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君は我がすべてーーーAll The Things You Areーーー  作者: summer_afternoon


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14/33

「なあ、亮、あの歌、ホントだろ?」


徳さんが呟いた。


「さあ。殺してませんって」


歌詞の内容は、殺したか殺していないか曖昧になっていた。


「歌の中で殺しておけよ。で、新しい女でも作れ」


もう何回かライブハウスで演奏したけれど、途中で歌詞を変えた。

歌詞の中で、女を殺した。

静かに死んでいくあいつを想像するのは、酷く甘美だった。


ドラマの音楽担当者が、オレ達の演奏を聴いて、主題歌に採用した。

バンドは一気に売れた。もともとマイナーシーンでは結構売れていたんだ。


生活が変わった。

音楽で食べていくという厳しさも味わった。そこは利害が絡むビジネスの世界。幸いだったのは、オレ達のバンドが男臭すぎて絵面が悪く、プライベートに関心を持たれなかったこと。

これまで通り、対外的なことは世渡り上手の罰当たり的なオレの担当だった。自分でも向いていると思う。



美咲が結婚してから1年後くらいに、あいつの旦那が神奈川4区から、衆議院選挙に出馬した。

新居の場所の"事情"とは表集めのことだったんだなと、薄っすらと思った。


当選したとき、テレビの映像に、万歳をするあいつが映っていた。

涙が零れた。

涙はあとからあとから溢れ出て、しまいにはソファの下に蹲って号泣した。


成功を手にしたこの時よりも、あいつがいる生活の方が満たされてたんだ。


殺してしまえばよかった。死んでおけばよかった。

殺さなくてよかった。死ななくてよかった。


正反対の思いがぐるぐると頭の中を駆け巡った。



名が知れて出会いも増えた。

元来女好きで、スマートに誘うくらいは身についていた。


でも、あの燃えるような想いは蘇らない。

幸せなときですら苦しいほどのあの想い。


あれはさ、若かったからなのか?

それとも、美咲だったからなのか?


なあ、美咲。オレが想ってたのと同じように、想ってくれてたんだろ?

苦しいほどの気持ちだったんだろ?

だから結婚が決まっても切れなかったんだろ?


あの晩、本当は殺してほしかったんだろ?




あいつに似た二階堂涼介を助手席に乗せて、首都高を横浜へ向かう。

横浜は綺麗な街だ。

せっかくだから、少し手前で高速を降りた。


「おおー。横浜ですね」


いかにも横浜らしい、山下公園の前をゆっくり流す。


「来たことある?」

「はい。中学のときに」

「デート?」

「ええ、まあ。一緒に歩いたってだけなんですけど」

「ははは。かわいーねー。でも、オレらんときは、山下公園に2人で行くと別れるってジンクスあったけど?」

「えー。だからダメだったんかなー?」

「はははっはは」


赤レンガの横を過ぎる。


「赤レンガ倉庫だー」


クイーンズスクエアのパーキングに入った。


「この辺。でも、わかんねーな。あの頃は、何にもなかったから」


涼介は懐かしいその歌を口ずさむ。


「え?」


驚いた。初期バージョンの女を殺したかどうか曖昧な方の歌詞だった。


「母が歌ってるから覚えました」

「へー。CDになってるのは、違う歌詞だから」

「そうなんですか?」

「販売されたCDの方は、殺してるんだ。むかーしの自主制作のCDは、そっちの歌詞なんだけど」


まさかな。

二階堂か。

あいつが結婚してからの曲だ。

自主制作のCDなんて買えるはずがない。

ライブでしか買えなかった。後は、友達に配った分だけ。


「じゃ、今度、祖父の部屋のCDを聴いてみます」

「は?」

「実は、祖父も隠れファンなんです」

「えー。オレ、朝飯んとき、だまーってるし、頑固ジジイそうだしさ、ちょっと怖かったんだけど。緊張したし。ファンなの?」

「だと思います」

「なんで隠れてるわけ?」

「さあ。分かりませんけど、祖父の部屋には、全部のCDが2枚ずつあるんですよ。1枚は未開封で、もう1枚は自分で聴く用に」


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