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キミの声。 feat.リク

 星野リクと星野ソラは一卵性双生児である。


 だからだろうか。違いを理解できるのはリクたち本人と、家族くらいだ。

 ごくまれに例外もいるけれど、リクとソラの服は色違いなだけだから、小学校でクラスメートや先生たちからたびたび間違えられる。


「先生ー」

「ええと……、ソラくん、かな?」

「いや、リクだけど」

「ご、ごめんね!」


 何年も教師をしている人間ですらこれである。

 まだ小学校に入学してふた月かそこらだから、慣れていない人間が見分けられないのは当然。だが、リクにとっては不満がつのるだけだ。


 クラスメートに至っては、


「ねぇソラくん、勉強教えて」

「いや、俺、ひとに勉強教えられるほど頭よくねーぞ」

「なんだ、リクくんか。じゃあいいや」


 と、勝手に間違えて勝手に落胆する。

 だからリクも心の中では他人のことを『自分を見分けられる人』『見分けられないその他大勢』に二分している。



 さらに。初対面の人間に、必ずと言っていいほど聞かれる言葉がある。


「どっちがお兄ちゃん?」


 リクは内心、ため息をつきながら答えた。


「俺が弟」

「へぇ~、お兄ちゃんのほうが落ち着いてるんだね!」


(あー、クソめんどくせ。この会話何回目だよ。お前らは初回だけ聞いてるつもりかもしれねーけど、こっちは何千回と聞かれてんだよ。やめてくれよそういうの)


 生まれた時間は数時間しか違わないのに、必ず「どっちが兄?」「弟はやんちゃそうだね!」みたいな流れになる。


 どっちが兄か、そんなどうでもいいことを聞いてくる人間の気持ちがリクにはわからない。聞いてなんの得があるのか、「お兄ちゃんのほうがおとなしいんだね」「弟くんは落ち着きがないな」なんて比較する意味があるのか。

 リクはリク、ソラはソラなのに、どちらのほうが兄で弟だと枠を決めたがる。


 そこである日、リクは決めた。

 普段から「兄貴」って呼んでいれば、初対面の人にも説明不要だ。


 ソラを「兄貴」と呼べば、誰も「どっちがお兄ちゃん?」なんて聞いてこない。

 ソラはリクの真意を悟ってか、何も言わず兄貴呼びを受け入れた。ソラはソラで、「どっちがお兄ちゃん?」と何回も聞かれるのに辟易していたからだ。

 こうして、リクからソラへの「兄貴」呼びが自然と定着した。

 




 昼休み。リクは遊びに誘おうと、教室にいた夏美を呼んだ。


「夏美」

「なに、リク?」


 夏美は振り向きもせずに答えた。


 ……一瞬、息が詰まる。


 クラスにいた他の子どもたちも、「え、なんでわかった?」という顔をしている。


 リクとソラがどちらか片方だけで話していると、普通の子はどっちがどっちかわからなくなる。


「夏美は……なんで今の一言だけで……俺だってわかったんだ?」


 夏美はきょとんとして、首を傾げた。


「どういうこと?」

「……なんで、今のが俺だってわかった?」


 これまで何人もの人に間違われて、うんざりしていた。

 夏美は顔も見ずに、リクがリクだとわかる。

 見分けてほしかったはずなのに、いざこうして簡単に見分けられると戸惑いしかなかった。


「え、だって、どう聞いてもリクの声だったよ」

「いや、俺と兄貴、声がまったく同じだろ。医者にも言われてる。データ上だとまったく同じって」

「うーん……そうかな? 全然違うよ」


 夏美は小首を傾げて、あたりまえのように笑う。


「リクはリク、ソラはソラでしょ?」


 普通の人なら「どっち?」って聞き返すのに。

 夏美は何の迷いもなく、「リク」だと言った。

 そう気づいた瞬間、妙に胸の奥がざわついた。




 成長してからも、ソラとリクを完璧に見分けられる他人はほぼいない。

 高校に入って一年経ったある日。

 もうすぐ午後の授業が始まるときにリクはあえてソラの席に腰を下ろした。




 完璧に「ソラ」を演じたつもりだ。

 襟元のボタンもきっちり留め、背筋を伸ばし、あの優等生らしい雰囲気を真似た。


 クラスメートは普通に会話しながら自分の席へ戻っていく。

 隣の席の村山(むらやま)が「ソラ、ノート貸してくれよ。現代文って出席番号でかけてくるじゃん。おれ今日絶対あたるからさ」なんて言ってきた。


(やっぱりな。俺と兄貴は、見た目がほぼ同じだから、気づいちゃいないんだ)


 ふと視線を感じて顔を上げると、夏美が教室の入り口で立ち止まっていた。

 夏美は早足でよってきて、じっとリクを見つめる。


「リク。こんないたずらして、先生に怒られても知らないよ?」


 クラスのざわめきの中で、夏美の声だけがはっきりと聞こえた。


「……え? ソラじゃないのか?」


 村山が、驚いてリクの方を見た。夏美に指摘されるまで気づかなかった。一年同じクラスにいたのに。

 夏美の言葉に、リクは小さく笑う。


「なんだ、つまんねーの」

「何が?」

「いや、なんでも」


 リクは立ち上がり、襟元をゆるめて自分の席に戻る。


 それを見て、周りの生徒たちがようやく「え? リクだったの?」とざわつき始めた。


 誰一人気づかなかったのに、夏美だけが即座に見抜いた。


(……夏美って、本当に俺とソラを間違えないんだな)


 それが嬉しいような、苦しいような。


 夏美にはきっと、この気持ちは伝わらない。

 伝わらないままの方が、いいのかもしれないけど。


(俺たちを見分けられるくらい見ているなら、……気づいてくれよ。俺が、ずっとお前を見てることに)



 キミの声 END

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