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ふたつの星 ひとつの祈り(パート1)  作者: 慧ノ砥 緒研音


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第15話 星の答え(新たな光:カレン編)


 エルディアの『秋月祭り』満月の下で。


 カレンは、愛馬のたてがみをそっと撫でた。

 夜が明ける前の、まだ暗い山道を、一人でゆっくりと下っていく。

 背を向けたあのテントには、まだレオンが眠っている。起こしてはいけない――その思いだけが胸に残った。


 バロック夫妻の家にたどり着くと、カレンは扉を静かに開け、物音を立てぬように自分の部屋へと向かった。

 起こしたくなかった。やましい気持ちがあったわけではない。ただ、涙が止まらなかった。

 どうして涙が出てくるのか、自分でもわからなかった。だからこそ、見られたくなかった。


 部屋に戻ると、カレンはベッドへ身を投げるように倒れ込み、毛布を深くかぶった。

 そのぬくもりに、少しでも心が救われるようにと願いながら。


 ※ ※ ※


 朝の光が、雲の切れ間からこぼれていた。

 頬に触れた光はやさしかったが、どこか心許なく、昨日のようなぬくもりは感じられなかった。

 レオンの腕の中で感じた優しさも、胸に灯った幸福も――たしかにあった。

 けれど、目を覚ましたカレンの胸には、ひとつの重たい影が残っていた。


 どうして、あのペンダントを見たとき、涙が溢れてきたのだろう。

 なぜ、あんなにも心がざわついたのだろう。

 ただ、怖かった。苦しかった……


 ゆっくりと体を起こし、寝台から足を下ろす。


 いつも通りの朝。けれど、なにもかもが少しだけ遠く感じた。

 村人たちは挨拶を交わし、陽は変わらず東の空へ昇る。

 カレンは笑顔を作ろうとするが、頬が引きつって、うまくいかない。


 レオンが、いつものように山から降りてきた。今日も村の西の畑へ向かっているようだ……

 その姿を見つけたとき、いつもなら走っていって声をかけるのに……

 今日は家に隠れた。

 隠れてしまった。

 心の奥に沈んでいる”あの紋章”が、今も問いかけてくる。


 ――あれは、なに?

 ――なぜ、レオンのペンダントにその紋章が?

 また、脳裏に王国のあの夜がフラッシュバックする…… 

 

 「だめ!だめよ!」

 自分の脳裏に浮かんだ悪夢を消すように、カレンは外に出た。

 太陽の光を浴びながらレオンの元へ向かう……

 歩きながら、自分に問いかけた。


 ( わたしは、レオンをどう思ってるの?

 ……愛してる?……愛してる。この気持ちに偽りは無い。……この愛に偽りは無い

 そうよ。私はレオンを愛してる )


 レオンのところへ、いつものように……

 

 「レオン!おはよう!」

 「おはよう。カレン。」

 いつもの笑顔。やさしいながらも、今日は、少しはにかんでるようなレオンの笑顔だった。

 いつものように、二人で農作業に勤しむレオンとカレン。

 楽しく言葉を交わす二人。


 なんども聞こうと思った。

 けれど、怖くて聞けなかった……

 (そのペンダントは何?)

 聞いてしまえば、すべてが壊れてしまうような気がして……


 カレンは深く息を吐いた。

 冬が近づく冷たい風は、草原を渡っていた。あの日と同じ白い花が揺れていたが、カレンの心にはその風の音すら、胸を締めつけるように響いた。

 

 心のざわめきが止まる事のないまま……


 ※ ※ ※


 少しあたたかい風が、静かに山の草原を撫でていた。若い草木が揺れ、夜空の星々がその上でまたたいている。

 寒い冬がようやく終わり、季節はやわらかく、命の息吹を運んでくるようだった。

 レオンとカレンは、春の星空の元。焚き火の前で肩を並べて座っていた。

 「なあ、カレン」

 レオンがぽつりと口を開く。

 「なぁに?レオン」

 「俺……ずっと思ってたんだ。おまえは、いつか空に帰っちゃうんじゃないかって」

 カレンははっとして、レオンの横顔を見つめた。

 「おまえは空から来たんだろ? だから……この星に、長くはいられないんじゃないかって、勝手に怖くなったことがあった……」

 焚き火の火が揺れ、レオンの表情を優しく照らす。

 

 「俺には、家族って呼べる人はいない。愛する事や愛される事って分からなかったんだ……小さい頃に母親が亡くなった。父親と呼ぶ人も、俺にはいないんだ。

 ただ……このペンダントだけが、幸せだった頃の母さんのことを思いださせてくれる唯一のものなんだ。だからこのペンダントは何があっても捨てれなかった。」

 

 レオンは胸元からペンダントを取り出した。

 あの紋章が刻まれているそれは、カレンにとっても特別な意味を持つものだった。

 

 カチリと小さな音を立てて、ペンダントが開かれた。

 中には……

 

 一人の美しい女性と、その膝の上で微笑む幼い少年の写真が埋め込んであった。

 「レオンのお母様?綺麗な人!」

 レオンは照れたように笑った。

 「カレンにも、見てほしくってさ……」

 カレンはその写真を見つめたまま、そっと頷いた。

 胸が、温かくなった。

 

 守ってあげたい。そう思った。

 紋章の意味は? 

 あのとき感じた不安は?

 それはまだ答えが出ない。

 でも……もうそれでよかった。

 この紋章が何であろうと、私が見ているのは今のレオン……それだけだった。

 彼の過去も、記憶も、紋章の意味さえも――今はすべてを包み込める気がした。

 

 「ありがとう、レオン……」

 カレンは、春の星空を見上げた。

 

 不意に、体の中に流れる感覚が変わったことに気づく。

 

 白く輝く星空が、二人を包み込んでいた。


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