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君は我がすべてーーーAll The Things You Areーーー  作者: summer_afternoon


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19/33


冷めてしまったコーヒーに口をつける。


今更。

どう話す?

どんな顔で会えばいい?


「こんな歳のジジイなんだが、小笠原さんの音楽が好きなんだよ。最初は、涼介の父親だから、いつかちゃんと話してCDや雑誌の対談なんか記事を渡そうと、取ってあったんだ。人気がなくなると手に入らなくなるって理由だった。ところが、もう20年近く第一線にいて、素晴らしい!買うたびに聴いていて、今では新しく出るのが待ち遠しいよ」

「ありがとうございます」


深々と頭を下げた。

ファンだという言葉にじゃない。長年、涼介のためにオレの仕事の足跡を保管してくれたことに。


「なんなら今夜にでも、美咲さんとの席を設けようか?」

「いえ、今夜は仕事があります。事実を踏まえたうえで、近いうちに話をします。ただ、彼女とのことは、もう昔のことですから。本当に、あれ以来会っていないんです」


二階堂家の門をくぐる。

ジイ様は、玄関の外まで来て見送ってくれた。


もう昼か。

地下鉄に乗りながら、あいつと涼介のことを考えた。


今、どんな風になっているんだろうな。

45歳なんて、20代のころは「ババア」って言ってた。

太って、生活感バリバリかもいれない。

最初に惹かれたのは外見だったもんな。外見が変わってたら、気持ちが冷めるかもしれないよな。

ふと「母は綺麗です」とう涼介の言葉を思い出す。

外見で左右されるような気持ちってどうなんだろ?


今のオレなら、あいつと涼介を養っていける。

って、あいつ、金はあるってジイ様が言ってたっけ。

そっかー。もし、あの時あいつと結婚してたら、オレ、逆玉だったんだな。


でもさ、あいつがオレの傍にいたままだったら、売れなかったな。あの曲ができなかったわけだし。殺したい女。

地味にバンド活動続けて、フリーターのまま?

45歳のフリーターかー。結構辛いかも。

そう考えると、オレの人生は、美咲に捨てられてから上り調子。


でもさ、もし、もしだよ?

オレがあの家から美咲と涼介を連れ出したら、二階堂家はどうなるんだ?



人生の重大事件が起きようと、仕事は待ってくれない。

若い頃はバカで自分本位で、自殺未遂なんてして職場に多大な迷惑を掛けた。今では申し訳なさ過ぎて、塾の方へは足を向けて寝られない。

午後の仕事をきっちりこなし、借りておいたスタジオで音を十分出し、アドリブのチェックをしてから、ライブに向かった。


緊張。

今日のライブは、いつものメンバーじゃない。なんとなく話がまとまった即席バンド。しかもジャズ。観客の耳も肥えている。


向上心や野心があるわけじゃない。

声がかかったときは断らない主義。

可能性だから。

何よりも認めてもらえてるってことが嬉しい。


ただ、このバンドでのサックスフューチャーのスローな曲は断った。だから、サックスで有名な曲なのに、ピアノが主体。

45歳になっても実力は実力。

未だ音色に自信がない。


「人生は長い」か。

だったら、これから一生懸命練習すれば、少しはマシになるかも。

もう45歳。まだ45歳。


なあ、美咲。

今、何してる?


オレがしっかりしてたら、涼介を2人で育てられたよな。

「初めて歩いた」って喜んで、

「友達とケンかしたのかしら」って心配して、

「ちっとも勉強しない」って怒って、

オレはそんな美咲を見守って。「まあ、男の子なんだから」なんて言って。


オレがさ、手に入れたこの世界での成功は、悪魔に美咲を捧げた代償なのかもな。


もう11時か。

ライブが終わって、片付け、軽く反省会という名で一杯飲んだ。


楽器ケースをぶら下げながら新宿のピンクの街を足早に歩く。

明日は大きなライブ。しっかり眠らないといい音が出ない。


左手でスマホを操作しながら、仕事関係の連絡が入っていないかを確認する。

と。

涼介じゃん。

涼介からメッセージが入っていた。


『コンサートチケットありがとうございます。絶対行きます!』


息子かー。

実感がわかない。

でも、無性に嬉しい。


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