牛という動物に地球を侵略されているという話。
分かった。
分かってしまった。
私は分かってしまった。いや、これは気づいてしまったと言ったほうが正しいかもしれない。
おそらくだがこの事実を知っている人間は私の他にそういないだろう。
まあ御託を並べるのはやめて、本題に早速入ろうか。
私も早くこの気づいてはいけなかった世界の秘密を誰かと共有したいし、君たちも世界の秘密に触れることが出来るとなると喉から手が出るほど知りたいと思うだろう。
そういえば、実際喉から腕が出ているところを私は見たことがない。私自身、喉から手が出るかと思うほどに何かを欲したことがないだけだとすれば、手が出ることがあるのかも知れない。そうなればおそらく手が出た後には腕が出た出てくるはずだ。なにしろ欲しいものを体の中に取り込んだところで使い物にならないからだ。片腕の後は当たり前だが頭が出てくる。いや、両手が同時に出てくることも考えられるか……。
ここは喉の大きさと出やすさから片腕だけで考えてみよう。
片手、片腕、頭が出た後はどるんと体が出てくることになる。
『喉から手が出るほど』と言う言葉の裏を返せば、私たちの体の中にはもう一つ体があり、その体は自分自身が欲しいと感じているよりもはるかに欲しいものが欲しいために姿を現す。という事になるのだろうか。いや、現実的に、化学的に考えてそんなわけはないと思うのだが……。
おっと申し訳ない。少し話が少し逸れてしまったようだ。すぐに本題に戻ろう。
君たちは『牛』を知っているだろうか。
何を不躾にと君たちは思うかもしれないが、私は真面目に問うている。
牛。
哺乳綱鯨偶蹄目ウシ科ウシ亜科の動物である。
君たちがよく知るcowと呼ばれるアレなのだが、そのアレについて重大なことに私は気づいてしまった。
では次の質問なのだが、君たちは『宇宙人』という存在についてはどれほどのことを知っているだろうか。
いやすまない、この質問をこのタイミングで投げかけるのならば。と聡い君たちは答えに行き着いてしまったことだろう。宇宙人は宇宙のどこかに存在するのか否か、もしも存在するとして彼らはどのような姿形をしていて、意思疎通ができるのか。この地球に既に生息しているのか。これらのテーマは飽きるほど議論され、答えが出ずにいた。君たちは宇宙人の存在を信じるか。いや、回りくどい言い方はやめもう結論を言おうか。そう、私は気づいた。知ってしまったのだ。
地球にはすでに宇宙人が存在している。
牛という生物そのものが、宇宙人だったのだ。
何を馬鹿なと思うかもしれないが、これは真実なのだ。
宇宙人とは緑色のタコのような姿だろうか?
宇宙人とは全身銀色で大きな黒い目玉がついているのだろうか?
飛行船に乗って、見たこともない銃のような武器で襲ってくるのだろうか?
はたまた友好的に私たちと言葉を交わし、知らない情報を教えてくれるのだろうか?
こんなものはオカルト好きの人間が考えた幻想である。
宇宙人は緑色でも銀色でもない。見たこともない武器で襲いかかってくることも、友好的に会話を交わすこともできない。指先を合わせることもなく、彼らはただ乳を出す。色はおおよそ茶色で、おおよそ白黒だ。話すことはなくもおと鳴く。
なぜ私は彼らを宇宙人だと思い、確信したのか。話せば長くなるが、是非聞いてほしい。
まず、彼らは人間に寄生している。
いつから。そう、人が人として生活を始めた時、すでに牛は同じく牛として地球上に生活しているのだ。犬や猫とは違う。愛玩動物としてではなく、生活に必要な労力として。時に背に人や物を乗せ、時に人や物を引き、乳を出し、肉を差し出す。牛は人間に寄生している。
寄生している割には食われているではないか。と声を上げる者もいるだろう。ならば立場を逆に考えてみよう。
人は遥か昔から、牛に寄生して生きている。
人や物を運んでもらい、食べ物を与えて貰っている。日常から牛の乳が無くなれば、ミルクを飲むことが出来なくなり。美味しいパンも作れなくなる。もちろんチーズやヨーグルトも多くは作れなくなる。牛肉という食べ物は人にとっては切っても切れないものになっている。鶏肉や豚肉があるものの、牛肉という存在は大きい。大豆ミートという人工肉を作るほどに、ミートは必要不可欠なのだ。だからこそ牛が絶えないように人間は牛の交配をサポートする。人の手で育てる事により、自然界の魚や鳥獣のように、牛が絶滅することは無い。
人間は牛の恩恵を受け、牛はその身を差し出す事によって安全に繁栄する。
ここまで語ったが、これはただの共存関係にも見える。しかし、牛には裏があるのだ。
こうしている今も、牛がこの地球を侵略するための準備が着々と進んでいる。
牛が人類を掌握しているのは先ほども述べた通りだが、牛は、この地球を取り巻く環境というものも掌握しつつある。
それが、温室効果ガスだ。牛がゲップや糞尿をする過程で、メタンや一酸化二窒素が発生する。
これらの温室効果はそれぞれ二酸化炭素と比べると、メタンで二十五倍。一酸化二窒素で三百倍にもなる。現在畜産関連が占める温室効果ガスの総排出量は1%と少ないが、確実に私たちの世界を蝕んでいるのだ。
牛たちは何千年もかけてこの地球を侵略しようとしている。この事実はこの温室効果ガスの情報により決して否定されないものになったのだ。
だが、我々は彼らの侵略から逃れることが出来ない。なぜなら牛乳が好きで、牛肉が好きだからだ。
今更全ての牛を殺処分することも出来ない。もう完全に牛の虜になっている。
恐ろしいが、温暖化が進み人間が絶滅しても、彼らは生き残れる。私たちに合わせているだけなのだ。【宇宙人である彼らは…】本来の作戦通りゆっくりと気温を上げる、そしてその気温に絶えうる体を彼らは持ち合わせている。
余談なのだが、各地で起こる『キャトルミューティレーションで牛が連れ去られる』という事件が多発しているのも証拠になると私は確信している。
あれはたまたまなどではない。
現在の牛の体がどうなっているか、上手くいっているのかの確認。それから、抗生剤やワクチンなども打っていると私は見ている。謎の傷を負った牛の死骸や、血液が亡くなった牛の死骸などは、恐らく牛の中の規律を犯し、キャトられた後で処罰された姿なのだろう。
ただ、私自身がまだキャトルミューティレーションされているところを見たことがないというのは残念だが、今後気温や気候が変わってくるにつれ、キャトルミューティレーションの数も増えるだろうと思っている。
最後に、我々がいつまで生き残れるかは、牛にかかっているのだ。
ならば牛を精一杯に堪能しよう。それが彼らにできる唯一の寄り添い方であろうと私は思う。