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森の中の美しい人

「ゴホっ は、はい、どなたでしょう?ぐっ・・ゴッホ ずみばぜんっっゲボっ」

ビチャっと床に血が吐き出される。

「ちょ!大丈夫ですかっっ!!??

みんな早く入って、お支えして!」

見守っていただけの3人も慌てだして、ルーチェの言う通りに動く。

「許可なく入ることをお許しくださいっ!早くベッドへ!」

力仕事には慣れているモルトが率先して抱き上げて運んでくれた。

「は、はぁ・・・はぁ、すみまぜん、どなたかわかりませんがっ、ゲホっ」

はぁーはぁーと、どうにか息をしながら時々吐血しつつ、ゆっくり会話をする。

かなり体調が悪そうだ。


「急な来訪で申し訳ありません。

私はルティ家執事のルーチェと申します。

しかし、明日辞めるのでただの庶民だと思って下さい。

こちらに居る3人も、左から庭師のモルト、厩番のコール、庭師見習いのティムです。

彼らも明日で辞めるので、庶民ですのでご安心ください。」

ルティ家の と言い始めると、明らかに狼狽えたが、辞めることを伝えるとホッとしたのか、少し力を抜いてくれた。

「いまのあなたの状態では、話すことは辛いと思われます。

ですので、よろしければこちらが問うことに返事をするだけというのはどうでしょうか?声を出すのも辛ければ"はい"なら右手を出す、"いいえ"なら左手を出すで答えていただければと思います。よろしいですか?」

彼女は素直に右手ではいを示した。


「ありがとうございます。

では、失礼ですが貴女は魔女ですか?」

その問いに目をぱちくりとさせて少しクスっと笑われて、スッ左手を出した。

"いいえ"だ。

まぁ、魔女には見えないしな。

痩せ細ってはいるがとても美しい人であろうことは見て取れる。

ルーチェは笑われたことに少し恥ずかしくなり、それでも質問を続ける。


「では、貴女はルティ家の奥様でしょうか?」

言い淀みながら問う。

それを聞いて、元々悪かった顔色が更に悪くなった。

聞くべきではなかったかもしれない、しかし聞かなくてはいけない。

ルティ家の証拠のためにも。


少し俯き、数秒して彼女は右手を出し、"はい"を示した。

私の中ではやっぱりかと何となく腑に落ちた。

彼女の仕草などからそれなりに身分のある人だと感じられた。

では、なぜこの様な場所に奥様が住んでるいるのか??

コレばっかりは私にもわからない。

とにかく、奥様だとわかった以上は連れ出して保護しなければ。


「失礼ですが、奥様がなぜこちらにいらっしゃるかも私共にはわかりませんが、もし貴女が望むのであれば我々はと共に明日こよ屋敷を出ませんか?

もちろん、馬車もありますのでお体に負担もかからないようにしますし、途中の別の街になりますが医者のところへも行きましょう、他言無用にしてもらいますよ。

それから、体が回復したら何があったのか話してもらえませんか?」


「え?・・」

そう呟くと奥様は涙を溢れさせた。

「ここから、出られるのっ?わだじっ、でたがった、もう嫌なのっ連れてって・・おねがいぃぃ」

子どものように泣く姿に、私たちはコレは軟禁されていたのか?と思った。


だから出口がわからないように道もなかったのか。


食事もあまりなかったようだな。


沢山泣いて、咳をしながら吐血しつつ数分して少しスッキリしたのか、

「ごめんなざいっ ズビッ」

と謝られた。

「いいえ、お一人でずっと頑張ってこられたんですね。

これからは私たちと一緒に行く仲間がおります。

さ、ここから出ましょう。

モルト、奥様をお運びしてくれ。

ティムは道案内を頼みます。

私とコールは奥様が持ち出したい物を運びましょう。」

執事の指示で動く使用人、いつもの光景だが私たちは奥様を助け出すという使命を得た。

ぬかりはしない。

奥様に持っていきたい物を聞き出し、コールと荷造りしていく。


そして、奥様を連れた4人は小屋を後にした。


いつの間にか屋敷内から最愛の妻が居なくなるなど、思いもしない伯爵は何も知らずにのほほんといつもの毎日を過ごしている。


知らなければいい、いいや知ったほうがいいか??

最愛の人が自分のことを大嫌いでここから逃げたくて逃げたくて仕方なかった事実を。


幸せだなんて思ったこともなかったと告げられないことは、なんて幸せでしょうねぇ・・


小さくクスクスと笑って、次にはスンとなる。

執事は常に冷静でなくてはいけませんからね。


えぇ、執事ですから。

失敗すると執事長からのお仕置きですからね・・思い出すだけでも背筋が寒くなる。


明日が楽しみですねぇ。




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