ABCDと上杉謙信
たったの数日でA・H軍は再び小田原城の前に集まって来ていた。
安土城に戻り、兵糧を補給してまた攻めてくるとすれば本来なら一月ほどかかる。
だがこんなに早くまた出陣してこれたのはおそらく、いや、間違いなく明智光秀の能力のお陰だろう。
「はぁ、やっぱりすぐ来たかぁ~」
謙信は溜息を吐くが、これを予想できてなかったわけではない。
むしろ思った通り。
不意をつかれてはいない。
ただ面倒だから溜息をついただけだ。
「兵たちに伝えろ。久しぶりの殺し合いだって」
「了解しました」
ミコミコは嬉しそうに謙信の命令に答える。
最近は後方で戦況を見守るだけだったが、そもそもは越後の龍の手足。暴風龍のごとく辺りを吹き飛ばしてきた強靭な兵たちだ。
そう、彼らは暴れたかったのだ。
「上杉軍!わかってるな!?」
「「「「「はい!!!」」」」」
謙信の呼びかけに上杉軍は答える。
「龍が通ったあとには何も残らない。そうだな?」
「「「「「はい!!!」」」」」
「なら行け。皆殺しだ」
「「「「「おお!!!」」」」」
そして言わずもがな、上杉軍は戦国最強格の一つである。
*
「俺たちも行くぞ」
ABCD軍も準備を整える。
今回城に残って守るのは幸村軍だ。
これ以上退けないノブナガ軍は攻めに転じている。
どっちみち籠城しても勝ち目はない。
ならば援軍が間に合うことを信じて攻めに出ること謙信は選んだ。
うまく援軍とタイミングが合えば逆転の可能性も生まれるかもしれない。
正直賭けだが、賭けにぐらい勝たないと今の戦況をひっくり返すなんて無理だ。
ちなみにウヌカル、タライ&マカミ、アイヌの残党たちはまだ完全回復できていない。
「ABCD様、この戦本当に戦うのですか?」
「どういう意味だ?」
「勝てるとは思えません」
「まあそうだな」
444はABCDに意見するが、ABCDはあっけらかんと答える。
「ABCD様なら寝返ることもまだ可能でしょう!A・H軍もあなた様なら欲しがるはず」
「ふっ、お前らはどうなるんだよ?」
「私たちはあなた様の家臣。主君の命が守れるなら命なんて惜しくありません!」
「まあその方が戦国っぽいな。ロールプレイとしてはレベルたけーよ。それも一つの楽しみ方だろう。でも俺は戦国ロールプレイよりゲーム性を大事にしたい派なんだ」
「負け戦であったとしてもですか?」
「お前さぁ、ラブコメ漫画とか読む?」
「え?」
「あ、少女漫画の方じゃなくて少年漫画にある方のラブコメ」
「まあそっちの方ならいくつか読んだことありますけど」
「主人公の男をいろんなタイプの女の子が好きになるだろ?でも結局主人公に選ばれるのは一話目で最悪な出会いをする転校生か、ずっと一緒にいた幼馴染かどっちかだ。俺が好きなヒロインが選ばれたことは一度もない。大体俺は途中で血が繋がってない事が発覚する義理の妹系キャラが好きなんだ。だがそういうキャラが幸せになる話を見たことない」
「ちょっと何言ってるかわからないんですけど」
「今ここで寝返ったらそれは俺の嫌いな転校生か幼馴染ルートに進むってことだ。それじゃつまらない。自分でやってるゲームなんだから俺は自分の推しルートを最後まで貫くってことだよ」
ABCDは楽しそうに笑いながら言った。
「ぷっ、はははは!それではそういうことにしておきましょうか。でも負けられなくなりましたね。全力で殺しましょう」
ひとしきり笑った後、444は鋭い目で戦況を睨む。
「なんだ?いきなりやる気出してきたな」
「私も一応こっちが推しルートなんで」
「、、、そうか。なら勝つか!」
「はい!」
上杉軍に続いてABCD軍も小田原城を飛び出していく。
*
「明智様!上杉軍とABCD軍が小田原城から飛び出してきます!」
「やけくそって感じだな。向こうに勝ち目はないだろ」
「うちの軍も出ますか?」
