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ふたつの星 ひとつの祈り(パート1)  作者: 慧ノ砥 緒研音


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第1話 輝く王国(祈りの星:姉妹編)


王国を襲った謎の艦隊により、姉妹は引き裂かれた。

残されたのは「祈り」の言葉だけ――。


星々を超えて続く2人の少女の物語。

古代文明と王国の謎が、2人の運命を引き寄せる。


やがて2人の運命は交差し、すべての謎が明らかになる。


これは、滅びゆく星々を舞台に描かれる

家族の絆と希望の物語。


SF × ファンタジー × ヒューマンドラマ


交互に紡がれる姉妹の物語が重なり合う時、あなたは真実を知る。


※本作は作者による創作をもとに、一部にA.I.支援を活用しています。


 かつて、星々の間に抱かれた小さな惑星に、美しき王国があった。


 その名は 《リュミエール》


 澄みわたる空、銀の河が走る大地、夜ごときらめく星の海。

 そのすべてが、王と王妃、そして民たちの優しき統治のもと、静かに息づいていた。

 この王国には、剣も砲もいらなかった。争いは遠く、歌と祈りが人々のあいだを流れていた。

 日が昇れば鐘が鳴り、夜には小さな子どもたちが「星の民の物語」をささやきながら眠りにつく。それが、この地のあたりまえだった。


 そして、ある日のこと。星が二つ、空に寄り添うように輝いた夜、城の塔に産声が響いた。


 その夜、生まれたのは、オリヴィエ・リュミエール王とアナスタシア王妃の次女、カレン。すでにこの国にはひとりの姫、ソフィアがいた。

 聡明にして気高く、まだ5歳という年齢で、幼いながらも凛とした風をまとう少女。アクアマリンの宝石のような輝きの瞳。

 淡いストロベリーブロンドの長い髪がきらめく。


 新たな妹の誕生を告げられたソフィアは、王妃のそばへと歩み寄り、生まれたばかりの小さな命をじっと見つめた。


 「カレン。はじめまして。お姉ちゃんだよ」


 ソフィアはそう言って、ぎこちなくも両手で赤ん坊の小さな指を包んだ。 その瞬間、彼女は小さく息をのむ。


 「え……この子の手を触ったら、夜なのに……パァーって、明るくなった気がしたわ」


 その目は、まるで星の光を見つめるように澄んでいた。オリヴィエ王とアナスタシア王妃は顔を見合わせ、そして静かに微笑む。王妃は娘たちの姿を見つめながら、そっと囁いた。


