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俺だけが知っているアイツの秘密

作者: 風祭 風利

皆さんこんにちは 風祭 風利です。


今回は「GC短い小説大賞」の企画に参加する為の作品を投稿しました。


テーマは「このヒロイン実は」となっています。


それでは今回の作品をご覧ください。

 俺、鍵野 吉人(かぎの よしひと)はある学園の正門の前で立っている。 今日から俺はこの学園の生徒になる。 地元からは離れてて、中学の友人とは離れ離れになってしまったが、この学園でしか得られない知識を求めて、俺は受験勉強を頑張った。 そのお陰でこの学園に入学が出来た。 両親も大喜びだった。


 入学式も終わってそのままの流れで指定された教室へと向かう。 完全に地元から離れたので、顔見知りなんか1人もいない。 だけど俺には関係ない。 地元の連中だけじゃない人脈を作って、違った知識を増やすのも、高校生ならではの醍醐味だと思う。


「みんな、今日は入学おめでとう。 明日から君達はこの学園の生徒になる訳だが、顔も名前も知らないのでは、学園生活は送れない。 なので今日は自己紹介を行ってから解散とする。 出席番号順で自己紹介を始めて欲しい。 開始は5分後だ。」


 そう言って担任となる先生が自分の席に座る。 先生も生徒名簿を見て、名前と顔を覚えるようだ。


「・・・よし! 時間になったな! では1番から!」


 そうして始まった自己紹介。 とはいえ知っている人などいやしないので、流れに任せながら順番を待つ。


「次。」

「はいっ!」


 声が裏返った気がするが気にしない。 最初の自己紹介なんてこんなものだろうし。


「皆さん初めまして。 鍵野 吉人と言います。 家はちょっと遠いですがそれだけこの学園に来たかったので頑張りました。 今日からよろしくお願いいたします。」


 そう言って頭を下げて席に戻る。 意気込みが大事なのは分かるけど、俺は「類友」が出来ればそれで良いと思ってる。 ここでのここでの自己紹介もその一歩に過ぎない。 そしてある程度紹介が終わった時に


「次。」

「はい。」


 女子の声を聞いて前を向くと、そこには茶髪のロングヘアーをポニーテールにして縛ってあり、明るい雰囲気なのにどこか落ち着きのある顔立ちをした女子が立っていた。


「皆さん初めまして。 雛前 千鶴(ひなさき ちづる)です。 本日から同じクラスメイトとして仲良くしていきたいと思っております。 どうぞよろしくお願いいたします。」


 そう言って頭を下げてから席に戻っていった。 男子にも女子にも好印象を残した。 ただ一人俺以外には


()() ()()()?」


 その名前に違和感があった。 いや、正確には聞き覚えがあった。 しかもごく最近に。


 学校を終えてそのままに帰宅して、すぐに自室へと行って記憶を頼りに俺は「卒業アルバム」を開いた。 そして俺は見つけた。 ()()()()()の雛前 千鶴の写真を。


 中学時代の雛前 千鶴は長髪を結ばず、前髪もかなり伸びていて目元がハッキリと見えない。 記憶が正しければ図書委員をしていたが、あまり明るい性格では無かったはず。 それだけの記憶で俺は1つの確信を得た。


「雛前 千鶴・・・まさか高校生デビューをするとはな。」


 高校生デビュー


 中学から高校にかけて新たな自分を見出だしたいと、性格はともかく髪型とか見た目とかまで変える奴もいるとかいないとか。 雛前は髪型は結んでいるだけだったのでそんなに変化はないが、明るい性格へと変えて、目元もよく見えるように調整されていた。


 身内が誰もいない学校での高校生デビューは当然効果はある。 自分の事を知らない人間ばかりなので、それが認められればそう言った自分になれるのがメリットだろう。 だがデメリットとしては、本当の自分をさらけ出さないようにするため油断が出来ない事と、出し方を間違えればその場で浮いてしまうのだ。 成功例と失敗例みたいなものだ。 実際俺もいくつか自分を変えようかと考えたが、どれもこれも想像だけで玉砕したので、自分の事を包み隠さず出すことにしたのだ。


