羽柴秀吉と明智光秀
「ははは、よかった」
空を見上げて謙信は笑った。そしてそのまま安心しきった顔でその場に倒れる。
倒れた彼女の前にはおびただしい数の死体が転がっていた。
上杉謙信、ノブナガ軍参謀。圧倒的不利な状況で敵の侵攻を抑え、いや抑えるどころか向かってくる敵を殲滅した。彼女が戦う姿はまさに鬼気迫るものだった。
謙信はここで死んでもいいと思って戦っていた。
ノブナガ軍として最後まで戦おうと。
ノブナガ軍である自分が好きだったから。
だからこそ誰よりもうれしかった。
これ以上のご褒美はないといってもいいほど。
必死で戦ったかいがあったと心の底から思った。
「謙信様!!!」
僅かに生き残った上杉軍の兵たちが謙信に駆け寄ってくる。
彼女の戦いはここで終わった。
彼女の完全勝利で。
*
こちらはパプル。
「よかった」
空を見てパプルは歓喜していた。
こちらは戦争に勝てるとかそういうことじゃなく、BL続行に歓喜していた。
「となればもっと成果を上げないと」
さっきまで疲労困憊だったパプルは息を吹き返し、そこら中の敵兵を殺していく。
*
「はぁ、これで少しは楽になるな」
「全く!来るのが遅いわよ!」
「そう言ってやるな」
タライとマカミも空を見上げて呟く。
「じゃあ残ったこいつらをぶち殺しておいてやるか」
「そうね。どうせ邪魔だし殺しちゃいましょう」
「それが済んだら二人でゆっくり休もう」
「そうね!それがいいわ!じゃあこのゴミクズどもはさっさと皆殺しにしましょう」
マカミがそう言った瞬間、辺りは吹雪に覆われ氷の世界と化した。
「こうなると砕氷機の気分だな。ふん!!!」
凍った敵たちをタライが斧の一振りで一気に打ち砕く。
「タライ!これからは休憩ねー!」
マカミがタライに抱き着く。
「ああ、あとはウチの大将とお姫さんがなんとかしてくれるだろう」
タライは笑いながら空を見てそう言う。
*
「明智ー!!!出てこーい!!!」
トリの背中に乗って叫んでいるのはもちろん稀代のバカ女、大森蘭である。
式神は人間と違い、突如その場に顕現させることが可能であり、奇襲なんかに向いている。
だが今ランはその式神の有利な点の一つをドブに捨てまくっている。
やはりバカである。
「帰蝶様と違い、この時代での奥方は破天荒でらっしゃる」
そんなランを地上から追いかけているのは羽柴秀吉だ。
追いかけながら秀吉はノブナガと一緒にランを安土城から助け出した時のことを思い出す。
*
ノブナガと羽柴軍が安土城へ攻め込んだのは今から11時間前。
キジムナーを倒して手に入れたアイテムでノブナガと秀吉は間髪入れずに安土城へと飛んだ。
秀吉は自分の羽柴軍だけでなく、柴田軍も率いて移動した。
自分たちの大将を殺されたというのに柴田軍はあっさり秀吉に忠誠を誓った。
「サル、相変わらずの人たらしだな」
「いやこれは単純に儂の中位職のスキルですよ。ゲームでのスキルでもなければこんな簡単に柴田軍が儂に従うわけありません」
「そのスキルはNPCだけじゃなくプレイヤーにも通じるのか?」
「プレイヤーに効果はありません。ただNPCがこっちにつくなら大多数のプレイヤーもこちらにつきます。その方が得ですから。反旗を翻すにしても準備は必要でしょう。その辺は損得勘定でちゃんと動いてくれるからプレイヤーは扱いやすいですね」
「そうか。でもここからは損得で勘定できない戦場に行くがいいのか?」
「久しぶりに血沸き肉踊りますよ」
秀吉の表情は戦国時代の頃に戻っていた。
戦国の頃、秀吉は勝ち目の薄い戦場にばかり送られ続けた。
本当ならノブナガに不満を持つところだが、秀吉にとってはそれこそが誇りだった。
『勝てるとしたらお前だけだ。他の連中では無理だ』
『有難きお言葉!必ず勝利して見せます!』
『もし俺に勝てる武将がこの戦国の世にいるとしたらお前だけだ』
『では織田の天下は決まったようなものです。儂は死ぬまで、いえ、たとえ死んだとしても、魂が消え去るまで殿のために戦いまする!』
『俺に代わって天下を取れる場面が訪れてもか?』
『信長様がいる限り、儂は殿の配下として戦い続けます。儂の野望は殿にとって一番の家臣となることですから』
『ふはっ!ならば地獄の果てまでついて来い!!!』
『望むところです!』
秀吉はノブナガとの昔のやり取りを思い出していた。
そしてノブナガもまた思い出していた。
秀吉は無理難題を吹っ掛けるたびに楽しそうに悩み、そして必ず成果を上げてきた。
ノブナガにとってはもう配下というより相棒という感覚の方が近くなっていたのかもしれない。だがそれを秀吉に伝えることはなかった。秀吉がそんな言葉を望んでいないことは誰よりもわかっていたから。
だから秀吉が成果を上げて帰ってくるたびにノブナガは言った。
『サル、地獄の果てはまだまだ先だぞ』
そう言うたびに秀吉は嬉しそうに笑った。
*