 「この子達には、きっと星の加護があるわ……」


 その日から、リュミエール王国は“ふたつの光”に包まれることとなった。姉妹が庭を駆け、城の塔に笑い声が響く。

 空の星々もそれに応えるようにまたたいた。それはまるで、夜空がこの国の未来に希望を灯しているかのようだった。


 だが、誰も知らなかった。星に選ばれし娘たちの運命が、静かに動き出していることを。


 それは《 ふたつの星 》と呼ばれる古い伝説だった。


 ※ ※ ※


 カレンが生まれて百の夜を超えた、ある満月が輝く静かな夜。


 アナスタシア王妃は原因不明の病に冒されていた。容体は次第に弱まり、王宮には深い沈黙が満ちていた。

 出産の疲れと日々の務めの為か、王妃の身体は思うように回復しなかった。  

 王妃の枕元には、白衣をまとった宮廷医師が立ち、医療装置に映る波形をじっとのぞき込んでいた。その波形は、さざ波のように、かすかに揺れていた。


 オリヴィエ王は、ソフィアを膝の上に座らせ、王妃の顔をじっと見守っていた。ソフィアは心配そうに、母の顔から目をそらさずにいた。


 アナスタシア王妃は、ふりしぼるように小さな声で、医師に言った。

 「……娘たちと、話がしたいわ……」


 医師はすぐに察し、深くうなずくと静かに頭を下げて部屋を後にした。


 「ソフィア……」


 「はい、お母様」

 オリヴィエ王とソフィアは、王妃の傍らに寄り添うように立った。


 「愛するオリヴィエ……そこの引き出しから、箱を取って……」

 オリヴィエ王は言われた通りに引き出しを開け、ひとつの銀色の小箱を取り出した。それを王妃の手元にそっと渡す。


 王妃は震える手で蓋を開け、白銀のペンダントを取り出した。

 楕円形のその飾りは、まるで月光を閉じ込めたような艶を放ち、中央には太陽と三日月をかたどった境界線が走っていた。

 王妃はその境界に沿って、ペンダントをふたつに分けながら語りかけた。

 

 「ソフィア……これは…… “星祝せいしゅくのペンダント” ……私の母から受け継いだ、古き誓いのしるし」


 ソフィアは目を見開いたまま、その輝きを見つめた。王妃は、ふたつに分かれたそのペンダントをそっとソフィアの手に握らせた。


 「ソフィア。これは、あなたとカレンのもの。けれど今は、あなたが預かってちょうだい……そうね……カレンが今のソフィアと同じ、五歳になったとき。お誕生日に、この三日月のほうを渡してあげて」


 ソフィアは、小さくうなずいた。

 「わたし……ほんとうに渡せるかな……」

 「きっと渡せるわよ……あなたなら、大丈夫。あなたはこの子の光にもなれる……そして……ふたりで未来を照らして」


 ペンダントの裏には、満天の星空のように小さな光の粒がちりばめられており、読めぬ古代文字が静かに浮かび上がっていた。

 それはまるで、彼女の命をかけた祈りが結晶となって宿ったように、淡く、しかし確かな輝きを放っていた。


 「ソフィア……カレン……ふたりとも……大好きよ……」

 そう言うと王妃はアクアマリンブルーの瞳をゆっくりと閉じた。

 王妃の声は、風に乗って夜空へと消えていった。そのとき、王妃の胸が、かすかに上下するのをやめた。


 「……おかあさま……?」


 「アナスタシア!?」


 眠るような穏やかな顔のまま、彼女の魂は、静かに空へ旅立っていった。


 ソフィアと王の声が、夜空にゆっくりと溶けていった。星だけが、いつまでも瞬いていた。


 ※ ※ ※


 王妃の葬儀が終わった夜、王城の高い塔の一室。燭台の炎がゆらめき、外では遠く星が瞬いていた。

 オリヴィエ王は、まだあどけなさを残すふたりの娘を左右の腕に抱き寄せていた。


 「お前たちは、私の光だ……」

 その低く温かな声に、ソフィアはきゅっと父の胸元を握りしめ、カレンは王の腕の中で寝息をたてている。


 その日から、彼は執務の合間をぬって、どんな小さなことでも娘たちの声に耳を傾け、ときには庭園を共に歩き、ときには王族としての教えを優しく説いた。


 王妃を失った悲しみの中で、王は今まで以上に、惜しみない愛をふたりに注いだ。


 ※ ※ ※


 時は流れ、悲しみを乗り越え、ソフィアは9歳、カレンは4歳になった。

 ある日の午後。王宮の庭園は、初夏の陽光に包まれていた。花々の間を吹き抜ける風が、カレンのプラチナブロンドの髪と白いスカートをふわりと揺らす。


 「ソフィアお姉さまぁ、見てください!」


 カレンが摘んだばかりの白い花冠を、小さな両手で大事そうに抱えて駆けてくる。


 「まぁ……カレン、上手に編めたわね」

 ソフィアは背の高いラベンダーの茂みから顔を出し、弟子のように後をついてくる庭師を笑顔で制した。


 「お姉さまの頭に乗せますね……はいっ!」

 カレンがそっと花冠をソフィアの髪に乗せると、銀の髪飾りの上で花がきらめいた。


 「カレン、ありがとう!似合うかしら?」

 「とても……お姉様は女神さまみたいです!」

 ふたりは顔を見合わせ、くすくすと笑いあう。

 花冠を乗せてもらったソフィアは、ふわりと笑ってカレンの手を取った。


 「ありがとう、カレン。お礼に……今日は私が、あなたの髪を結ってあげるわね」


 「え……ほんと?」アクアマリンブルーの瞳がぱっと輝く。


 「お姉さま、髪、結えるの?」


 「ええ、昔にね、お母様に教えてもらったのよ。三つ編み、うまくできるかしら」

 