「いや、私たちは最後尾で待機だ。今回はウチがでなくても十分だからな。村井定勝、山内一豊、佐久間盛政、可児才蔵、森長可、堀秀政、加藤嘉明、河尻秀隆、前田慶次、佐久間信盛、原田直政。連れてこれるだけつれてきたからな。泣いても笑ってもこれが最後の戦い。出し惜しみはなしだ」
「これだけの軍が勢ぞろいするとは圧巻ですね。ノブナガ軍に同情します」
「ああ、今の状況では過剰戦力かもな。だがノブナガ軍は蝦夷、東北から援軍を呼んでるはず。それが来ると考えたら、、、まあそれでも過剰か」
最後方で明智が笑みを浮かべているころ前線では遂にA・H軍とノブナガがぶつかりあっていた。
*
「謙信様!!!A・H軍の勢いが止まりません!」
「ABCD様!!!我が軍が次々とやられて言っています!!!」
上杉、ABCD両軍とも劣勢の状況。
だが―
「A・H軍の数が半端ない。ほぼ全軍投入してきてるな。明智の力か。まあいい!敵が何人いようが関係ない!もう戦は始まってるんだ!殺せ!!!一つでも多く敵兵の首を私の元に持ってこい!!!」
「「「「「「おおおお!!!!」」」」」
「まあやる前から分かってたことだ。真っ向勝負なんかするな。出来るだけ姑息で嫌らしいことをしろ!思いつく中で最も最低な方法で戦え!!!」
「「「「「「おおおお!!!!」」」」」
確かに予想よりもA・H軍の兵は多かったが、そもそも始めから劣勢での戦だとはわかっていた。その度合いが少し変わったぐらいで取り乱す事はない。
そしてノブナガ軍はなんとかギリギリ小田原城を守りつつ一日目の戦いを終えることができた。
だが本当にギリギリ、首の皮一枚と言ったところだ。
戦いを終えた上杉軍とABCD軍の数は半数以下になっていた。
本当の戦争ならとっくに降伏しなくてはいけない段階だ。
ゲームだから続けられる。
だが2日目を乗り切るのはもう絶望的。
そんな状況で、上杉軍の野営地にABCDが単独でやってきた。
「明日どれぐらい持ちこたえられる?」
そして謙信に尋ねる。『昨日の夕飯何食べた?』みたいな軽いノリで。
「ふっ、情けない話だが午前中耐えられればいい方だわ」
謙信も答える。『なんか色々入ってるコンビニ弁当』みたいな適当な感じで。
「まあウチも同じ感じだ。俺たちがやられればそのまま小田原城は一気に落とされるな」
「そうね。日が沈む前にゲームオーバーかしら」
謙信が自嘲気味に言う。
完全な弱音だが、これにABCDは反論することはなかった。
その通りだと思ったからだ。
だから謙信の元に来ていた。
ノブナガ軍として長いこと一緒にやってきたが、それも明日で終わる。
そしてそれは確実だ。
だからABCDは作戦会議とかいう目的で謙信の元を訪れたのではなかった。
最後に話でもしようと思っただけ。
「お前はノブナガのとこ長かったよな。どうだったよ?ノブナガ軍での日々は?」
「そうだね。楽しかった、かな。ノブナガには振り回されたけどね」
ABCDの考えていることは謙信にもわかっていた。
「確かにノブナガはめちゃくちゃな男だった。参謀のお前は大変だったろうな」
「大変だったわよ。それはもう本当に。でもどうせ死ぬなら最後まで振り回されて死にたかった」
謙信は悲しそうに目に涙を浮かべる。
「、、、そうだな。心残りはノブナガの傍で死ねなかったことだ。どうせ死ぬならあいつと一緒に戦って死にたかった」
「本当にそうね。でも私は最後までやるわ」
「もちろん俺もだ。俺たちはノブナガ軍だからな」
この日、謙信とABCDは夜明けまで飲み明かした。
開戦の時間が迫ってきたころ二人は別れる。
「ではご武運を」
「あんたもな。じゃあ死にに行こうか」
「うん、一人でも多く殺して逝きましょう」
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