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いつもの店、いつもの席。ライブハウスのカウンター。
ライブをする空間とは少し離れた位置にあり、BGMとしてライブを聞きながら酒が飲めるようになっている。
「上手いな、今日のバンド」
「センスもいーし。商売敵になりそう?」
聴こえてくるのは、ジャズとロックの間くらいの音楽。ノリがいいせいか、若者のオーディエンスが多い。
「ちょっと被るかも。でも、大丈夫っしょ」
45歳のオヤジがいるオレのバンドもこの手のタイプ。
結構大人数。
バンドメンバー各々は、ジャズ好きが多い。
でもみんな、そこら辺は割り切って、好きなジャズは別のバンドでやってたりする。
まあ、ジャズってゆーのは、かなりのとこまで行かないと、食っていくのが難しいって世界。
オレ程度じゃ、とても儲けるメンバーまで上り詰めることは不可能だ。
「失礼ですが、小笠原亮さんですか?」
振り向けば、白い襟のストライプのシャツに紺のカーディガンを羽織った若者が立っていた。
「そうだけど」
「僕、ファンなんです」
大学生くらいに見える、いかにも育ちの良さそうなボンボンタイプ。
髪は茶色でくるくるして、顔は服装と不釣合いな日焼け、オレと同じくらい長身。
似てる。
驚きのあまり瞳孔が開いた。
目、鼻、口元、微笑んで少し首をかしげる仕草。
「座る?」
ガキに隣の席の椅子を勧めた。
「いいんですか? 失礼します」
ガキは物怖じもせず、嬉しそうに腰かけた。
「何がいい? バーボン?」
「い、いえ、そんな。未成年なんで」
「堅いことゆーなって」
ケンが横からちゃちゃを入れる。
「じゃ、ノンアルのものを」
「よっしゃ。いーねー、いーねー」
そのガキは、カウンター席で飲むのに、妙に姿勢が良くて、店の景色に違和感が生まれる。
でも、そんなことどーでもよくなるくらい話が盛り上がった。
「次のコンサートも行きます!」
「是非来てくれよ」
やっぱり似ている。
ガキはオレの左側に座った。
あいつも、いつもオレの左側にいたんだ。
長めのまつ毛が、薄暗い照明の中で陰影を深くする。
ああ、笑うとこんな風にきゅって唇の端が上がるんだ。
「会えるなんて思ってなかったから、感激です」
「そんな喜んでくれるなんて、嬉しいよ」
多少、カッコつけて紳士的に話す。
一応オレ達のバンドは、大人の男集団ってイメージだから。
ちょっと遊んでる風で、ちょっと女好きで。
こんなに有名になる前は、メンバー全員よくファンに手ぇ出してた。
「ライブのオープニングの曲、好きなんです」
笑って目が垂れると、マジ似てる。
「ありがと」
「これから踊るぞ!盛り上がるぞ!って思うんです」
笑いながら首を傾ける仕草、耳の形。
些細な動作で揺れて顔にかかる髪。
思わず体が動いていた。
カウンターに右手で頬杖をついたまま、ガキの髪を左手の人差指と中指で、すっと耳に。
!
オレ、何やってんだ?
思わずしてしまったオレの動作に引いたのかもいれない。
「じゃ、オレ、先帰るわ」
ケンは半分呆れて先に帰った。
「似てる」と思いながらも、変なことしないように気をつけて話した。
すっげーバンドや音楽のこと褒められて、オレのバンドが出した、20枚以上のCDを全部細かに感想言ってくれてさ。
もー、嬉しくて嬉しくて。
こんなに濃いファン、久しぶりで、酒が旨い旨い。
気分⤴⤴
「はははっはは。君はなんていーやつなんだ!」
「いえ、大好きなだけです」
「気に入った。ライブ永久フリーパスにしよう!」
「ええっ! 本当ですか?」
「ははははは」
バーボン呷る呷る。
で、潰れたらしい。
歳かな。
弱くなったよなー、酒。
朝目覚めたら、床の間のある八畳間だった。
「んー」
あれ?
えーっと。
原作では未成年が飲酒しております。まだ、そういった規制の緩い時代に書いたものです。
その部分を修正しましたので、かなり気に入っていた部分、
「で、潰れたらしい。
ガキじゃなくて、オレが」
を変更しました。