 カレンは芝生にちょこんと座り、背をまっすぐにして待った。ソフィアはそっと膝をつき、カレンのプラチナブロンドの髪を両手で優しくすくい取る。

 風が花の香りを運んでくる中、指先でそっと編み込んでいく。髪を束ねていく間、カレンは嬉しそうに目を細め、じっとしていた。


 「はい、できた!……少し、ゆるいかもしれないけど」


 「ううん、すごくうれしい!」

 カレンは立ち上がってくるくると回り、三つ編みを揺らしながら笑顔を向けた。


 「お姉さま、わたし、大きくなったら、お姉さまみたいに髪を結えるようになりたいな……」

 ソフィアはその言葉に、一瞬目を細め、ふわりと抱きしめた。

 「……きっとなれるわ、カレン。あなたはとっても優しいから」


 その日の午後、ふたりの髪には、花と風と姉妹のやさしさが結びつけられていた。


 その様子を、少し離れた東屋からオリヴィエ王が優しい笑顔で見守っていた。王の胸にこみ上げるのは、哀しみの底から湧きあがる、深く温かな誇りだった。

 

 月の光のように穏やかな次女カレンは、見守る者の心をやさしく包み込む。太陽の光のように力強い長女ソフィアは、皆に希望と勇気を与える。

 そして、ふたりの姫の一挙手一投足は、夜空に瞬く満天の星々のように輝き、すべての国民を照らし、癒し、励ましていく。それを、この時すでに王は確信していた。


 王は静かに庭園に降り立ち、娘たちのもとへ歩み寄る。カレンは花冠をもうひとつ、父王に差し出した。


 「お父さまも、かぶってください」

 「……そうだな。ならば王としてではなく、父として」

 王はしゃがんで、カレンから花冠を受け取り、頭にそっと乗せる。それを見て、ソフィアとカレンは声をあげて笑った。その笑顔を胸に、王は心の奥で静かに誓う。


 この小さな手が、未来を掴むその時まで、何があっても守り抜こう。娘たちの希望が、決して闇に呑まれぬように……


 ※ ※ ※


 王妃が空へ旅立ってから5年が経った。季節は巡り、カレンは5歳を迎え、ソフィアは10歳になっていた。


 リュミエール城、東の塔。星空のもとで……ソフィアは母の形見のペンダントを手に取り、妹の首に三日月のペンダントの方をそっとかけた。


 「お母さまがね、私たちに託してくださったの。二人でひとつになる、特別なお守りよ」

 カレンは胸元で光るそれを見つめ、無邪気な瞳をきらめかせた。


 「これでお姉さまとずーと一緒なの?だったらずーとこわくないね」

 「ええ。ずっと一緒よ。約束よ」


 ふたつのペンダントが近づき、夜風の中で淡く光を放った。王妃の祈りが、再びふたりを包み込んでいるようだった。

 ソフィアはそっとカレンの肩を抱き、夜空を見上げた。


 「カレン知ってる?お母さまはね、毎晩、星に向かってお祈りをしていたのよ。私もずっと一緒に、お母さまとお祈りしていたの。だからこれからは、カレンも一緒にお祈りしましょう」


 カレンは首をかしげる。「お祈り?どうやるの?」

 ソフィアはカレンの手を握り、優しく言葉を紡ぐ。

 「こう言うのよ……『リュミエール・ディア・ゾーエ・アウローラ』

 ……愛するリュミエール王国よ、命を夜明けへと導いてください、っていう意味なの」

 

