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神の園のリヴァイブ  作者: くしむら ゆた
第一部 二章 戦いの足音
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第十九話 水滴石穿

(くそったれ……っ!!)

 

 ガンリョウの無慈悲な声が聞こえるのと桃が同時に完成させたのは【水刃輪(すいじんりん)】。

 これを何処へぶつけるべきかが問題だ。

 響きからしてヤバい技だ。この壁越しに串刺し刺しにしてしまう様な。そんなヤル気満々の技名だ。


(多分正面左右はまずいっ)


 背後の扉へ振りかえる。

 

 鍵が開いているかどうかなど確かめる暇はないが、砦で使われていた共通の扉だ、そこまで強度は無い。

 【水刃輪(すいじんりん)】で強引に扉を真っ二つにして狛を押し込み、自分も体をねじ込む。


「桃!!」


 次の瞬間、強引に手を引かれて桃はもといた廊下へ脱出していた。


「危なかった……」

「助かった……」


 狛と二人、力が抜けたようにへたり込む。

 ピンチを切り抜けた安心感と、それ以上に心強い助けが来たことに安堵した。


勇魚(いさな)、ハヌマン。助かったよ……」

「間に合ってよかった。俺達もヒヤヒヤしたよ」


 勇魚(いさな)が差し出した手を取って立ち上がる。


「追いかけてまた砦に入ったは良かったんだが、迷路みたいになっていてな。ここまで来るのが遅れちまった。」

「それはガンリョウ……今回の頭の能力だな……」

「なるほど、あいつがそうか」


 衝撃で扉が壊れて、先ほどまで戦っていた広間が露わになる。

 扉の前では無数の棘が生えた二枚の壁が左右から挟み込むように、桃達を閉じ込めた壁ごと先ほどまで桃達が居た空間を挟み込んでいる。

 その場所を眺めるように、ガンリョウは苛立った様子で佇んでいた。


(命までは取らないって言ってたけど、あれ喰らったら死ぬだろ……)


 桃の頭の中に、自分が串刺しになった嫌な光景が浮かんだ。

 もし勇魚(いさな)が引っ張り込んでくれなかったらと思うとぞっとする。

 

「これはこれは……。今日はなんとも賑やかな日だ。私特製の迷路で歓迎したはずだが、随分とお早いご到着だったね」

「悪いが遊んでる暇はなかったからな。ぶっ壊してここまで来たぜ」


 得意げに言い放った勇魚(いさな)に、ガンリョウは眉を潜めた。


「壊した……?貴様、迷路の規則を守らずにここへ来たと……?」


(気にするところそこなんだ……)


 桃は心の中だけで静かに突っ込んだ。

 

 迷路に拘りでもあるのか、それとも自分の築いた物に対する拘りか、ガンリョウは随分と苛立った様子だ。

 桃と狛を壁に攫った時のやりかたといい、自分の能力やセンスになにかしらの自負があるタイプなのだろう。


「まあいい。規則を守って迷路を突破しなかったことは腹立たしいが、今更二人増えたところで、私の勝ちは揺るがない」

「言ってくれるじゃねえの。蘇芳の若い力見せてやらぁ。桃、こいつはどんな奴だ?」

 

「かなり硬い。今のこいつには剣も刀も刃が通らない。動かない岩は斬れても、こいつは自分でうまいこと刃筋をずらしてくるからかなり厳しい」

「だがあいつの胸に傷があるってことは……」

「ああ、魔法なら通る」

「そうか。じゃあ任せた」


 勇魚(いさな)が静かに槍を構え、ガンリョウに相対する。

 

 棒高跳びのように槍の柄を使って背後へ飛んだ勇魚(いさな)は、時に突き、払い、叩きつけてガンリョウをけん制していく。

 一方のガンリョウは相変わらず体の硬さに防御を任せており、動きは鈍い。

 しかし有効打を受けることもなく、悠々と勇魚(いさな)の攻撃を受け止めていく。


「狛、勇魚(いさな)が引き付けてくれてる間にハヌマンにも武器を作ってやってくれ。出来れば打撃武器を」

「桃様、しかし私にも槍が……」

 

「ただの武器じゃあいつには効果が薄い。鎧の上からでも叩き潰せるような武器出なきゃだめだ。色々試してどの武器もある程度使えるようになったお前だからこそ、一番効く武器をお願いしたい」

「……!わかりました!」

 

「私達も武器が出来たらすぐに行く。気を付けてね」

「ああ」


 狛の言葉を背に駆けだす。

 勇魚(いさな)はガンリョウの相手をしながら徐々に広間の真ん中へ移動している。

 

 槍の一撃とガンリョウの打ち合う音が広間に響く中で、桃は静かに水のマナを魔力に変えて狙いを定める。


 勇魚(いさな)は槍の柄と穂を器用に使い分けながら、ガンリョウの攻撃を捌き、反撃していく。

 一見すると勇魚(いさな)が押しているように見えるが、やはりガンリョウの防御は硬い。

 

 そろそろ攻め続けるにも一息呼吸を入れる頃合いだろう。


「ッチィ……、桃の言ってた通り硬いな……」


 桃は勇魚(いさな)が後退したタイミングで、【鉄砲雨(てっぽうう)】による水弾を浴びせる。

 狙いは勿論胸の傷。

 集中的に狙うために、剣を狙いの指標の代わりに射線を取って機関銃のように連射していく。


「ぬぅ……」


 やはり傷口に攻撃されるのは好ましくないらしい。

 

