新たなる人
モルトは奥様の体調に気をつけながらあまり揺らさないように進んでいく。
前を行くティムも、時々後ろを振り返りながら奥様の様子を気づかっている。
後ろからは、コールと私は1つずつ箱を持って着いていく。
来たときより10分ほど遅めで目的地の使用人棟へ到着した。
「ただいま戻りました!!侍女長
いらっしゃいますか~」
私の声に反応して、ちょうど手が空いてこちらへ戻っていたのか、侍女長と数人のメイドがバタバタとやってきた。
「「「「おかえり~」」」」
と言いながら、モルトが抱えている人を見てびっくりしている。
!?
いったい誰?!
と言いたそうな目でこちらに訴えているが、とりあえず代表して侍女長に話したほうがいいだろう。
「侍女長には先に話したいところですが、取り敢えずベッドへ寝かせないといけない状態なので・・」
「あぁ、1つ客間が空いてますよ。いつでも使えるようにしているので、キレイです。
そちらへお連れしてね。
他にもいま必要なのはありますか?」
侍女長の言葉に、先にモルトが動き奥様をお連れした。
「実は、お体が弱っていらっしゃるので様子がわからない状態では心配です。
なので、一人メイドを付けていただきたいです。」
「ん、そういうことなら、ユーリ!お客様の様子見としてお部屋に付いていて差し上げて。」
「わかりました!では、行ってまいります」
ユーリは足早に指定された部屋へと向かった。
ユーリは実家が町の小さな診療所で祖父と父が医者だという、そこで看護の経験があるため人選は的確だ。
それからコールは奥様の荷物を部屋へ運び入れるために動き、私とティムは侍女長と残った手の空いているメイドに事態を説明することにした。
「まずは、森の魔女のことですが、そんな存在はいませんでした。
居たのは、先程の女性だけで、確認したところ彼女はルティ家の現伯爵夫人だということでした。
それが本当かどうかは確かめる術は
ありませんが・・
奥様は我々と一緒に屋敷を出ていきたいそうです。
彼女はたぶん・・軟禁されていたと思われます。
食料も十分には得られていなかったようですし、何よりあの体調です。
素人目に見てもこのまま放っておいていい状況じゃないことはわかりました。
私たちが訪問した際、吐血もしていましたから・・
命に別状がないといいのですが。」
ふむふむとルーチェの話を聞いていた侍女長は、
「なるほどねぇ・・
この屋敷で軟禁されている人がいるなんてね、まったく到底許されることではありませんよ。
とりあえず、奥様だろうがただの女性だろうがあんな状態を見てしまっているからには放ってはおけないですね。
私は連れ出すのに賛成ですよ。
あなたたちはどう思いますか?」
侍女長に話を振られて、話を聞いていたメイドたちは
「もちろん、賛成です!」
「あんなに痩せ細って・・一体どんな生活をしたらあんなに・・グスッ」
「本当ですよ!女性を一人で放っておくなんて・・ましてや軟禁なんて信じられませんっ」
「私も賛成です!!みんなで守りましょう!」
みんなわかってくれた・・それだけでもホッとした。
「ルーチェ、良くぞ連れ出してきてくれました。
みんなでしっかりお世話して差し上げましょう。
体調が良くなれば、会話も出来るようになるでしょう。
さて、では明日奥様をお乗せする馬車を決めて、いまから毛布や体がお辛くないようにマットやらセッティングしましょう。
私はこれからまた屋敷のほうの通常業務に戻りますからね、あなたたち4人はユーリの指示を仰いでそれぞれ動いてちょうだい。
あと、出来るだけ誰か一人は必ず奥様のおそばに付いてね。」
「「「「はいっ!!」」」」
「では、私は馬車のほうの荷造りとセッティングをやってきます。
コール!すまないが、奥様の荷物をいまから馬車に積もうと思うから、手伝ってもらっていいか?」
ちょうど戻ってきたコールに声をかける。
「あぁ、もちろんですよ!
そしたら部屋に持っていった荷物も取ってきますから、先に馬車のほうへ行っててください。」
「わかった!そうさせてもらうよ。」
そうしてみんなは動き出す。
新たなる自分たちの護るべき人となるかもしれない女性のために。
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使用人たちと奥様の脱出までもう少し続きます。