 カレンはつぶやくように繰り返した。

 「リュ……リュミ……エール……エル…ディア……ゾ……ゾーエ……アウローラ……」


 「上手よ!カレン。毎晩、これを一緒にお祈りしましょうね」


 カレンは胸元のペンダントを握りしめ、こくりと頷いた。

 夜空に瞬く星々が、まるでふたりの祈りを聞いているかのように、優しく瞬いていた。


 ※ ※ ※


 王宮の夜は、いつもなら森の小鳥のさえずりが聞こえるほど静かで、穏やかな空気が満ちている。


 だが……その夜は違った。不気味なほど、しんとした静寂が王国を包んでいた。

 ちょうどソフィアが12歳カレンが7歳の、初夏にもかかわらず蒸し暑い夜だった。高い塔の執務室で、オリヴィエ王は窓辺に立ち、夜空を見つめている。

 

 月明かりが城壁を照らし、草原を銀の絹のように包んでいたが、その美しさの奥に潜む何かが、王の胸をざわつかせていた。

 そのとき、扉の向こうから足音が近づく。硬質な軍靴の音、そして鋭い気配を纏った影が現れる。


 「陛下、報告をお持ちしました」


 そう告げてひざまずいたのは、親衛隊長……ダリウス・ゼウス。

 白く混じり始めた髪が月光を受けて淡く光り、左眼には黒いアイパッチがかかっている。幸せな王国には似つかわしい、戦場の空気をまとったその男は、腰にいた一振りの剣、《暁光ぎょうこうつるぎ》をそっと揺らした。その鞘には王家の紋章が刻まれている……


 《暁光ぎょうこうつるぎ

 夜明けを告げる光の名を持ち、代々の王家に連なる誇りを象徴する由緒ある一振り。エナジーソード(エネルギー刃)で、持つ者の精神力によって刃の発光色やパワーが変わる剣だ。今は、王が最も信頼するこの男の手に託されていた。


 「同盟の惑星から帰還中だった輸送船。通信が突如途切れた件です。ご指令により出撃していた捜索の偵察機から報告が入りました」


 オリヴィエ王は眉を寄せる。

 「……原因は?」


 「偵察機シルフィードが、最新のステルス航行モードで宙域を探索中、未知の艦影をレーダーで捕捉。通常の索敵では反応しない高次元の反射波を感知したとのことです。艦影は重力波をかき乱し、星間を裂くような雷光の嵐に包まれていた、と報告されています」


 ダリウスは報告を続けながらも、わずかに眉をひそめた。その片眼の奥には、幾多の戦場を越えてきた者だけが持つ鋭さと、王国を背負う覚悟が宿っている。


 「艦影は索敵妨害フィールドを展開しており、追跡は困難と判断されました。偵察機には、これ以上の接近は危険と判断し即座に帰還を命じております」


 王の背筋を、冷たいものがゆっくりと這い上がった。部屋の空気まで、わずかに重くなったように感じる。寝室では、ソフィアとカレンがまだ幼い寝息を立てているだろう。

 その無邪気な寝顔を思い浮かべた瞬間、王の手は机の上の剣、《エトワールソード》の柄を無意識に握りしめていた。


 《エトワールソード》

 王家とその血縁者のみが使用するエナジーソード(エネルギー刃)で、持つ者の精神力によって刃の発光色やパワーが変わる剣だ。この剣は王族の数に合わせて複数本用意されており、それぞれの正統な持ち主のもとで輝きを放つ。その剣は碧白く瞬いた。


 「……ダリウス。夜明けと同時に警戒態勢を敷け。……もしものときは、この王国を、あの子たちを、必ず守る」

 「はっ」

 短く、しかし力強い返事。その声には、片目の奥に秘めた揺るぎない決意が宿っていた。


 腰の暁光ぎょうこうつるぎが、わずかに鈍い光を返した。月光が、王の横顔を静かに照らしている。


 外の闇の彼方で、確かに何かが動き始めている……

 それは、この惑星リュミエールに進路を変えた、黒き船隊の影だった……



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