王と宰相と
ここは王城。
まだ午前中にも関わらず、トルディア侯爵ユスランは王への謁見のために登城している。
昨夜から憤りが収まらず、あまり睡眠も取れていない状態だがそんなことはどうだっていい。
おのれルティ家め・・うちの可愛い嫁を執拗に怯えさせてくれて、お礼をしなくてはな。
通りすがる使用人達に怖がられるほどの鬼の形相で謁見室へと辿り着く。
コンコンコン
「陛下、トルディア侯爵家当主ユスランでございます。」
「ん?あぁ、入ってくれ。」
静かに扉が開かれて中へ入室する。
最上の礼をとり、陛下へ挨拶する。
「急な申し出に対応していただき、誠に感謝申し上げます。」
「ん~、頭をあげてくれ!!
まったく・・いつもどおり砕けた話し方にしてくれよ。」
・・・
「んんっわかったよ。昨夜は突然の謁見申請ですまんな」
「いや、いいことさ。
してどうした?それだけのことがあったのだろう?」
これだけお互い気安いのは、実は幼馴染だからである。
王と王妃、他にも現公爵家当主2人と元公爵令嬢1人に現侯爵家当主2人、元侯爵令嬢が3人いるが、この歳になっても定期的に茶会をして交流は続いている。
この国の貴族がそこまでゴタついていないのは、最上位の貴族家が派閥もなく良い仲を保っているからと言えるだろう。
そして手紙で3ヶ月に1度はかならず
情報交換もしているのだ。
お互いの子どもたちにも学園に入る頃には顔合わせの親睦会をして、その後は毎月の交流会で仲を深めさせていくことにしている。
ということで、かなり気安い接し方でも何も言われないということだ。
ちなみに陛下の隣に立っている宰相も、現イリアドル公爵家当主で私たちの幼馴染であるので、もちろん彼とも
気安いわけだ。
「お、モリーも久しいな!良かった、君も一緒に聞いて欲しいんだ。」
「あぁ、僕は構わないよ、同席させてもらおう」
「では、こちらに移動しよう。
お前たちも早く座れっ俺はこう見えて忙しいんだ!」
「そうだな、サディ(本名アサディ)も王としてしっかりやってるもんな。」
「当たり前だろう!リアン(王妃カーネリアン)に離縁されたらかなわんからなっ」
「あはは、それはそうだ!
・・
んん、本題に入らせてもらおう。」
「聞かせてもらおう」
「実はな、先日うちの息子のペアが整ってな、その相手というのがキッシュ伯爵家のご令嬢のクラナなんだが。」
「おぉ、ついにペアが決まったか。
良かったなぁ~
ペア解消されたと聞いた時には心配したが、キッシュ家とはよい家と繋がれたな!」
「本当だな~あそこはいま盛り上がってる家だらな、将来安泰か!」
「まぁな、実は息子同士が親友でな・・学園に行きだしてからだが、そのおかげで互いの家を行き来していてな。その際にクラナ嬢とも交流があったらしい。
最初は妹みたいな感覚だったらしいが、会う機会が増える度に慕っていたらしい。
つまりは、息子の想い人と組めたということだな。」
「なるほどな!良かったではないか!」
「その話だけ聞くと祝福するだけで済みそうだが?何かあったのか?」とモリー。
・・・
「それがだな・・うちの嫁にちょっかい出してる奴がいるんだ。」
「っなんだと?
それは物理的にか??」
サディも驚いている。
「いやいやいや、ペアがいる相手にアプローチをするのはご法度だぞ?」
と宰相であるモリーも言う。
「そうなんだがな・・
物理的と言えば物理的になるが、そうじゃないと言えばそうじゃないが・・・
ただなぁ・・」
「濁すなよ、ここまできたら吐け」
「や、わかってるさ。
相手はルティ伯爵家の次男マトワだ。
どうやら先のペアリングパーテイーでクラナに目を付けたらしいが、クラナは嫌がって怯えてな・・
即座にペア申し込みも断ったらしい。
それなのに、急にドレスを贈ってきたり、昨日はアクセサリー一式を贈ってきたらしい。
・・・しかも宝石は全部マトワの瞳色だそうだ。」
「なっっ、ペアでもない相手に贈り物など許さされるものじゃないのに、更には己の色だと・・・」
「ルール違反だぞ」
王も宰相も憤っている。
それはそういう反応が普通だ。
ペアの段階では婚約者ではないとしても、大抵のペアは婚約を前提といして組むから。
お互い合意の上で組んでいるわけで、余程の問題が発生しない限りは解消となることは珍しい。
ゆえに、ペアのいる相手へのちょっかいはご法度だ。
あまりにも酷い場合、本人だけではなく家門での責任問題を取らされることも。
「ふむ・・そんなことになっていようとはな。
しかし、ルティ家か・・以前から問題になってはいたがな。
証拠が無くて咎められん。
嫌な奴らだ・・」
その言葉を待ってましたとばかりに、ユスランはニヤリを口角をあげる。
それに気づいたモリーは、
「ラン、まさか何か策があるのか?」
その言葉にサディも乗っかる。
「なにっ本当にあるのか?」
もったいぶるフリをして・・
「それがな、今回あまりに頭に来てな、あることを考えたのだよ」
”あること???”
王と宰相は顔を見合せて、眉間に皺を寄せている。




