明智光秀と羽柴秀吉
織田信長との出会いは鮮烈だった。
なんと言ったらいいのか。
そう、例えるなら、モノクロの世界であの人だけが色づいて見えたのだ。
色というものを初めて知った瞬間とも言えた。
だから私はノブナガ様に仕えるため、将軍や朝廷とのコネを手土産に岐阜へ行ったんだ。
ノブナガ様は新参の私を古参の家臣と変わらずに接してくだされ、評価をくれた。
そのうち織田家四大将に任命されるまでになった。
ノブナガ様は良くも悪くも実力主義。
不当な評価は決してしない。
織田家で成り上がれなかったということは単純に能力が低かったということだ。
だがそんなノブナガ様が実力以上に可愛がっている男が一人いた。
私と同じ四大将の一人、羽柴秀吉だ。
農民上がりの猿。武士でも何でもないまがい物。
だがそんな猿をノブナガ様がサルと呼ぶ時、その声には蔑みではなく親しみが込められていた。
『サル、またとんでもないことをしてきたみたいだな』
『はい!儂みたいな農民上がりが皆様と同じようにノブナガ様の力になるためには泥臭いことをするしかないですから!』
毎度そう言って笑い合う二人の関係が羨ましかった。
ノブナガ様を慕う気持ちなら誰にも負けないのに。
そんな時ノブナガ様から朝廷を滅ぼす計画を聞かされた。その指揮をとるのは私だとも。
朝廷を滅ぼすなど私としてはありえないこと。
だからノブナガ様を止めようとするのも当たり前のこと。
そのために謀反を起こすことも私という人間にとっては当たり前のことなのだ。
だからその通りに動いた。
『敵は本能寺にあり!うう!敵は!!!ほ、本能寺にありぃぃ!!!』
だが気付くと私は涙を流していた。
どうやら神ごときよりもノブナガ様の方が私にとっては大事な存在になっていたらしい。
そしてこんな時に思い出されていく。
ノブナガ様が俺にかけてくれた言葉を。
ずっと秀吉にかける言葉しか耳に入ってこなかったのに。
せき止めていたかのように溢れ出してくる。
『光秀、天下を見せてやる』
『光秀、俺が天下を獲るときは必ず俺の隣にいろ。だからそれまで死ぬことは許さん』
『光秀、天下を取るためにはお前が必要だ』
『光秀、お前がいてよかった』
私はあの日、自分よりも大事な人を殺したのだ。
神を殺した私にはもう生きる道などなかった。
神を守るために神を殺したのだ。
そしてやはり私を討ちに来たのはサルだった。
『明智―!!!よくも殿を!!!首をもいでやる!!!』
俺もそう思うよ。
『なんで殿を殺したぁぁぁ!!!』
なんでなんだろうな。
あの方は私の光だったのに。
『お前だけは絶対に許さん!!!』
そうだな。私は死ぬべきだ。殺してくれ、サル。
『死ねぇぇぇ!!!』
懐かしいな。
時を超えてもやはり私を殺しに来るのはお前か。
そうだよな。私を殺すのはお前しかいない。羽柴秀吉。
「明智、久しぶりだな」
「ああ、久しぶりだ。羽柴」
「殿を殺そうとしたことを儂は許していない」
「、、、わかってるさ」
「ただお前が殿を慕っていたことは儂が誰よりも知っている」
「ああ、お前よりもな」
「ふざけるな!儂の方が殿を慕っている!!!」
「私とお前はそうだよな。誰よりもノブナガ様の一番になりたかった。狂わされたな、織田信長という光に」
「後悔してるのか?」
「ふっ、後悔などするわけないだろう。私にとってノブナガ様と過ごした日々は宝だ」
「儂もだ」
「お前は私と一緒だ。だから疎ましかったし。でも私の本当の気持ちがわかるのはお前しかいないと思っていた」
「お前の気持ちがわかるのは儂だけだ。他には絶対にわからん。だからお前を殺すのは儂しかいない」
「羽柴秀吉、あなた以外に殺されたくはない。ノブナガ様ではなくあなたに」
「儂にとってノブナガ様の次に大事だったよ、一番の敵だったお前が」
「私もだよ。一番憎くて、でも一番気持ちが分かった。誰よりも。心から信じたものが同じだったから」
「明智光秀、お前がやったことは許せないが、お前が誰よりも殿を愛していたことも知っている。嫉妬してしまうぐらいだ」
「ノブナガ様には恨まれているだろうがな」
「あの方がそんな小さなことで恨むわけないだろう。あの方は天から世界を見ている方だ」
「そうだな。ノブナガ様はいつだって天から世界を見ていた」
「じゃあもういいか?」
「ノブナガ様に一言頼む。死してもあなたをお慕いしていると」
「わかった。じゃあ死ね」
「ああ」
秀吉は光秀の首を刎ねた。
「秀吉さん、私の出番なかったんだけど」
ランが不満そうに秀吉へ声をかける。
「も、申し訳ありません。奥方様」
「お、奥方!?ま、まあノブナガのためにはよかったから良きに計らう感じで!」
「そう言ってもらえると有難いです」
「ま、まあノブナガの妻としてはぁ、部下の秀吉君の活躍は褒めてあげないとね。ノブナガの妻として」
ランは嬉しそうに、というか調子に乗ったように秀吉をほめちぎった。
「では一刻も早くノブナガ様の元に向かわなくてわ!!!」
秀吉にとって明智光秀は確かに絶対に殺すと決めていていた相手だ。だがノブナガが実在するこの世界においては最優先事項ではない。
最優先事項はノブナガの横で戦うこと。
「それもそうだ!式神を呼ぶから乗っていこう!」
その気持ちはランも同じ、ランの顔からさっきまでの浮かれムードは消えていた。
「はい、一刻も早く!」
秀吉はゲームの中ではそれなりの時間A・H、アドルフ・ヒトラーの配下だった。
だからわかる。
ヒトラーという男のすごさを。
もしノブナガより先に出会っていたらヒトラーに忠誠を誓っていたかもしれないと思ってしまうほどに。
だからこそ急がなくてはいけない。
もう二度と主君を失うわけにはいかないのだ。
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