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盛り上がる盛り上がる。
オレはこっそり抜け出して、スマホで美咲にメッセージを送る。内容なんてない。
部屋に戻ると、一斉にみんながこっちを見る。
「何?」
「最近、よくメールしてね? 亮」
「機嫌いーし」
「ちょいちょいスマホ見て、ニヤニヤしてますよね?」
「女?」
「別に」
気をつけよう。
夜が更けてくると、大人数でいっしょくたに騒いでいたのが、2、3人ずつに分かれてくる。
オレはトロンボーンの徳さんとラーメンを食べに出た。
徳さん、オレの命の恩人。
「昔の友達がやってるイタ飯屋があってさ」
あれ? ラーメン食いに来たんじゃねーの?なんて思いながら、徳さんに続いて店に入る。時間のせいか、店内にはぱらぱらと男女の客がいるだけ。徳さんはカウンター席に。
「あ、マコちゃん」
オレがカウンター席に腰かけるとき、恐れ多くも髭面男の徳さんを「ちゃん」付けで呼んでしまう声。ぎょっとしてしまう。
「来るなら連絡くれればいーのに」
カウンターの中から、徳さんを「マコちゃん」と呼んだ女性が声をかける。
「よっ。ラーメン2つ。オレはチャーシュー抜きで」
「初めまして。お願いします」
昔の女かな?なんて勘繰りながら、ラーメンを待つ。
「タバコ吸いてー」
徳さんの言葉に、さっきの女性がハイライトの箱をすっとカウンターに置く。徳さんが吸うのはハイライト。
「いーの?」
「どーぞ。マコちゃん」
「マコちゃん、ゆーな」
ははは。徳さんの名前はマコトだからだろう。
「吸いすぎないでね」
「けち」
「喉は商売道具でしょ?」
会話の掛け合いが親しさを醸し出す。
「じゃ、せっかく美人がくれたから、ラーメンの後にもう1本」
「ダメ。体も大事にして」
「......はい」
なんかいーな。こーゆー感じ。
「相変わらずモテますね、徳さん」
徳さんの耳元で囁く。
「ここのラーメン、アサリだしで旨いんだ」
なんて思いっきりごまかす徳さん。
徳さんは背が高いわけでも、イケメンでもない。だけど、妙に男の色気がダダ漏れている。で、やたらモテる。タバコの煙をくゆらせる姿が絵になる。腹筋なんてないだろうし、目なんて笑うと線になるのに。
「亮、女できたって?」
徳さんには嘘はつけない。オレの命の恩人だから。
「ええ、まあ」
「おめでと。何年ぶり?」
「えーっと、前いつだっけ?」
最後って、そういえば誰だったっけ? スタイリストだったっけ? ゲストボーカルに手ぇ出したのが最後? ビール会社の広報?
「オレに聞いて分かるかっ。知らん」
「たしか、ビールのCMに起用されたときだったと思うんだけど」
「じゃ、7、8年前じゃん。すっげーな」
「すっげーって、そんなに空いたことがですか?」
「ははははは。よっぽどいい女なんだろな」
「美咲です」
「......そーか」
「徳さんには、怒られるかと思いました」
「怒っても、無理だろ。こればっかりは」
「バッタリ会ったんですよ。あの時から本当に会ってなかったんですけど」
「あいつ、結婚して数年で旦那に死に別れてて」
「ああ。知ってる」
「え?」
自分の傍に灰皿を引き寄せる徳さん。
「オレ、お線香だけあげに行ったんだ」
「知ってたんですか?」
「現職の議員が亡くなったって、ニュースで流れてたから」
「オレ、なんで知らなかったんだろ?」
「東南アジアツアーに行ってたから。タイにいたとき。で、オレは二日酔いで日本のテレビ観てたんだよ。お前らは、潜りに行ってた」
「そっか」
これも巡り合わせってやつだろう。
「オレさあ、亮。美咲ちゃんに、結構酷いこと言ったんだよ。それも気になってたから、葬式終わってたけど、お線香あげに行ってきたんだ」
「そうだったんですか」
トン
トン
「どーぞ」
カウンターの上に、ラーメンの器が置かれる。
旨そうな匂い。
「冷めないうちに食おーぜ」
「いただきます」
「どーぞ」
徳さんを「マコちゃん」と呼んだ女性はニコニコ。
「旨。アサリだし効いてる」
「だろ?」
読んでくださってありがとうございます。
10年以上前に書いたもので、当時の喫煙への緩さが出ております。結婚観も全く違います。
「魔法のiらんど」に掲載したものです。サイトの流行りと自分の文章力のなさにより、際立たせたい言葉や間を、改行で視覚的に表現している部分が多々ありました。めっちゃ改行を減らしました。
時代の流れを感じました。
summer_afternoonとは誰も知らせず、世界の片隅で今日も物語を綴っております。




