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入園式当日①

 「...ん...。あ...、そうか、私、十五歳になったのね...。」


 目覚めると、私の部屋は少し変わっていた。制服が掛けられ、鞄や教材、勉強道具が机の上に置いてあった。不思議と、今までの記憶が残っているのだ。たった一日、寝て起きただけなのに。

 窓の外を見てみると、まだ空は暗かった。部屋の電気は何故かつけたままだったので、朝だと思ってしまった。

 五歳の体から十五歳の体になった為、違和感が凄い。早速、私は姿見の前に立って体を確認してみた。髪は相変わらず腰まで伸びており、目はより凛々しい目つきへ。まつ毛は長く伸び、肌は健康的な白さだ。背は、百六十といったところか。姿見いっぱいに私の姿が映るようになった。


 「...やっぱり、いつもの通りね...。」


 見慣れている体だが、やはり気になるものである。体を慣らすため、私はソファへと座り、クッションに顔を埋める。そして、今までの記憶を整理する。


 お父様とお母様にあーんをして、両親の反応に思わず笑顔になる私。

 お兄様が私に勉強を教えてくれる光景。

 初めて王子様に出会う私。他にも候補者がいる中、私にだけ笑顔で話してくれ、素顔を見せてくれた。

 初めての家族全員でのお出かけ。とてもいい日和で、海を臨んだ草原の丘でピクニック。サンドウィッチがとても美味しかった。

 お兄様が学園を卒業した。その日は皆んなで祝った。これからは、お父様の同僚と共に、隣国へ研修へ。

 

 ...こうして思い返してみると、とても楽しい思い出へと変化していた。そう、今からの人生は、私にとっては未知の世界である。三十七回までの人生は、こんなにも明るいものではなかった。

 このままいけば、私は長生きできるかもしれない。


 「...ん?なんだろう、この記憶...。この人、誰?」


 しかし、一つだけ初めて見る記憶があった。それは、


 私が七歳の時に、私の部屋の窓の外、バルコニーに現れた謎の黒い男。私の様子をじっと見つめ、何もする事なく去っていくのだ。


 「え、そんな...。まさか、聖女が?暗殺者を送り込んできたの?でも、背丈的に男と言うより少年よね...。」


 少年の正体が知りたいところだが、あの時以来、姿を見せていない。


 「今現れて...なんてねー、そんな事はないか。」


 空が明るくなってきたため、私はロンとキーラが来るまで待つ事にした。

 すると、突然窓の外にあの記憶で出てきたあの少年らしき黒ずくめの人が現れた。相変わらず、私の事をじっと見つめている。

 私は、思うより先に行動した。


 ソファから飛び降り、窓の方へと走った。まだ現れた人はいる。そして、窓を素早く開け、その黒い少年を部屋に引きずり込んだ。


 「ぐっ...」


 そのまま勢い余って押し倒してしまった。顔を見ると、それは


 「えっ、リリーシュ...様?え、はあ?うそ...」

 「マ、マリアンヌ...。その...これは...」


 そう、なんと、私の婚約者であるリリーシュ・エンヴァード王子です。私と同じくらい白い陶器のような肌にサラサラの金髪。目は私と同じ色の瞳です。こんなにも美形の王子は、顔を間違えるはずがありません。


 「なんで、ここに?不審者ですよ。」

 「...から...。」

 「え?」

 「君が、僕との婚約を解消したいって言うから!僕は...僕は...、こうするしかないのさ...」

 「ああ...。あの時ですか...。」


 私は今回の人生においても王子様に婚約解消を申し出たのだ。でも、今回は王子様にまであーんをしていたらしく、より一層仲が深まっていたのだ。これでは、断罪の時の殺され方がより残酷になるだけで、私にはメリットはない。


 「リリーシュ様、はっきり申し上げますが、私よりも貴方様の婚約者に相応しい少女が今後現れます。これは絶対ですから。だから、私はあなたや人生の為にもあなたとの婚約を解消したいのです。」

 「そんなに君は僕のことが嫌いか?」

 「さすがにここまでされると誰でも引きます。」

 「嫌いでは...ないんだな。」

 「ええ。でも、やはり私は...」

 「マリアンヌ、決めた。僕は君が何を犯そうと君の恋人になる。君は、初めて僕が内面から好きになった女性だ。君が婚約を解消したがろうと、決して僕は認めないからね。あ、でも、他の男とはあまり話さないでね?」


 王子様の本性を私は初めて見た。この三十八回分の人生で。束縛タイプらしい。でも、私はロンとキーラと三人で幸せに暮らす将来を望む為、婚約するわけにはいかない。私はあの聖女がいる限り、この人と幸せになる未来などないのだから。だって、聖女はこの国にとっての宝、すなわち神に値する人物。そんな人が私と対立したら、私が負けるのよ。


 「...今の時点では他に手立てがないので承諾しますが、いつかあなたの隣に立つのは私以外の神に等しい存在の少女ですから。」

 「...そうか。なら、僕は君に本気でプロポーズするからね。それと...」


 押し倒したままの体が急に私の体を抱き寄せ、形勢逆転だ。


 「僕を押し倒すのも...、君が最初だからね。マリアンヌ、異性を押し倒すのは、やめた方がいい。その気にさせてしまうからね。」


 そう言って、リリーシュ様は私の額にキスをした。


 「!?」

 「...君は、未来のことを見透かしているんだね。いつか、今後について教えてくれよ、マリアンヌ。」


 コンコン


 「あっ、ロンが起こしに来たわ。早く、ベッドの下に隠れて!」

 「あ、ああ。」


 ロンがいつもの時間に起こしにやってきた。私は平然を装ってベッドの中に入って、返事をする。


 「おはようございます、お嬢様。今日は随分とお早いですね。やはり、入園の日は緊張して早く目覚めてしまった感じでしょうか?」

 「ええ。そうね。入園の日を楽しみにしていたから。私は...そうか、代表の挨拶があったのよね?」

 「はい、その通りでございます!今日の入園式にはご主人様と奥様、ヘンリー様の三人がご覧になられます。」

 「今からと思うと緊張するわね...。」

 「そうですね。では、朝食の準備ができるまで、お待ちください。」

 「ええ、ありがとう。」


 バタン


 「リリーシュ様、もう大丈夫ですよ。」

 「ああ。ありがとう、おかげで助かったよ。そういえば、君は代表の挨拶をするのか。僕もその姿をよく見ているからね。...そろそろ時間だ。また後で迎えにいくから、それじゃ。」


 リリーシュ様はそう言うと、開けたままの窓から姿を消した。ここから城まではさほど遠くない為、準備は比較的ゆっくりできるだろう。


 「...なんだか、どっと疲れたわ...」

 

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