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神の園のリヴァイブ  作者: くしむら ゆた
第一部 二章 戦いの足音
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第十七話 後編 壁の内にて

「狛、怪我はないか」

「大丈夫、ありがとう桃」


 周囲の轟音と土煙は、存外直ぐに止んだ。

 桃は周囲の様子を探るが、思いのほか暗いために良く見えない。


(目も慣れてないし、見えないのは当たり前か……)


 桃は逸れないように狛の手を握りながら、周囲に目を凝らす。

 

 背後と左右には壁。正面には一本道の通路。

 先ほどの砦も簡単なものだったが、今桃達を囲んでいる壁はそれ以上に簡素で、申し訳程度の装飾すらされていない。

 

 このまま進めという事だろうか。どうしたものかと考えていると、周囲に配置された申し訳程度の燭台へ灯りが灯る。

 灯はそのまま奥へ続いていき、その先には扉が見えた。


 あの扉には見覚えがある。

 砦の中では共通で使用されていた扉だ。


「狛、剣は使えるか」

「刀ほどじゃないけど」

「この先へ進む。戦いになるかもしれない。一先(ひとま)ず俺の剣を貸しておくからそれを使ってくれ」

「それじゃあ桃の武器が無くなるじゃない。借りられないよ」

「俺は魔法があるから大丈夫だ」

「あの扉を破った?んー。でもやっぱり借りられないよ、自分で用意できるし」

「自分で?」

「うん、見ていて」


 そう言うなり、彼女は小袖の袂から小さな巾着袋を取り出す。

 巾着袋の口を開けて手の上に中身を空けると、彼女の掌にはころりと丸い3つの石と羽飾りの連なった根付が転がってきた。


「石……?」

「ただの石じゃないよ。これは海に流れ込んだ溶岩を加工した物。私もね、魔法使えるんだ」


 そういって狛は(てのひら)に乗せた溶岩を握りしめる。

 

 彼女の周りには徐々に土のエネルギーが満ちていって、周囲の地面が僅かにカタカタと音を立て始めた。

 それから待つこと数十秒、地面から伸びるように生えてきたのは一本の刀だ。

 

 柄と刃が一体化しており、鍔もないその刃物は桃が記憶しているものよりも幾分か重く、無骨なものだった。

 しかし刃の形状を含めた総合的な見た目は正真正銘の刀だ。


「凄いな。武器を作れるのか」

「私の実家は鍛冶屋だからね。想像だけはしやすくて。土関係と言えば鉱物。鉱物と言えば金属。金属と言えば武器でしょ?土のマナをちょちょいと集めてね、火のマナと風のマナで鍛えて、水のマナで冷やして……つまり、マナを使って作った物質で鍛冶をしてるみたいなものかな」


 狛のその言葉に、桃は驚いたように声を上げる。

 

「待て待て。狛、全部の属性使えるのか!?」

「私のご先祖様いろんな属性の魔物がいるみたいでさ、一番得意なのは土なんだけど、他の3つもちょっとずつ使えるんだ」

 

 複数の性質を持つ者は決して珍しくない。

 ただ、狛の言う通り色々な属性の魔物血を引いていたとしてそれを使いこなすことは相応の修練が必要となる。

 家業が関係しているとはいえ、狛のような年齢でここまで形にしているのは驚きだった。

 

「成程……」

「私が鍛冶に関わろうとすると親はいい顔しないし、魔法使えるのも家族の中では私だけだし、女のお前には無用の長物とか言われそうだから言ってないんだけどね」

「そうなのか」

「うん。元々武器が好きだったのもあってこっそり刀を振り始めたんだけど、ついにばれちゃってねー。案の定猛反対されて家出同然で出てきちゃった。これはその道中で作ったの」

「じゃあ、狛の手作りなわけだ。器用だな」


 桃が彼女の手にある根付を覗き込みながら言うと、狛はそれに「でしょ」と笑って小さく頷く。


「溶岩だけで風以外の属性の媒体にできるからね」

「水も溶岩で出来るのか」

「溶岩って、熱で溶けた流れる岩石が冷えて固まるでしょ?熱は火、岩は勿論土、冷却や流動は水のエネルギーの要素だからね」

「詳しいんだな」

「鍛冶は色々と自然物を扱う仕事だからね。魔物に教えてもらった知識や技術を記した文献が実家にも残ってたの」

「まあさっきも言った通り、家族は私が鍛冶場に入ろうとするといい顔しないから、そういうのもこっそり読むしかなかったし、この根付もこっそり手作りするしかなかったんだけどさ」


 話を聴く限り、狛は家族と不仲とまではいかずとも、理解が得られない環境だったようだ。

 鍛冶場が女人禁制を敷いていたというのは、前世でも聞いたことがある。

 

 他の世界から持ち込まれたのか、あるいは元々存在したのかは分からないが、この世界にもそういった俗信があるようだ。

 そういった環境下でこっそりと魔法をここまで扱えるまでになったのは驚嘆に値する。

 精密な自然エネルギーのコントロールとイメージを要求されるはずだ。

 自覚していないようだが、かなりの天才肌と言えるだろう。


「若いのに凄い……、俺も全部の属性使えたらなぁ」

「桃だって一緒ぐらいの齢じゃない。それに、属性はご先祖様次第なんだから、桃だってもしかしたら水以外使えるかもよ?」

「確かに……俺もまだまだ色々試してないことあるし期待してもいいか……それにしても武器を作るって発想はいいな!」


 武器を作る。という発想はこういう事態で特に力を発揮するだろう。

 

 桃も前世において漫画やゲームなんかで氷で武器を作って使ったり、投擲したりといった描写を目にした。

 頭の引き出しの中にはあったのに、狛の魔法を見るまですっかりしまい込んで忘れてしまっていた。

 

 桃が感心して狛を誉めれば、彼女は得意げに笑って見せた。


「でしょ?私の場合鍛冶仕事と同じように考えちゃう所為か時間かかるのが難点なんだけどね」

「それでも十分凄いさ。落ち着いた後でよかったら詳しく聴かせてくれ」

「勿論!特訓に付き合ってもらう約束もあるしね」


 そう答える狛の表情は明るい。


 この状況は決して良いとは言えないのだが、変に不安感に支配されて動けなくなるよりはよほどいい。

 本来であれば彼女を家に帰るよう説得すべきなのだろうが、桃としても家の事情に割って入るのも気が引ける。


 こんな世の中で武器を取るという事の意味を思えば、彼女の家族は心配して反対したのだろう。

 狛もそれを内心分かっているのだろうけど、割り切れない気持ちも理解できる。


(もし前世で父親にでもなった経験があったなら、俺のこの内心の思いも変わったのかもしれないけど……)


 親としての経験がない分、桃はどうしても考え方が狛の方に寄ってしまう。

 それに両親より先に死んだ最大の親不孝をしている手前、強く止めることもできないし、その権利も無い。

 

 ともかく、まずはこの状況から抜け出すのが第一だろう。

 まるで誘い込むように口を開けた通路の奥、そこにそびえる扉までたどり着くと二人で顔を見合わせて一気に開け放つ。


「やあ、いらっしゃい。一本道にしておいた筈だが……随分と遅いご登場だね」


 開け放った先にはドーム状の広い空間。

 その真ん中で、一人の男が石造りの椅子の上にぽつんと座って待っていた。

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