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君は我がすべてーーーAll The Things You Areーーー  作者: summer_afternoon


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24/33

「取り敢えずさ、その、サンドイッチの汚れ落とそ?」


オレは、美咲の膝上辺りを指さす。ブラックデニムにぽつぽつとマヨネーズの痕。


「どっかのトイレで落とすから大丈夫」

「こっち、水道あるから。前、酔ったときに水飲んだんだ」


逃げられないように手首を掴んで連行する。本当は手を繋ぎたいくらい舞い上がってる。だけど、45歳にもなると、手なんて繋げない。


「ちょっと、亮、放して」


無視。

水道の前まで連れていくと、美咲はバッグからハンカチを取り出した。美咲の手からそのハンカチを奪い、濡らして、トントンと叩くようにする。跪いて、目の前には美咲の(もも)がある。


「ははは。おばさんになってる。脚、太くなったな」

「なんてことゆーの?! 口説いてたんじゃないの?!」


美咲が怒る。

こんな反応も好きだったよな。


「ははは。変わってねーな」

「変わったんでしょ? おばさんになったって言ったばっかりじゃん」


オレも変わってねーな。こんなふうにプイって怒る反応が好き。

もう、離れるのは嫌なんだ。


「なあ、いつかさ、結婚しよ」

「無理」

「じゃ、会うだけは?」

「会うって、本当に会うだけ?」

「どこまでならOK? キスとハグ?」

「......」

「会いたい。涼介君とも」

「会えば? 友達って言ってたよ。涼介」

「美咲とも会いたい」

「会うだけなら」

「いい?」

「いーよ」


やった。努力家?のオレ。

サンドイッチの汚れが少しずつ取れていく。ふと美咲を見上げると、真っ赤な顔。

え?

こんな顔、初めて見た。美咲はクールで、大学時代に初めてキスしたときですら、余裕で微笑んでた。


「どーしたの? おばさん」

「なによ。おじさん」

「すっげー顔、赤くって可愛いんだけど」

「っるさい」

「取れた、あとは自然に乾けばOK」


立ち上がるとき、美咲の可哀想なくらいバクバク言ってる心臓の音が聞こえた。

うっそ。至近距離で聞こえるほどって、どんだけバクバクなんだよ。もうムリだ。手放すなんてできない。


「家まで送るだけだから」

「うん」


やばっ。オレの心臓もおかしくなってきた。

はー、なんだこれ?

この大の大人が2人して心臓バクバクって。

大人っつーか、世間から見たらオヤジとババア。


助手席を開け、手を取って、美咲を車に乗せる。車高の高い車だから、座った美咲の顔が外に立つオレの顔の高さになる。


美咲の心臓は治まったんだろうか。今は聞こえない。

可愛かったよなー、さっき。

そう思うと、無意識のうちに手が美咲の髪を耳にかけてた。

視線が絡む。

美咲が俯く。

再びはらりと零れた髪の隙間から、ほんのり染まった頬が見えた。

やばっ。可愛い。


バタン


助手席のドアを閉められた。

オレは自動精算機で清算し、車に乗り込んだ。


「家の前までは、やめた方がいい?」

「んー。じゃ、駅まで」

「お互いにフリーなのにな」

「やっぱり、会うだけでも後ろめたいよ」

「つき合うときは、ちゃんとご挨拶に行くから。美咲の実家にも」

「大ごとだね。この歳になると。既婚者が会うって、こんなにも不自然なことなんだね」


車は幹線道路に出て、気持ちよく進み始める。


「手、繋いでいい?」


返事を待たず、美咲の手を上から握る。


「熱っ」


美咲の手が熱い。昔、どちらかと言えば、冷たい手だった。まさか、オレが近くにいるから?


「なんかね、涼介を産んで、冷え性が治ったの」

「そんなん治るんだ」


はは。オレ、関係ねーし。夫婦だったら、こんな会話を日常でしてるんだろうな。


「亮の周り、こんな手してるおばさんいないんじゃない?」

「こんな手って?」

「犬の散歩で日焼けしてるし、爪だって短くて。今朝、お弁当作るとき玉ねぎ刻んだから、匂いが残ってる」


美咲の手を自分の鼻のところまで持ってきて匂いを嗅ぐ。


「あ、ちょっとする。玉ねぎの匂い。中指と薬指と親指。爪の間の辺から」

「家帰ったら、爪洗お」

「メシかー。オレ、今、外食と弁当ばっか」

「前は結構作ってたのに?」

「1人で食べるのに作るのがメンドクサイ。ま、昔は貧乏だったからってのもあるかな」


よく2人で台所に立ったよな。

料理の本見ながら、あーだこーだ言って。

魚さばくときとか、大騒ぎだったよな。


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