 そして高校生デビューの一歩をまず踏み出した雛前についてだが、こちらからはなにもしない。 別に雛前が変わろうが関係はないし、もし向こうが俺の事を知ったとしても生活をする上では変わり無い。 弱みを握ったつもりもなければ、過去をネタに脅すつもりも毛頭無い。 高校生デビューをわざわざ潰すような真似はしない。 そう思いながら俺はリビングへと降りていった。


 とは言え元同級生としては少し動向が気になった。 果たして上手くやっていけるのか、と。 あまり明るい性格では無かったはずの雛前が、無理矢理明るく振る舞おうとしているのではないかと気になり始めて、最初の内は観測しておこうと思った。 もちろん雛前の事が好きだったとかではない。 この学校で唯一元の雛前を知っているだけだ。 他意はない。


 そんなこんなで入学してから1週間は過ぎたが、油断も隙も見せない雛前を見ると、心配事が嘘のような気がしてきた。 あれだけ頑張っているので、影で努力をし続けたのだろうと、そう思っていたそんな放課後。 そう言えば学校の図書館に行ったことが無かったと思い、図書室に足を運ぶ。


 俺も案外本は読む方だ。 まあ基本は漫画かラノベなのだが。 中学では見られなかった本とかもあるかもと思って来てはみたものの、放課後ともなると人はまず訪れないようで、貸し出しをするために必要な図書室の人間すらいない。 決して場所が悪い訳ではないはずなのだが、こうしてみると本当に人が・・・


 いた。


 図書室の読書スペースの本当に端の方で、ただひとり本を読んでいる女子生徒がいた。 長髪でただひたすらに読み更けているその女子生徒は、俺が図書室に入ってきたことに気が付いていない。 というかあの雰囲気をどこかで見たことがあった。 いや、雰囲気どころかその女子生徒の事を知っていた。 何故ならその人物は雛前 千鶴本人だったからである。 最も中学時代の姿ではあるが。


「雛前・・・」


 つい口にしてしまってすぐに口を塞いだが、幸いにも向こうには聞こえていない、というよりも読むのに集中し過ぎて周りが見えていない、の方が正しいだろう。 そんな雛前の邪魔にならないように音を立てないようにゆっくりと本棚に向かって、ある程度の本を持って貸し出し用の紙を書いてから図書室を後にした。 その後も雛前は本を読んでいたが全く気が付かれなかった。


 そしてまた翌日になり、明るい性格の姿になった雛前を見る。 昨日の放課後のあいつの姿と重ねても、やはり人違いにしか思えないほど性格を変えていた。 しかしあの放課後の事を考えると、自分を引き出すのは難しいだろう。 今後、心から許すことの出来る友人が出来れば良いが。


「君もやっぱり雛前さんを狙ってるのか?」


 そんなことをなんだかんだ繰り返していたら、高校で出来た友人にそんなことを突っ込まれた。


「狙ってるって?」

「まあ、あれだけ素敵な人だし、みんなに人気になるのは当たり前だと思うんだよね。」


 ああ、そう言うこと。 露骨に見すぎたのかもしれない。 興味がないと言えば嘘にはなるが、そう言った好意の目では見ていない。 ただ心配だから見ているだけであって、決して下心があったりはしない。


「その話をするってことは、お前も?」

「可能性がある内は、夢を見ても良いと思わないか?」


 夢を見るのはいいが、そんな簡単にあいつは心を許したりはしないだろう。 そもそも付き合うことになるということは、それだけあいつのことを知ることになる。 その覚悟があるのだろうかと、勝手に思ってしまっている。


「でも、実際どうするんだろうな、あいつ。」


 この学校の部活は強制ではないが、自分の事を考えれば、何かしらに入っておくのは悪くないと思う。 とは言え俺が興味を引かれる部活動がないのが現状だ。 運動部か文芸部か。 帰宅部にはなるべくはなりたくない。 なにか高校らしいことくらいはしたいからだ。


 そんな風に思いつつも放課後の図書室に足が行ってしまい、そして再び昔の姿の雛前しかいない空間が作られる。 とは言っても今日は俺も本を読むことにした。 昨日借りた本が全然進んでいないのだ。 そこまで難しい本を手に取った覚えはないが、話の内容がほとんど入ってなかった。 じっくり読むためにも少しの間利用しようと思ったのだ。


