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位置情報から一番近い駅で降り、タクシーでスマホの地図を見せた。
「あの、ココへ行ってほしいんですけど」
「はい。えーっと。分かりました」
8分ほどで、タクシーは木々が生い茂る坂道に差し掛かる。
あ、写真の白い自治体指定のビニール袋の山!
「ここです。ここでお願いします」
オレはタクシーから降りた。
どこ? ここ。もし美咲に会えなかったら、オレ、帰れないかも。
民家はあっても人が出歩いていない。
辺りを見渡す。
ん? まさか、あれ?
しゃがみこんで、鎌を片手に草むしりをしている人がいる。
季節外れの実用的な麦わら帽子。首にタオル。青いダンガリーシャツ。軍手。
そっと近寄ってみる。タオルと帽子で顔が見えにくい。
あ、やっぱり美咲だ。荷物と楽器ケースを脇に置いて、でかいビニール袋に、刈り取ってそのままになっている草を入れていく。
「あ、ありがとうござい、まっ! きゃ~」
オレに気づいた美咲は、とっさに身を縮めてタオルで顔を隠す。
「きゃ~ってなんだよ。きゃ~って」
「こんにちは。どーしたの? こんなところへ」
美咲はタオルで顔を隠したまま話す。
1週間ぶりに会えたのに、どーよ。このつれなさ。
「京都から戻った。途中、名古屋のテレビ局寄ったけど」
「おつかれさま」
きゅん
うっわー。妻帯者って、こんな言葉いつも言われてるんだろーなー。
「ただいま」
へへ。言ってみたかったんだ。
「なんで抜き打ちで来るの?」
へ?
「『抜き打ち』って何だよ。『抜き打ち』って」
逢いたくて逢いたくて飛んできたのに。
「誰にも会えない恰好してるの。お化粧も近場バージョンなの」
「そんなん今更。オレの前ではスッピンだったじゃん?」
「何年前の話? 20代と今は、お肌が違うの」
「いーから、顔見せて」
「だって、亮は、業界の毛穴のない人たち見てるんでしょ?」
は?
「毛穴がない?」
「テレビの人達って、毛穴ないもん」
「もー、いーから、そんなん」
美咲のタオルをひったくる。
あ、ほっぺたと額に泥付いてる。はは。
ひったくったタオルで泥を拭いてやった。
「軍手で汗拭いたろ?」
「うん」
「草むしり、まだかかる?」
「ううん。もういい。もう腰が限界。続きは明日にする」
「お茶でも飲まない?」
「そーする」
美咲は鎌を片手に立ち上がって伸びをした。
さっきまで男か女かも年齢も分からなかったけれど、デニムに包まれた脚は長くて、背が高くて、やっぱりスタイルがいい。(歳の割には)
ビニール袋の口を閉じ、軽トラに近づいていく美咲。
あれに乗ってるわけね。
お邪魔した広いお屋敷のいたいどこに軽トラがあったんだろう。想像しにくい。
「待っててね」
軽トラをビニール袋の山の所まで移動させる。
たぶん、この草がいっぱい入ったビニール袋の山を積むんだろうなー。
オレは、ぽんぽんと軽トラにビニール袋を積んでいく。
「ありがとー。意外と重いから助かるー」
ビニール袋を積み終えると、オレは軽トラの助手席に。
顔がちょい濃いめのガテン系だから、オレ、軽トラ、似合うんだよなー。
「ちょっと向こう向いてて」
「なんで?」
「お化粧直す」
「はい」
素直に待つ、オレ。
な~んかな。
感動の再会とまでは行かなくても、もうちょっと、こう、しっとりした大人なさ、あるじゃん。
「お待たせ」
化粧直しが終わったらしい。
くるっ
帽子被ってない。セミロングの緩いカーブの髪。タオルもない。ダンガリーじゃなくて、白のブラウスと白のカーディガン。
「着替えもしたの?」
「ううん。カーディガンに変えただけ。帰りに買い物に行くつもりだったから」
「別にさっきのカッコでよかったのに。っぷ」
つい吹き出してしまった。
ギロッ
「ごめんなさい」
睨まれちまったから、すぐ謝る、オレ。
がたがた揺れながら軽トラが進む。




