第14話 青の航路(翼は開かれた:ソフィア編)
リュミエール教会の裏庭
静かな夜明けのなか、ソフィア・リュミエールと、老兵ダリウス・ゼウスは黒く焼け焦げた跡が消えぬ墓石の前に立っていた。そこには、かつての王と妃――父と母の名が刻まれている。
濃い青の空には二つの星が並んで輝き、淡い光が墓標を照らしていた。
ソフィアは両手を胸の前で重ね、目を閉じる。
「お父様……お母様……私はこれから、カレンを探しに行きます。どうか導いてください。リュミエール・ディア・ゾーエ・アウローラ……」
祈りを終えて目を開けると、星々の光が少し近く感じられた。
隣に立つダリウスもまた、短く祈りの言葉を口にし、静かにうなずいた。
風が二人の髪を撫で、墓前に供えられた花々が微笑む。
その祈りを背にして、ソフィアとダリウスはゆっくりと歩き出し、待つ者たちのもとへと向かっていった。
その日の夕焼けの色が黒く焼けた墓石をオレンジに塗っていた頃。リュミエール教会の白い尖塔にも優しく夕焼けが照らしていた。
かつて王城のあったこの地は、今や復興の象徴として、静かに時を刻んでいる。
教会の片隅では、ソフィアとダリウスが、無言のまま荷をまとめていた。
細々とした道具や衣類、王国時代の名残を示す品々――そして、再起動された航行端末が、出発の時を告げている。
「……準備は整いました、姫様」
ダリウスがそっと言う。
「もう”姫様”ではないわ」
ソフィアは微笑み、しかし瞳に決意の色を灯す。
「わたしは、“姉”として……カレンを探しに行くの」
振り返ると、教会の階段には、集まった旧王国民の姿があった。
農夫、医師、職人たち――戦火を越え、この地に生きる人々が、ソフィアの背を見送っている。
「姫様……」
「いってらっしゃいませ。私たちの光を、どうか……」
「必ず、戻ります。もう一度、ここに……笑顔で集えるその日に」
ソフィアは深く頭を下げた。
その時、少女が野花を摘んできたのだろう。小さな花束をもってかけよってきた。
「ソフィアお姉ちゃん。行ってらっちゃい」
ソフィアは花束を受け取ると、その少女を抱きしめた。
※ ※ ※
セラフィム号
それは、リュミエール王国の記憶と希望を乗せた、白銀の飛翔艦。
流線型ボディに、大きな鳥の翼のような推進補助装置があり、船首の左右には大型の主砲が輝く。
中央管制室に乗り込んだソフィアを迎えるのは、彼女が信頼する仲間たちだった。
「すべての起動チェック、完了です」
――ミレイ・カノン。沈着冷静な科学士であり、航行データや技術面を一手に担う知性の核。
「護衛班、配置完了。ドローンの巡回システムも問題ありません」
――ハヤセ・レン。ソフィアの幼なじみであり、数々の武器を使いこなす、早撃ちの名手。今や頼れる攻撃班班長だ。
「射撃用システム、制御OK!目標補足も良好!」
――ユリス・ハント。明朗快活な長距離射撃の名手。過去を乗り越え、理想の王国を守るため銃を取った青年。
「カタパルトシステム異常なし。推進器、全機制御異常なし」
――ダリウス・ゼウス。忠義一筋の老兵。王の剣となり、今は艦の守り手としてソフィアを支えている。
『ソフィア艦長。いつでも飛び立てます。大気圏離脱の成功確率は、ほぼ100パーセント』
――ファラン・グリム。情報解析/戦術支援担当のA.I.ロボット。丸い頭と寸胴な体。論理的な会話好き人型ロボット。
そして――
『ルゥ……!』
肩に乗ってソフィアに寄り添うのは、小さな知的生物、ルゥ。
古代スリープカプセルで眠っていた彼は、今やクルーの一員として皆の癒しとなっていた。
『セラフィム号、上昇カウントダウン開始』
ファランの声が艦内に響いた瞬間――
ソフィアはひとつ息を整え、白銀のマントを翻しながら前へ進んだ。
マントの背には、リュミエール王国の紋章
――輝く月と太陽。白銀の羽をかたどった意匠が、光を受けてきらめく。
そして、艦の中央にある古代式の操舵輪へと手をかける。
「出航するわ。わたしたちの希望と共に」
操舵輪をぐっと握ると、艦全体に力が満ちていくような感覚が走った。
ドクン――まるで船自体が鼓動を打ったかのように、セラフィム号の外装が発光する。
ソフィアは胸のペンダントを握った。
「リュミエール・ディア・ゾーエ・アウローラ」
……お父様、お母様 見守ってて……
「セラフィム号、発進します――」
ソフィアの声とともに――低く唸るような駆動音が艦内を満たし、格納庫の空気が震えた。地響きを立てながら、山の斜面に大きな穴が開く。そこから巨大な白銀の機体がゆっくりと浮かび上がる。
青白いスラスターが地面を照らし、その光が格納庫の壁を流れていく。艦体両脇の装甲板が静かにスライドし、その奥から白銀の翼状ユニットが全容を現した。関節部のロックが外れるたび、鈍い金属音とともに推進翼がゆるやかに展開していく。
長い眠りの中で折り畳まれていたそれは、光を浴びるたびに艶やかに輝き、まるで生き物が静かに羽ばたきの準備をしているかのようだった。
今、翼は開かれた――
格納庫の照明が反射し、翼の縁が淡く光を帯びる。セラフィム号は静かに、その身を解き放っていった。
それは天に舞い上がる天使の羽ばたきにも似ていた。
教会の尖塔を抜け、セラフィム号は空を駆ける。やがて大気を抜け――星々の海へ。
その船体は、光の軌跡を残して広大な宇宙へと消えていった。
そして、そこに残ったのは――満天の星空だけだった。
みなさん、こんにちは。
W主演のソフィアです。
14話、最後までお読みいただき有難うございます。
いよいよ、宇宙に飛び立ちましたね。
第15話からは、物語の後半となります。
わたしは妹カレンと会えるのか?
最後まで見守ってくださいね。
第15話からは、毎日22:00に1話づつの投稿予定です。
引き続き、よろしくお願いします。




