本当の戦い
最初は割りの良いバイトだと思って応募した。
そして本当に割りがよかった。
最初から強力な兵たちを与えられ、チート級のスキルも持っていた。
適当に立ち回っていれば滅ぼされることはない。
とっても楽な仕事だったのだ。
だがある男の登場によってそれは覆される。
その男とはもちろんノブナガである。
最初はわずらわしいと思った。
でもそのうち、ノブナガという男を知るたびに考えは変わっていった。
仕事としか捉えていなかった『信長の覇道』という世界が楽しくなっていったのだ。
「上杉ちゃん。もう終わりだよ。あなたが強いことはわかる。それでも無理かな」
謙信の前で笑っているのは『ライプシュタンダルテ』の紅一点、『エロエロ猫娘』だ。
まあゲーム上での紅一点だが。
「そのしゃべり方やめてくれない?加齢臭がするのよ」
「?何を言ってるかわからないなぁ~。とにかく上杉ちゃんもわかってるでしょ?ここが限界だって」
どう見てもネカマなエロエロ猫娘がとぼける。
まあ自分でエロエロ猫娘なんて名前をつける女性なんていないだろう。
でもそんなロールプレイもゲームの楽しみ方の一つである。
「あなたの言う通り限界かもね。私は別にそこまですごい人間じゃないから」
相手がネカマかどうかは一旦置いといて謙信が答える。
「なになに?プライドも失っちゃったの?」
「プライドなんか始めからないわよ。私はNPCなんだから」
「そういえばそういう事になってるんだったわね。じゃあここで死んで」
妖艶な姿をしたエロエロ猫娘がそう言うと辺り一面に張り巡らされた蜘蛛の巣のような鎖が現れる。
「なっ!?」
エロエロ猫娘
レベル 783
職業 魔女王
気付いた時には謙信はもう鎖によって磔にされていた。
「ほら、もう終わってた。越後の龍だっけ?上杉謙信さん。いや、ただのNPCだっけ?」
勝ち誇ったような笑みを浮かべてエロエロ猫娘は魔法で作り出した大鎌を構える。
そして身動きの取れない謙信に向けて振り下ろす。
「はぁ、舐められたね。私は上杉謙信、越後の龍よ?」
謙信の周りに暴風が吹き荒れる。
その風は刃となり鎖さえも斬り刻んだ。
「なっ!?」
「さあ、始めましょう。戦国の殺し合いを」
謙信は風を纏って空を舞う。
「でも私だけに構いきりでいいの?戦力はこちらの方が上なのよ?」
エロエロ猫娘も鎖を張り巡らして同じく空へと飛び上がる。
「それこそ舐めすぎね。越後の龍という呼び名は私だけの事じゃないわ。上杉軍の全てを指しているのよ。人が龍に勝てると思うな」
そして地上からは謙信に声が届く。
「謙信様、思う存分戦ってください!地上は我らにお任せを!」
「数が多かろうが所詮新参の兵たち。龍の敵ではありません!」
地上から謙信に声をかけるのは柿崎景家と斎藤朝信である。
柿崎は越後最強、斎藤は越後の鍾馗と呼ばれる程の英傑。
謙信が最大の信を置く武将たちである。
「じゃあ下は任す。負けることは許さない。私はあのふざけた女を殺します」
「「はっ!!!」」
上杉軍対エロエロ猫娘軍の戦いは地上と上空に分かれて行われることになった。
地上では越後の龍たちが荒れ狂う。
そして上空では両軍の大将である謙信とエロエロ猫娘の戦いが始まった。
*
上杉軍とエロ軍の戦いはエロ軍の勝利で終わった。
上杉軍は強かったがそれでも圧倒的な数の優位を覆すことはできなかった。
だが上杉謙信とエロエロ猫娘の戦いに勝ったのは謙信だった。
なんとか勝ったもののボロボロになった謙信をもっとボロボロな斎藤朝信が必死に城へと送るために駆けていた。
戦国の龍であった上杉軍はもうこの2人しか残されていなかった。
