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「あ、ねえ、亮って背高いじゃん」
「いきなり何?」
「あの枝、届く?」
「どれ?」
軽トラを下りて見れば、道路に出っ張ってきている、折れかけの枝。
「荷台の上に乗れば。でも、結構太いから、折るのは無理かも」
木の枝は、乾燥させた日曜大工の木材とはわけが違う。
「大丈夫。のこぎりあるから」
ごりごりごりごり ぎこぎこぎこぎこ
オレ、何やってんだろ?
「ほい。切ったどー。でかっ」
3メートルくらい。枝も葉っぱもついてボリュームたっぷり。軽トラに積めるように、更に切ってやった。
ごりごりごりごり ぎこぎこぎこぎこ
「ありがとー。助かったー」
「いえいえ」
って、オレ、何やってんだ? すっげー逢いたくて、逢ったら抱きしめてやろうって思ってたくらいなのに。
「どこかお店でお茶する? 亮、見られても平気?」
「オレは大丈夫。美咲が気にするなら、ちょっと遠くへ行く?」
「この軽トラで?」
「あ、そっか」
「あ、じゃあ、植物園行かない? 平日は人がいないの。確か喫茶店もあったはず」
人が少ないところを選なきゃならないなんて。
やっぱり世を忍んでるんだよなー。
「植物園かー。小学校以来。オレ、あそこで写生した」
「小学校のころなんて、忘れてるよね?」
「あ、涼介君って、小学校の時、すっげー可愛かったな」
「写真見た?」
「見た見た」
1週間前に逢ったとき、アルバムを3冊とDVDを20枚渡された。アルバムの方だけ見た。DVDは忙しくて観ていない。
涼介がいかに可愛かったかを話題にしているうちに、植物園に到着。
植物園内の喫茶店に入った。
テーブルを挟んで向き合って座る。
テーブル、邪魔だな。隣に来てほしい。本当は膝の上。
「ライブのテレビ中継があって、ラッキーだったね」
「すっげータイミングで。CD売れるかなー」
「すごい人になっちゃったね。亮。プロになるなんて、本当に一握りなのに」
「そうだよなー。1曲で終わらなかったのに、自分達が1番驚いたかも」
「もともと実力あったもんね。みんなが知らなかっただけなんだよ」
嬉しいことを言ってくれる。
「はは。さんきゅ」
「ね、ビジュアルでも売ろうとしてるの?」
「は? なんで?」
「涼介の友達のお母さんたちとランチしてるとき、話題になってたの。うーんとね。写メもらったから、ちょっと待って」
美咲がスマホで何かを探す。
「あった。ほら、もう、お母様達『ステキ♡』って」
スマホの画面にはシーツ男と腹筋チラ見せ男。
「は? 若いねーちゃんじゃなくて、美咲の周りが?!」
声に出してから「シマッタ」と思ったけど、セーフ。
「そーなの。アラフォー、アラフィフ世代が。亮と徳さんも話題になってたよ。『大人の色気があってステキ』って」
「え? オレって『大人の色気』で徳さんに並べるの?」
マジ嬉しいんですけど。
「見た目は。ほら、みんな知らないから」
どーゆー意味だよ。それ。
「ま、あいつらも脱いだ甲斐があったって?」
「そーみたい。お嬢さんが買った雑誌に載ってたんだって。ほら、私たちの世代は、もう、あーゆー女子力アップみたいな雑誌は読まないじゃん」
「そー?」
会話は楽しい。
美咲といるだけで楽しい。
「お嬢さんもね『サッカー選手もいいけど、こっちもアリかな』って言ってたって」
「どんだけ上から目線なんだよ。で、オレら、そんなスゲーレベルでビジュアル面戦えねーし」
でも、どうしても視線が唇、首筋、ブラウスの襟元、胸と彷徨ってしまう。
高校生のガキかよ。
「ふふ、あははは」
どきっ
まただ。胸に痛みが走る。
寝転んだ三日月みたいな目。
オレ、どうなっちゃってるわけ?
今時の中高生より清らかなこのデート。
高校生だったら、門限は22時とか? 20時でも21時でもいいよ。主婦の門限は夕食の準備前。美咲は4時半⤵⤵
オレは独身で美咲は未亡人で、何の問題もないはずなのに。
あれ?
面倒くさい思いをしてまでつき合いたくなかったよな、オレ。
すっげぇ面倒くさい女じゃね? 今まででダントツに面倒くさい女。




