遺跡の奥に
私達探索隊はその場所を見つけた。
「本当にあったのか」
広い砂漠の中でも前人未到の地。
神話に語られる王国の跡地だった。
「リーダー、見てください。神話の通りだ」
感嘆の声をあげる私たちの足元を見たことも無い虫が這っている。
どうやら生態系も全く違うようだ。
数千年前に起きた戦争で滅びたと言われるこの遺跡に残っていたものは実に興味深いものばかり。
「見てください、この意匠を」
メンバーの一人が転がる壺一つを見つけては立ち止まる。
「ごらんください。この壁を。当時のメニューがしっかり残されていますよ」
食事処の跡で幾人かのメンバーが立ち止まりしげしげと眺めていた。
その周辺を先ほど入口で見かけた虫が羽ばたき私達の周辺にわらわらと飛んでくる。
「あぁ、くそ。鬱陶しい!」
そう言って両手で虫を追い払いながら、遺跡の中を私達は探索をしていく。
遺跡の奥に奥にと進んでいくと、目も眩むようなかつての栄華の残渣が無情にも広がっていた。
「宮殿の跡地か」
「ええ。大戦争によって全ての人間が消え失せたと聞いていましたが……」
感嘆の息を吐く私達の周りに先ほどの虫が群れを成し真横を横切っていった。
どうやら遺跡全体があの虫の巨大な巣になっているらしい。
「あいつらも後で捕えましょう」
メンバーの一人の言葉に私は頷くと探索を続けた。
そんな私達の背を監視するように虫たちは着かず離れずの位置で這ってついてきたが私達は誰も気にすることはなかった。
やがて最奥で私たちは壁一面に丁寧に書かれた文字を発見した。
「これは……」
古の時代のもの。
遥か昔のものでは読むのに不可能に近い。
しかし。
「解読できます。時間さえあれば」
「あぁ」
私達のように未知を愛する者はこの瞬間のために生きているのだ。
「せんた……くのと……きが……『選択の時が来た』ですかね」
そういって解読を始める私達の周りに先ほどの虫たちがじわじわと集まって来る。
しかし、私達の誰もそれを気にしない。
「ほこりを……もってし……『誇りの下に死ぬか』か。その次は『あるいは』だから……」
「死を選んだのか……それとも別の選択を? ならば彼らは何を選択したのだ?」
解読を続けながら私は呟いていた。
『選択の時が来た』
『誇りの下に死ぬか』
『あるいは』
虫たちが一斉に羽音を立てた。
まるでミツバチがスズメバチを必死に威嚇するときのように。
しかし、私達はそれを無視する。
こんな虫がいくら集まろうとも気にもならない。
『異形の姿になろうとも生き抜くか』
私達が虫たちの正体が異形の姿となりながらも生を選んだ人間達の子孫だと気づくのはずっと後のことだった。
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