「あ、さのぶ?」
「殿、いえ、姫様。私はあなたに仕えられてよかった」
「な、何を言ってる?」
「あなたは間違いなく本物の龍でした」
「だ、から、何を言ってる?」
「そして龍が仕えるは魔王様。あなたはノブナガ様の傍で生きてください」
「朝信!?」
城に辿り着いた時、斎藤朝信はすでに事切れていた。
だがその顔は健やかなものだった。
*
謙信は命からがら城に戻ったが、戦況は悲惨なものだった。
戻ったとは言っても瀕死の謙信には兵を指揮することなどできない。
ABCDと上杉謙信を失ったノブナガ軍は片っ端から殲滅されていき、あっという間に小田原城の目の前まで攻め込まれていた。
戦力が上の相手が城内に入って来てしまえば。これを止める術は今のノブナガ軍にはない。
ノブナガ軍の終わりが近づいていた。
秒読みと言ったところだ。
*
小田原城最上階、そこにはウヌカルが構えていた。
横にはタライとマカミ。
まだ傷が癒えていない彼らは小田原城の城主として据えられていた。
正直ノブナガがいない今、城主など誰にでも割り振れる。
そして今まさに小田原城は城内まで攻め込まれようとしていた。
「ウヌカル、謙信やABCDもA・H軍の侵攻を抑えられなかったらしい。まああいつだからこれだけの戦力差でここまで持ちこたえられたんだと思うがな。それでどうする?今の城主はお前だ。降伏することもできるぞ?」
「舐めないで!ここまで皆が戦ってるのにどうして私が降伏できるの!」
ウヌカルがタライを睨みつける。
「、、、悪かった。では指示をくれ。俺たちはお前に従う」
「ノブナガとランがいないなら世界は始まらない。だからそれまでは戦い続ける。最後の一人になっても」
「なるほど。わかりやすくいていい。そういうほうが戦いがいがある」
斧を担いだタライから途轍もない闘気が吹き上がる。
「タライカッコいい!!!私もいるわよ!!!」
氷の女王と化したマカミがタライを背後から抱きしめる。
絶対零度を背負った重戦士。
正直こんなのに勝てるやついるのかとも思えるが、それでも劣勢だ。圧倒的に。
今から雪崩れ込んでくるA・H軍の数は個人の力で覆すのは難しい。というか無理だ。
それでもウヌカルには降伏の選択肢はなかった。
だってここはノブナガの国だから。
だってここはランの国だから。
そして皆の国だから。
『ゲームと現実の区別がついてないあの子はきっと泣くんだろうね。それも盛大に。私もあんたたちともっと一緒に遊びたかったよ。大丈夫、パフェでも奢ってあげるから』
「迎え撃てー!!!」
小田原城に攻め込んでくるA・H軍とノブナガ軍はぶつかり合う。
最後の悪あがきだ。
でもそれは誇り高き悪あがき。
今まさにノブナガ軍は終わりの時を迎えていた。
「怯むな!押し返せ!」
「回りこまれているぞ!兵を回せ!」
「最後まで戦え!!!」
必死に戦った。
ノブナガ軍は必死に。
ABCDも上杉謙信もウヌカルもタライもマカミも。
必死に戦った。
そして負けた。
ドゴーン!
ドゴーン!
ドゴーン!
ドゴーン!
だが助けは来た。
突如各所に炎の槍が降り注いだ。
「ウヌちゃーん!ランお姉ちゃんが来ましたよー!」
「え!?」
空からの火の槍で屋根に穴が開いた小田原城からウヌカルは空を見上げる。
そこには火の鳥の背に乗るランが見えた。
「もう大丈夫!皆殺しにしてやるから」
ランの目はすわっていた。本気で敵を皆殺しにするつもりだ。
もうそういう戦いになっているのだ。この世界は。
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