表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君は我がすべてーーーAll The Things You Areーーー  作者: summer_afternoon


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/33

「君のお母さんは、聡明な人だから、ちゃんと考えてのことだと思うよ」

「でも、小笠原さんが作る曲の歌詞の女の人が全部母と重なって。だから、2人を逢わせたくて」

「犬の散歩に逃げたんだろ? だったら、無理だ」

「でも」

「君がお母さんを思う気持ちは分かった。だけど、これはダメだ」


さっきから心臓がバクバクいってる。いつからだ?

「困った人」からだ。


平常心を取り戻りしたのは、展望台を下まで下りてから。

思春期のガキでもあるまいに。


「飯でも食うか?」

「はい」


涼介はキューピット役を諦めたようだ。


2人でカレーの店に入った。他の店は女性客ばかりだったから。

海軍カレーを食べていると、涼介が口を開いた。


「小笠原さんは、今でも母を忘れられなくて独身なんだと思ってました」

「幻想幻想。どんだけロマンチストなんだよ」

「そんな歌詞ばっかだから」


こんなガキにまで言われちまったぜ。よく言われるんだよ。


「それがバンドの世界観だからね。ビジネス。遊びを知ってる大人の男。お洒落で女好き。ここまでだと、薄っぺらな印象だけど、ここに『忘れられない女』ってノスタルジーを入れると、味とコクが出る」


何十回と繰り返した言い訳。


「そうなんですか。でも、母は......」

「ん?」

「今でも小笠原さんの曲をこっそり聴いてます」

「それだけだよ」


嬉しい。

オレの音楽を聴いてくれてるんだ。


「お互いに独身ならって思ったんですけど」

「大人になると分かるよ」


あ、やばい。


「悪い。コンタクトずれた」


そう言い残して席を外す。

トイレの個室へ駆け込んだ。


顔を両手で覆う。

オレの曲があいつの鼓膜を揺らしてるんだ。

胸が熱い。喉の奥と鼻が痛い。指の隙間から漏れそうになる嗚咽を殺す。

体が震える。正体が分からない熱い感情がこみ上げてくる。

ノスタルジーじゃない。


涙が出ていないことを鏡で確認する。

鼻の頭が少し赤い。まあ、バレないだろう。


テーブルに戻る途中、会計を済ませた。

1人席に残された涼介は、窓の外の風景をスマホで写真に納めていた。


「横浜の記念に」

「2人で撮ろうぜ」


店を出て、インターコンチネンタルホテルや観覧車をバックに写真を撮った。


「明日さ、10時頃、お伺いするって家の人に言っといて」

「はい。伝えます」

「コンサートチケット持ってくよ」

「楽しみにしてます。けど、僕、学校なんですけど」

「涼介君がいる時間にお宅訪問は無理だろう。朝7時半前とか夕飯どきなんて」

「そうですね。母はどーかなー」

「それはお母さんが判断するよ」


東京に戻り、涼介をご丁寧に校門前で下ろした。


「部活には出れるだろ?」

「はい。6時間目もなんとか間に合います」

「走れ」

「ありがとうございました!」


その夜、遅くまで仕事をした後、一人、部屋で飲んだ。バーボン。

BGMは"殺したい女"の自主制作バージョン。


たった数年の結婚生活だったのか。

一緒にいたのは旦那よりオレの方が長いんだ。

苦労したんだろうな。女手一つで男の子を育てて。

しかも実家じゃなくて相手の実家で。

あんなでかい家だ。政治家の家なんて大変そうだ。


あいつが地獄へ落ちるのを望んでいたんじゃないのか?

だったら、あいつは、人より苦労を味わったかもしれないから喜べばいい。


違う。

オレが望んだのは、あいつと一緒に地獄へ落ちることだった。


明日会えるだろか。

また逃げられたりして。

10時なんて犬の散歩かもな。スーパーへ行く時間かもしれない。


スマホにLINEのメッセージが入っていた。


『ガキとのデートはどうだった? こっちは、わがままなおばさんのせいで、上級者コースの講師を初心者コースにまわすことになっちまった。来週、時間が空いてたら、わがままなおばさんの歌、聴きに来い』


ふーん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