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君は我がすべてーーーAll The Things You Areーーー  作者: summer_afternoon


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11/33

教え方よりも、外見と脱線内容から、結構人気の講師だったんだ。


塾側から講義数を増やすように言われた。そうすると、バンド活動ができなくなる。

勉強する高校生の相手が塾講師。遊んでる高校生相手がバンド。

どちらも時間帯は同じだから。


講義の数は増やさなかった。


美咲は昇給昇格していき、オレはフリーターのまま。


それでも亀裂は見えなかった。

目を背けていただけかもしれない。


「ねぇ、亮。私ね、上司からお見合い勧められちゃった」

「はあ? なんだそれ」

「顧客の息子さんなの。だから、断りにくくて」

「へー。着物着て食事とかするわけ?」

「そんなことしないよー。ゴルフするんだって」

「ほー。ゴルフねぇ。見合い写真とかあんの?」

「スナップ写真見せられただけ」

「美咲の方は?」

「見たことあるんだって」


大手の会計事務所が絡むなんて、企業や資産家。

俗に言う「見染めた」ってやつだ。それから「玉の輿」って。


いい加減に聞いていた。

オレにあいつしかいないように、あいつにだってオレって存在は、唯一無二だと思い込んでいたから。

冷静に考えれば分かったのに。

一度はオレから離れようと引越したんだ。

あいつの周りの友達は「別れろ」と口を揃えて言っていた。


今日は昨日の続きで、明日は今日の続きで、毎日それほど変わらなかったのに、出逢ってから、もう7年が過ぎていた。

美咲は、じきに27歳だった。


一度冗談で言ったことがある。


「男女が逆だったら、オレ、美咲と結婚してーかも。美咲はさー、仕事できそうだし、出世しそーだし、家族も大事にしてくれそーじゃん」


呆れるほどバカなオレ。


美咲は結婚を決めた。「二階堂」という男と。

二階堂家は代々政治家で、親父は現職の参議院議員。某政党の金庫番だった。息子はアナウンサーだったけれど、衆議院への立候補が囁かれていた。顔をうっすらと思い出せる程度の印象しかなかった。


結婚が決まっても、美咲とオレは相変わらずだった。

今日は昨日の続きで、明日は今日の続きだったから。

けれど、美咲はある日突然、マンションを引き払った。


美咲の友人に詰め寄って聞き出した。


「なんで突然いなくなったんだよっ」


その時に言われた。


「自分が何やってんのか分かってる? 悪いのは、いつまでもそんな生活してる小笠原君じゃない! もう、終わりにしてあげて。もう十分でしょ? 突然じゃないから。結納だったの」


自分の全てを否定されたような気がした。

好きとか嫌いとか、そんな部分じゃない。

就職活動をせず、留年して、卒業から数年経つのにフリーターで。マイナーシーンで知られている程度のバンドを生活の中心にして。これからどうやって自分の足で歩くのか考えないようにしていた。


プライドが崩壊してもオレはバカで。

どこかで「結婚なんてするわけないじゃん」って言ってもらえると思ってた。

おめでたいにもほどがある。


その晩、オレは鎌倉のあいつの実家まで行った。

当時乗っていたホロの付いた中古のジープを飛ばして。


会うとやっぱり美咲は昨日の美咲のままで。

ただ缶コーヒーを一緒に飲むだけで楽しくて。


「結婚なんてするなよ。そんなにいい? 結婚」

「そんなこと、最初に言ってよー」

「結婚したいの?」

「よくわかんない」

「はあ?」

「ただ、亮のお隣さんは疲れちゃった」

「なんで? オレ、飯も作るし、掃除も洗濯もしたじゃん?」

「そーゆーんじゃないよー」


声も荒げず、まるで昨日のテレビの話をしているみたいだった。


「やめよーぜ? 結婚」

「もう、そんなことできないよ」

「どーしたら結婚やめる?」

「んー。世界が終わったら?」


あいつがいなくなるなんて、オレにとっては世界の終わりだ。


「仕事はどーすんの?」

「新居に移ったら、通えないんだー。だから辞める」

「へー。普通、仕事に通えるとこに、新居って探すのに?」

「事情があるの」

「なに?」

「今はちょっと言えないけど」


缶コーヒーを飲みながら唇を見ると、月明かりの中でつやつやと濡れていた。

キスした。

拒まれなかった。

明日も会いたいと言ったみた。

拒まれなかった。


結婚に対する考え方が現在ととんでもなく違い、時代の流れを感じました。

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