 雛前とは対角線上の席で俺も本を開く。 学園の最終時刻まではまだある。 家で集中できないのならばここで読んで足しにすればいい。 それに何故だか、この空間は時間の流れがゆっくりになるように感じる。 集中しやすいな、この図書室。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


「・・・あの、」


 ん? 本を読んでいたら誰かが声をかけてきた? その声に振り返るとそこには雛前が立っていた。 中学時代の姿なので分かりにくいが、じっとこちらを見ているようだった。


「えっと・・・ど、どうしました?」


 うっかり「雛前」と呼びそうになったのを堪えて質問をする。


「あの、読書中にすみません。 もう最終下校時刻に、なったので。」


 そう言って時計を見ると、確かに最終下校時刻ギリギリになっていた。 そんなに集中していたのは初めてかも知れない。


「わざわざありがとう。 ・・・そっちも早めにね。 それじゃあ。」


 また名前を呼びそうになったので、墓穴を掘る前に図書室から出る。


「あいつは、俺が元同級生だって・・・関わりがほとんど無かったから知らないかもな。」


 雛前が中学時代に図書委員だったのは知っているが、俺が中学校の図書室を利用したのは当時やっていた運動部での活動が終わった中学3年の半年程。 会話すらした覚えがないから、向こうも覚えているわけがないのだろうという結論に至った。


 入学してから3週間ほど経ったある日の放課後、そろそろ日課になりつつある図書室への寄り道をすると、その時の雛前は疲れたように溜め息をついていた。 それもそのはず。 今日は休みの時間に男子生徒に告白を受けたからだ。 しかもそれが3人と来れば疲弊もするだろう。


 とは言えその告白は全部断っていた。 向こうは一目惚れだったが、雛前は知らない男子から声をかけられているので、そう言って断るのがやっとだったのかもしれない。 元々気が弱い雛前にはかなり精神を使った時間だったことだろう。


 そうなってしまうのも無理はない。 学校で暮らしている雛前 千鶴は男子からの人気はかなり高い。 狙っている男子は当然多い。 今目の前で本を読んでいる雛前とは大違いに。


 そろそろボロが出そうな気もするので、なんとかしてやらねばとも思うが、下手に声をかけるわけにも行かない。 向こうは俺のことを恐らく知らない。 こっちが名前を聞くまで知らなかったのだから、向こうも反応的には同じだろう。


 今日は向こうが先に帰るようで、図書室を後にした。 俺も前のようにはなりたくなかったので図書室を後にして、昇降口近くまで来ると、その近くのトイレからこちらの姿の雛前が現れる。 流石に図書室の姿では帰れないか。 そんな風に思いながら雛前の少し後ろから昇降口を出る。 流石にここでおいそれと追い抜くわけには行かない。 遠足ではないが、帰るまでが学校なのだから。


 そんなことを雛前は露知らず、気が付かれない程度に絶妙な距離で歩いていると、数人の男性が雛前の道を阻むように目の前に立った。 俺は一度電信柱の影に隠れその様子を伺う。 そんなことをする理由は本来無いが、なんとなくそうしなければならないと思ったからだ。


 そしてしばらく見ていたが、明らかに雛前が困っているのは目に見えているが、なんとか意地で自分の本心を出すまいとしている。 しかし相手もかなりしつこく相手にしようと粘っている。


「あ・・・ヤバイかもなぁ・・・」


 雛前の顔色が段々青くなっていく。 そろそろ限界かもしれない。 本当は手を差しのべるのは良くないと思うが、困っている元同級生を放って見て見ぬふりする程非情でもない。 とりあえず覚悟を決めて、雛前の元へと行くことにした。


