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ずるずるラーメンをすすりながら、徳さんが話し出す。
「小さな男の子抱えてたよ。オレが行ったのは、東京のでかい家でさ。そこで暮らすって言ってた。黙っててごめんな。亮」
「いえ。ありがとうございます」
「でさ、亮は『会ってない』って思ってるかもしれないけど、美咲ちゃんは会いに来たんだ。亮が病院運ばれたとき」
「え?」
あいつが?
結婚して10日目に?
「ケンが連絡したんだよ」
「ケンが?」
「いつも完璧な、あの美咲ちゃんが化粧もしないで、病院にタクシー乗り付けて。オレ、廊下で『二度と亮の前に現れるな』って怒鳴ってさ。そしたら美咲ちゃんが泣くんだよ。『顔見たら帰るから』って。『亮の意識が戻る前に帰るから』って。『ごめんなさい。ごめんなさい』って」
「……」
箸が止まってしまう。
コップの水を一口飲んだ。
「オレ、ケンを連れてタバコ吸いに行ったから、その時、病室に入ったと思う」
「そんなことがあったんですね」
「悪かったな。黙ってて」
「いえ」
「ラーメン伸びるぞ」
「はい」
なんだよケン。そんなこと、18年も隠してたんだ。日本にずっといたんなら、美咲の旦那が亡くなったことも知ってただろうに。隠し事、苦手じゃねーじゃん。
「お線香あげに行ったときさ、"殺したい女"の自主制作の方のCD、渡した。本当に亮が作ったのは、あっちだったから」
徳さんだったのか。
「ありがとうございます」
「ガキ、大きくなったか?」
「ああ、はい......って、え?」
まさか美咲が、徳さんに涼介がオレの子だって話した? いや、あり得ない!
「お前そっくりだったよ」
「え?」
「甘えん坊でさ、べたべたべたべた美咲ちゃんの髪触って。やったら人懐っこくて、みんなに可愛がられて」
んーっと。オレは、ダンディで大人の男のハズ。
「徳さんから見たオレって、そーゆー印象ですかぁ?」
「はははは。まんまだって」
「今、17歳です。背格好とかオレに似てて。顔は美咲に似てるんですけど」
「背格好か。180ぜんぜん超えてるんだ?」
「はい」
「間違いねーな」
ラーメンを食べ終わって店を出るとき、「マコちゃん」と呼び止められる徳さん。
「ん?」
「良かったら、泊まってって。すぐ店終わるから」
あらら~。大人のお誘い。
「じゃ、オレ、失礼します。ご馳走様でした」
そそくさとその場から逃げようとする、オレ。
「待て! 亮」
「おやすみなさい」
「待てって。あ、じゃ。ごちそーさん。旨かった」
「マコちゃんっ」
「また来るから」
徳さんは隅に置けない。「また来る」なんて言ったら、この女性、ずっと待ってそう。
「はーっ。相変わらずモテますね。所構わず」
「うるせー。亮の方がモテるくせに」
徳さんが女にモテるのは当然だ。オレだって女だったら、そこら辺の見た目がいい男なんかより、ずっと徳さんの方がいい。
「徳さん、結婚しないんですか?」
「オレ? しない。亮は結婚すんの?」
「断られました」
「美咲ちゃんは、怖い女だよなー。オレ、やっぱ、女はちょっとバカでいーや。美咲ちゃんがバカな女だったら、手放しで結婚喜ぶよな?」
「どーかなー。徳さんは今、誰もいないんですか?」
「ま、オレのことはいーって」
またいつものようにはぐらかされる。
大学祭のステージはテレビ中継も来たほど。
相当宣伝になった。
めでたしめでたし。
美咲に会えなかった。約1週間。たかが1週間。
でも、また会えなくなるんじゃないかって不安になるくらいの焦燥感。
新幹線の中でメッセージを入れる。「今どこ?」
手にはスマホを握りしめたまま。
「どーしたんですか?」
「何? グラビア男」
「グラビア男じゃありません」
「シーツ男」
「あーっもう。誰かからの連絡待ち?」
前の座席から頭を出して覗き込んでくる。
「いーから座れ」
35歳とか38歳って、こんなにも子供っぽいんだっけ? ノリが高校生じゃん。
東京駅で解散。
ちょっとほっとする。あ、シーツ男と目ぇ合っちまった。くっそ。意味深に微笑みやがって。
手元のスマホが着信を告げる。
あれ? 写真。
写真には、白い自治体指定のゴミ袋が積みあがっている。
『草むしり中』
写真から位置情報で、美咲がいる場所を突き止める。
「行くか」