秀吉がノブナガの訃報を聞いたのは毛利を攻めている時だ。
明智光秀が本能寺で謀反を起こしたと。
だが秀吉はノブナガが死んだとは一切思っていなかった。
第六天魔王が明智ごとき凡庸な武将に討たれるわけがない。
この世にいなくても地獄で自分を待っているはず。
ならばまず何よりも先にやることが一つ。
ノブナガを討ったとのたうち回るゴミの口を一刻も早くふさぐこと。
秀吉にとってはノブナガを助けるなどは烏滸がましい。
だから自分の役目は家臣のくせにノブナガを殺したとのたまう無礼者の首を刎ねる。それだけのために走った。走らせた。自軍の兵たちを。
無理に走らせて死んでしまっても別に構わなかった。
自軍の兵の命などノブナガの名誉に比べればゴミと同じだったんだ。
そしてそれは秀吉の兵たちも同じ。
皆が喜んで死んでいった。
ノブナガのために。躊躇いなど一切なく。
羽柴軍の兵たちは秀吉と同じくノブナガに心酔していた。
まず秀吉に心酔した兵たちの集まりなのだが、大将である秀吉が全てを捧げると誓ったノブナガのためなら笑って死ねた。
そんな狂気的な忠誠心によって羽柴軍は驚異的な速さで明智軍の元まで戻って来たのだ。
そして山城で秀吉と光秀は相対する。
「おい、お前。殿に何をした?」
「ノブナガ様なら私が殺した」
「ふっ、お前ごときが殿を殺せるわけないだろ。殿は生きている」
「そう信じたいのかもしれないが、本能寺は跡形もなく焼けた。あそこから逃げ延びれるわけない」
「死体は?首は?お前何も持ってないじゃないか」
「本能寺と一緒に燃えたのだからしょうがない」
「じゃあ殿は死んでいない」
「見苦しいぞ!ノブナガ様は死んだんだ!認めろ!!!」
「『証拠がない事柄は全て疑え。その疑いの先にこそ真実がある。』殿の言葉だ。お前、織田信長様の元で何を学んでたんだ?」
「ノブナガ、ノブナガと。もうその名を口に出すな!!何よりもお前の口からその名が出るのが一番腹立たしい!!!」
「儂もお前の口からノブナガ様の名前が出るたびに首をもいでやりたくなる」
「農民上がりのサルごときがノブナガ様を語るな!!!」
「桶狭間も美濃も知らない新参ごときが!!!今すぐ首をもいでやるからそこで待ってろ!!!」
羽柴軍は明智軍を圧倒するが、秀吉は終ぞ明智の死を確認することはできなかった。
それだけが天下を取った秀吉の唯一の、そして最大の心残りだった。
そんな思いが死んだ秀吉の魂をこの時代に飛ばしたのかもしれない。
そして時代を超えて秀吉と光秀が再び向かい合う。
ランよりも一足先に秀吉が明智の元へとたどり着いた。
それはもう本能に近いものだったのかもしれない。
「時々なにか違和感は感じていたが、お前も来ていたのか、羽柴」
「殿がいるところに儂がいないわけないだろ。殿の一番の忠臣であるこの羽柴秀吉が」
「今は豊臣じゃなかったか?棚ぼたで天下を取って公家のまねごとをしていたらしいな」
「武士だって真似事だった。殿がいなければ儂は農民のままだったのだから」
「だから朝廷に尻尾を振ったのか?」
「殿は朝廷を毛嫌いしていた。ならば内側に入り込んで朝廷を滅ぼしてやろうと思ったのさ。殿が帰ってくるまでに儂がやっておくことは殿がやり残したことだ。倒すべきは朝廷、更に海の外の国たちだ。信長様は文字通り天の下全てを支配されるべき御方だったからな」
「ふん!織田信長の妄信者め!」
「それはお前もだろう。儂の何倍もたちが悪いこじらせ野郎が!」
「もういい!死ね!羽柴!」
「お前ごときに出来るわけないだろ!」
「農民上がりが俺を見下すな!!!」
我慢の限界を超えた光秀は兵に指示を出し、一気に羽柴軍とぶつかっていく。
「そういうところだ。頭はいいが煽り耐性が全くない。だから結局お前はここでも俺に殺される」
「はぁ!?」
「頭に血が上っていて気が付けてないじゃないか。ノブナガ軍最高戦力の到着を」
秀吉が空を見上げるとそこにはランと彼女の式神たちがはるか上空から戦況を見下ろしていた。
「な、なに!?」
一瞬遅れて光秀も現状を把握する。
ほんの一瞬遅かっただけ、だがその一瞬の遅れは致命的だった。勝負を決定づけるほどの。
「王手だ」
―火炎豪雨―
もうすでに天変地異としか言えないような炎から降り注いでいた。
「いたー!明智光秀!、、、マジで死ねぇー!!!」
ランに遠慮はなかった。今回はガチで明智を殺すつもりだったから。本気で、無残に、ぶち殺してやるつもりだった。
ランにとって明智光秀はノブナガの宿敵。ゲームだからその辺は関係ないのだが、ランは明智光秀を恨んでいた、なぜならバカだから、
でもそれが今回に関しては正解だった。
「さすが殿の奥方!清々しい!ですがあのクソをぶち殺すのは儂にお譲りいただく」
そう呟いて秀吉は獣の姿となって駆けだして行く。
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