「あれ? 雛前さん?」


 そうわざとらしく声を挙げて視線を俺に集中させる。 一旦目を俺に向けさせてから、雛前に声をかける。


「なんだこんなところに? あ、もしかして道に迷っちゃった? ここは俺に任せてよ。」


 そう言って俺は雛前がなにかを言おうとする前に俺は雛前の前に出る。


「というわけですみません。 道を開けて貰えると嬉しいんですけど?」


 男数名を相手に自分でも限界なくらいに低い声を出す。 こんなので怯む相手ではないのは百も承知。 最悪雛前がこの場から去れればそれでいいと思っているから。


「ん? 君たち、なにをしているのかな?」


 後ろから声がしたので振り返れば、警察官の人が自転車でこちらに向かってきていた。 その姿を見て男達も大きなトラブルにはなりたくないと、諦めて去っていった。 正直助かった。


「ああ、すみません。 本屋ってどっちに行けばいいですか? 良かったら案内してほしいんですけど。」

「大きい書店のことかな? それならこの道を少し歩くと大通に出ると思うから、そこを左に曲がって少し歩けば見えるはずだよ。 あんまり遅くならないように。」


 そう言って警官の人は前に向かって自転車を走らせて行ってしまった。 そしてそれを見計らって、雛前に声をかける。


「ふぅ。 危機は去ったかな? いやぁ怖かった・・・」

「ええっと、鍵野君・・・だよね?」


 俺が助けた辺りから声が出ていなかったので心配していたがどうやら取り戻せたようで良かった。


「うん。 同じクラスのね。 この道は今後通らない方がいいかもね。 さっきみたいな人達もいるし。」

「えっと、人違いならそれでもいいんだけど・・・」


 そう言って雛前は一呼吸置いた後に


「鍵野君、私と同じ中学の出身・・・だよね?」

「・・・分かっていたのか?」

「い、いや、そう言う訳じゃなかったんだけど・・・放課後に本を読んでいる時の姿が、中学の時と一緒だったから。」


 何て事だ。 こっちが観察していると思ったら向こうも観察していたとは。 さてそうなった場合、どういう行動を取るべきか。


「あの・・・えっと・・・鍵野君。 中学の時の私を、知ってるのよね? それで・・・その・・・」

「別に誰かにばらしたりしないし、それを使って脅したりもしねぇよ。 高校生デビューを頑張ってしてるんだ。 雛前の学園生活を脅かすつもりは毛頭ねぇよ。」


 言いたいことを大体察せれたので先に言っておいた。 というかそんなことを気にしてる場合かよ。


 そんな風に言っていると雛前は安心したような表情をした後に、少し考えながら俺の方を見ていた。


「鍵野君。 もし、本当にもし迷惑じゃなかったらでいいんだけど・・・」

「なんだ?」

「放課後には、図書室に、来るよね? だったらせめて、鍵野君の前だけでは、いつもの私に戻してもいいかな?」

「ん?」

「えっと、前の私を知ってるのは、今の学校じゃ鍵野君だけだから、その、少しでも自分を、取り戻したくて。」


 言いたいことは何となく分かった。 結局のところ自分の別の皮を被るのが堅苦しい、強いて言うならば全くといっていい程緊張感が解けない。 そんな中での唯一の拠り所は放課後の図書室、そしてその事を知っているのは同じ学校だった俺のみ。 別に断ることも出来るだろうが、そんなことをしたところでどちらの利益にもならない。 俺は溜め息をついた後に


「しょうがねぇなぁ。 その頼み、承けてやるよ。 だけどバレた時は自己責任だからな? 俺に助けを求めるなよ?」

「・・・! じゃあこれからは、私達だけの秘密、と言うことで。」


 そう言って雛前は口元に人差し指を当てて「しー」というポーズを取る。 その行為に「ドキリ」としたが、あんなことを頼まれた後だったので、すぐに落ち着いた。 誰のせいでそうなっていると思っているのやら。


 この物語はそんな俺達の、周りに気が付かれないように学園生活を送っていく物語。 苦悩の日々はこれから始まる事になるのだった。

いかがでしたでしょうか?


自分だけが持っているヒロインの秘密って、なんだか背徳的だと思いませんか?


人気が出たり気になる作品になるようでしたら、長編を執筆してもいい、かもと思っております。


風祭 風利はこう言ったものにも、定期的に投稿をしていきたいとも思っていますので、今後ともよろしくお願いいたします。


他作品も投稿していますので、是非見に行ってください!

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