 集中的に撃ち込まれる水弾から傷口を自らの腕で庇ったガンリョウに対し、桃も勇魚(いさな)を射線に入れないように移動しながら傷口を狙っていく。


 腕で庇われていても構わない。

 撃ち続けることで腕を一本封じられるのであればそれだけで勇魚(いさな)は攻めやすくなる。

 勇魚(いさな)は水弾の対応で腕が塞がったガンリョウに再度突貫し、鋭い突きを放つ。


 これまでの戦いの中で負わせた大きな傷は胸のみ。

 

 されど桃と狛のこれまでの剣撃によって細かい傷やヒビが入っている場所は無数にある。

 勇魚(いさな)はそれらを的確に狙いすまし、抉るように、或いは削ぐように、巧みに槍を操ってあらゆる手段で攻撃を加えていく。


「あまり調子に乗るなぁあ!」


 その流れにガンリョウはついに青筋を立て、色をなして怒鳴り散らした。

 勇魚(いさな)をこれまで以上の怪力で弾き飛ばし、自らの力で出現させた壁を破壊して何かを取り出し、両腕で振り回す。


 それは巨大な岩の剣。

 正月に使う羽子板のような見た目のそれは切れ味など無いに等しいが、あの腕力で振り回せば人間など用意に吹っ飛ばし、振り下ろせば物理的に叩き潰されるだろう。

 ガンリョウは岩剣を取り出した勢いのまま振り回し、そのまま勇魚(いさな)に叩きつけたが、さらにそこに割って入った影があった。


「おおおおおぉぉぉ!!」


 雄たけびを上げて割って入ったのはハヌマンだった。


 その両手にはそれぞれ、金属製の竹のような見た目の打撃武器を持っている。

 ハヌマンは武器を振るい、単身一枚岩のような岩剣と勇魚(いさな)の間へ果敢に割って入るとそのまま攻撃を受け止め、弾き飛ばす。


(竹節硬鞭……!狛、ナイスセレクト!)


 一方、重さの籠った一撃を弾き飛ばされたガンリョウはたたらを踏んで後退していく。

 

 その隙に狛が背後から切り込み、勇魚(いさな)が間合いを詰めて再度岩剣を振るおうとしたガンリョウに割って入る。

 

 勇魚(いさな)が割って入ったことでガンリョウは岩剣を振るい切れず、ハヌマンが腕へ向かって硬鞭を振るう。

 太鼓にバチを叩きつけるように、力強く振るわれた二本の鉄の塊はガンリョウの腕を二本まとめて容赦なくたたき割り、大きな蜘蛛の巣上のひびを入れた。


「ぐぬぅ……!!」


 ガンリョウがたまらず岩剣を手放し、腕を引く。

 しかしその隙を桃は逃さなかった。


「そこだ!!」


 既に周囲の水のマナを魔力へと変え、手には【水刃輪(すいじんりん)】を形成している。

 時間はたっぷりあった。

 いつも以上に念入りに圧縮した水は硬い岩石だろうと削り切る刃になった。

 

 ハヌマンが入れたヒビに向かって、桃が【水刃輪(すいじんりん)】を思い切り叩きつけると、固い体からくる強い抵抗に阻まれる。

 しかしたっぷりと時間をかけたことで切断力を上げた水刃輪は周囲のひびを広げながらガンリョウの腕を削るように切り進み、ついに完全に切断した。


「ぐおおおぉ」


 悲鳴と共に落ちた腕がごとりと音を立てる。

 出血は無いようだが、先ほどとは違う手ごたえ。

 ダメージはあるようだ。


「畳みかけるぞ!!」


 勇魚(いさな)が号令する。


 今ならチマチマ攻撃せずとも一気に攻め立てられる。

 その号令に合わせるように桃は魔法でガンリョウの両足を凍り付かせ、後退を封じ込める。


 狛が両腕を失いがら空きになったガンリョウの正面に回り込み、胸の傷へすれ違いざまに一閃する。

 更にハヌマンが回り込む形で後頭部と首へ硬鞭の一撃を加えると、前後両面から攻撃を受けたガンリョウの身体がくの字に曲がった。


「行くぞ桃ォ!」

「任せろぉ!」


 剣に水の魔法を纏わせることが出来るなら、当然仲間の武器にだってできる。

 今の桃には時間と集中が必要だが、それは勇魚(いさな)達の加勢で解決した。

 

 勇魚(いさな)と共に槍の柄に手をかけ、指輪から魔力を込める。

 槍の穂先に水の塊が渦を作り、やがて槍の穂全体を包んでいく。


「いくぞガンリョウ!!」

「ぬおぁあああああ!!!」


 最後の叫びは敗北を確信してしまったが故のものか、それともそれでもなお此方へ攻撃しようとした意思の表れか。

 それは分からない。

 

 槍の穂先がガンリョウの胸のヒビに突き込まれる。

 その瞬間、渦巻いた水がドリルのようにガンリョウの身体を穿孔していく。


「あああああぁぁぁぁ!!」


 叫んでも穿孔機(せんこうき)のようにガンリョウの身体を削り開けていく水の槍は止まらない。

 やがて体中にヒビは広がり、圧力に耐えかねたかのようにガンリョウの背から渦を巻いた水流が勢いよく飛び出す。

 

 ハヌマンと狛が左右に躱して、その様子を見守った。

 そしてガンリョウの足元を固定していた氷がその勢いに耐えられなくなった時、その体は水の流れに乗って思い切り部屋の端へと叩きつけられた。

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