薪集め
緩くやっていきます
~剣を振るわせれば向かうところ敵無し、清廉にして勇敢、我欲に走らず弱き者のために戦う、まさに騎士のなかの騎士。その名は、エヌヴェレス・ク… ~
「エヌヴェレス!」
「うわあ!?」
騎士ごっこに夢中になっていたエヌヴェレスは、背後から突然、大声をかけられたことにより、驚いて岩から転けてしまった。
声の正体は兄 マニュエルである。
「ひどいよ兄ちゃん。そんな大声ですぐ後ろから声をかけるなんて。」
「何度呼んでもお前が返事をしないからだろ。それよりお前、母さんから頼まれていた薪集めは終わったのか?」
先ほどまで騎士ごっこに夢中になっていたエヌヴェレスは母親から言いつけられていた薪集めのことをすっかり忘れていた。なんとかごまかそうと考えを巡らせる。が、兄にはお見通しのようである。
「お前、仕事してなかっただろ。」
「ナ、ナンノコトカナ?」
「とぼけるな。もしお前がしっかり仕事をしてたと言うのなら、そこにある籠が空であるはずがない。」
エヌヴェレス6歳、マニュエル12歳、知恵比べでエヌヴェレスがマニュエルに勝てるはずもなく、結局兄に手伝ってもらって薪を籠いっぱいに集めることができた。
その帰り道でのことである。
「兄ちゃん、有り難う。」
「別にいいよ。暖かくなってきたから薪集めに行くことも減っていくだろうな。」
「そりゃ良いや。薪集めって時間がかかるんだもん。」
「それは、お前がいちいち遊んでいるからだろうが。ところでお前、何して遊んでいたんだ?」
「騎士ごっこ!俺、将来は騎士になりたい!」
「騎士?無理だろ。」
「何でさ」
「百姓が騎士になった話なんて聞いたことがない。百姓は騎士になれないんだよ。」
「兄ちゃんが知らないだけで、ホントはいるんじゃないの?」
「俺が知らないだけだとしてもだ、お前みたいに薪集めすらまともに出来ない奴が騎士様になれるわけ無いだろ。」
それを指摘されるとエヌヴェレスは何も言い返せない。
「…明日からはちゃんとやるよ。」
そんなやり取りをしているうちに家が見えてきた。
次回に続きます