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プロローグ

 霧島明澄(きりしまあすみ)は高嶺の花だ。

 頭脳の良さはカンスト。容姿も彼女自身が望んでないだけで芸能界入りも難しくはない。

 まさに、才色兼備という四字熟語は彼女から生まれたと言って良いほどの人間だった。


 そして何を言おう、謙虚なのである。その生まれ持った天性を周りにはけ散らかすわけもなく接する。

 そんな、外見内面含めてパラーメーターは全てSランクのような人間だった――。


 だった、はずなのに…。


「私は未来の明澄!突然だけど、今の明澄と付き合って!」


 街中で突然私に抱きついてきた”未来の明澄”と語る女性は、あの明澄さんと似ても似つかない天真爛漫な姿を晒してそう言った。


 なんか、こう。明澄さんはかくいう孤高のお嬢様とかいうやつで、これだけ感情を曝け出したりしない。

 その末路がこれ?うん。不解釈一致だ。あれがあってこその明澄さんなのに。


 第一信じられるわけもなく、私は学校で習った不審者への対応を施した。

 まさか活用する機会が訪れるとは、学校さえも想定していなかっただろう。


「すいません。急いでいるんで」


 自分の足を急かしてその場を後にしようとする。

 が、その女性は私の肩を掴んできた。ここまでくると恐怖という感情が勝ってくる。


「うぇぇ〜…?な、なんなんですか?」


 とはいえ、相手を興奮させてはならない。あくまでも冷静的かつ非挑発的に相手と対峙した。

 その誠意?が相手に波及したのか、彼女は咳払いをして場の空気を改めさせた。


「よくよく考えたら、ごめん。いきなりあんなこと言われても信じられないよね。…でも信じてほしいの」


 紡がれた言葉はフィクションそのものだけど、その目からは真実の念しか取れなかった。

 しかもそう言ってしょげている彼女を見て、私の中のなにかがくすぐられた。


 私は彼女の方に振り向き、目を見つめた。

「仮に信じたとして…なんで”未来の明澄さん”はこんなところに?」


 すると、彼女はさっきまでの態度を一変させる。

「うおぉ。やっぱり優花は話がわかるよ〜!さっすが!本当に大好き!」


 前言撤回だ。私の中に久しく眠っていた慈悲の念を、せっかく起こしてやったというのに。


 しかし、私の脳は酷い違和感を残した。


「あれ…。なんで私の名前知ってるんですか…?」


 おそらく、今の私の顔の表面の大部分は恐怖だと思う。

 そんな私を差し置いて、未来の明澄はウインクと共に投げキッスのポーズをしてきた。場違いにも程がある。


「それは、私が君の未来のお嫁さんだからさ…」


 イケボで言われてもだ。

 でも、学校の電話帳を覗き込んだりした以外の方法で私の名前を知る方法はまずないはずだ。


 それとも、レストランで私の名字があって、呼ばれた時に知った?いやないない。私は基本的に外食しないし。

 んじゃ、病院で私が呼ばれた時に知った?…それもない。私はかれこれ十数年間病に倒れたことがない五体満足人間だ。まぁ確かに定期検診とかには行ったりするけど…。


 となると、とうとう私はこの人が未来の明澄という事実を確定しなければならない。


「えぇ…。これが明澄さん…?」


 猜疑心を全面的に出して、心の声が漏れてしまった。

 しかし、未来の明澄と名乗っている女性は、それが不服と言わんばかりに頬を膨らませた。


「本当に明澄だよ!彼女のどこにほくろがあるのか、お風呂の時にどこをまず最初に洗うのか、ましてや…」

「わぁ、ちょちょ!どんどんセンシティブになってるから…!というかそんなの証明できるわけもないですし!」

「えぇ?本当なのに…」


 私はため息を吐き、彼女に再度問いかけた。


「分かりましたからから…。それで、未来の明澄さんは何をお望みなんですか?」


 その瞬間、彼女はパアッと顔を明るくし、またもや私に抱きついてきた。陰気な私にとってそういうスキンシップは不慣れなのでやめてほしいのだが…。


「よくぞ聞いてくれたね!高校生のうちに明澄と君が、付き合わなきゃ、君は死ぬんだ!だから私が助けに来たの!」


「え」


 私の高校生活否人生は、二重の意味で突如終わりを告げられた。


「いやいや…。私が明澄さんと付き合うとか不可能なんですって!しかも、死ぬ…??」


「いいや!付き合える!だって、大学生の時に私たち付き合ってたんだもん。ね…?優花」

「それは分かりましたから…。まずそも!私があなたの話を信じたのが悪かったですね!学校、行きますんで!それじゃ!」


 足の方向を学校へシフトチェンジし、走る。さっきまでの私の心の葛藤は気泡に帰した。


 私が明澄さんと高校時代に付き合わなきゃ死ぬ?信じられるわけがない。どんなバタフライ効果なのだ。

 一度は信じたものの、あんなのが未来の明澄さん?信じられるわけがない。どんな性格の変遷があったのだ。


 っていうか、大学時代に私と明澄さんが付き合っていた?そんなわけがない。まず不釣り合いなのは確定事項として、私は高校卒業後にまだ見ぬ新天地を求めて外国の大学に行くつもりだ。そんな海の先にて高嶺の花と出会い、ましてや付き合うなんて、絶対にない。

 …いや、あの明澄さんのことだから海外の大学に行くという可能性もないにしもあらず…。


 とはいえ、頭の出来が違う!私はなんちゃってハーバード、明澄さんはガチハーバードに行くだろう!


 よって、この未来の明澄さんの言い分は間違っている!

 Q.E.D!証明完了!かんぺき!


***

 

 そんな私の感情の起伏は、ホームルームで決壊してしまった。


「どうも!私の名前は霧島明澄です!なんか、同姓同名がいるらしいですね?まぁ、仲良くしてやってください!」


 担任によって紹介を促された”転校生”は、朝に見た未来の明澄そのものだった。


 そして私は、隣にある空白の席を見て嫌な気配がゾワゾワとしてくる。


 ――しかし、案の定。


「ティアモ!マイダーリン?」


 未来の明澄は、私の隣に座って、私をニンマリと笑って見つめた。

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