。
「一緒に涼介君のビデオ見よ?」
「うん」
やった。
「いつ? あ、スケジュール帳、軽トラん中だ」
「私はいつでも大丈夫。お昼ご飯は義母に任せてるから」
ゆっくり体を離す。
「草むしり的な仕事は?」
「時間の融通は利くから、大丈夫」
「奥様のランチは?」
「そんなに毎日ランチしてないよー」
すっげー嬉しい。
「じゃ、スケジュール帳、車だから」
出口方面へ向きを変える、オレ。
「亮、バラ見ようよ」
「あ、忘れてた」
笑ってるし。
笑ってろよ。
それだけでオレが嬉しいんだ。
バラは、まあ、バラ。
興味ねー。
「義母がバラが好きなの」
「ああ、そーいや、朝飯ご馳走になってるとき、ソファでバラの本見てたっけ」
「玄関周りは和風だけど、裏の庭はバラがたくさんあるの。本当は洋館に住みたいんだって」
「ははは。あの家で、うまくやってるんだな。美咲」
「うん。恵まれてる」
噴水の横、バラの天井の下でキスした。
欲張りになる。キスじゃ足りない。時間は16時5分前。
「帰るか」
「うん」
2人で駐車場。スケジュール帳をにらむ。
「ぎっしり」
空いていない。やったら忙しい。CD発売前後ってこうなんだよなー。
「あらら。ヨーロッパツアーとか行くの」
「年明け。あー年末までは、土曜は全部ライブだなー。この辺りは平日も。あ、別のバンドのライブも入ってるし。ライブ用の編曲もしないとなー」
「すごいね」
「あ、午前中だったら、空いてるとこある」
「そーなの?」
「メンバー全員おっさんだから、でかいライブって結構きついんだよ。だから体力回復のために」
「ライブ会場が大きいところばっかり」
「午前中だったら、ここら辺とここら辺が東京にいるかな。何時から来れる?」
「10時くらいには家を出られるかな。1日くらいなら、もっと早くても大丈夫」
「逢える時間、全部逢いたい」
本当は一緒に暮らしたい。
軽トラから降ろしてもらった場所は、仕事仲間のオフィス前。京都土産を渡しつつ、軽く打ち合わせ。
時間を作って、涼介に会わないと。京都土産も渡したい。美咲に託けようとしたら、直接渡してと断られた。生八つ橋。
『京都土産を渡したいんだけど。会えますか?』
即、返事が返ってきた。
『嬉しいです! 部活は18時までです。片付けや移動も含め、19時半以降なら、どこでも大丈夫です!』
美咲よりも涼介との方が簡単に会えそうだ。高校生とつき合う方が楽なんだろーなー。涼介が息子で良かったよ。娘だったら、未成年との援交と思われて、犯罪者だったよなー。
涼介と待ち合わせたのなんて、渋谷のレンタルCD屋。なんて簡単に便利な場所で会えるんだ。




