姫武将 上杉謙信
「ぷにぷに大将軍様が森長可との戦闘に敗れ討ち死に。森軍は勢いを落とさず真っすぐこの浜松城へ向かって来ています!!!」
「伏見城からは明智軍も向かってきています!!!」
謙信の元へ次々と伝令がやってくる。
「いいニュースは一つもなしか」
だが伝令はまだまだ止まらない。
「ABCD様と真田幸村様の軍が浜松へお戻りになられました!!!」
「本当か!!!」
一瞬喜んだ謙信だがすぐに我に返る。
ABCDと真田が率いてきた兵は大した数ではないだろう。
でなければこんなに早く戻ってこれるわけない。
そりゃそうだ。そもそも援軍のつもりで向かって来ていたのだから。
だがもう浜松城には本軍と呼べるものもない。
「パプル様がお戻りになられました」
パプルはボロボロの姿で謙信の前にやってくる。
どう見ても満身創痍。下手したら死んでいたであろうことは見ればわかった。
「ぷにぷに大将軍は死んだみたいだね」
戻って来たパプルの第一声はそれだった。
「その通りだ。しかもぷにぷに大将軍と戦い命を奪った森長可は元気いっぱいの状態でこちらに向かってるらしい」
「そうか」
「・・・」
パプルとぷにぷに大将軍は忍び衆として一緒に働いていた。
そんなパプルに謙信はかける言葉が見つからなかった。
沈黙が続くのかと思ったがパプルはすぐに口を開く。
「それはそうと途中何人か拾ってきた。かなり負傷してるがな」
この戦が始まった時にはもうとっくにパプルの覚悟はできていたんだろう。
ここで仲間の死を悲しんでいる暇はない。
最後まで諦めるわけにはいかないのだ。
それが仲間たちへの弔いとなる。
そう信じるしかない。
というかまあゲームだし。
パプルはノブナガとBLしたいだけだし。
だから誰が死んでもいいけど負けるわけにはいかなかった。
そんなパプルが拾ってきたのはウヌカルとタライだった。
2人共大けがをして気を失っている。
「浜松城の近くまで来ていたが途中で倒れていたので拾ってきた。かろうじて生きてる。マカミも消えてはいないだろう。力を使い果たしてタライの中で眠ってる感じだと思う」
「今の残存戦力でこの浜松城を守り切るのは無理だ。今いる兵を連れて小田原城まで退き、浜松城は明け渡す。だから小田原城に行くまでの時間稼ぎがいる。でも優秀な兵たちは置いて行けない。ここで死んでも構わない兵しか置いて行けない」
謙信は覚悟を決めて言う。
部下を捨てゴマにすると。
部下たちに向かって死んでくれと。
最低なことを真っすぐな瞳で言い切った。
そして謙信を信じて付いてきた兵たちはこうなることなどとっくにわかっていた。
自分たちの大将である謙信は優しいから、もしかしたら自分たちを切り捨てられないかもしれない。だから謙信が命令できなくても自ら捨てゴマになることを決めていた。
だが謙信は言ってくれた。
『死んでくれ』と。
皆それが嬉しかった。
「すまない」
謝罪の言葉なんてこの状況では一番言ってはいけない言葉。もちろんそんなことは謙信が一番よくわかっている。
それでも我慢できなかった。
声が零れ落ちてしまった。涙と一緒に。
「殿!いえ、姫。ノブナガ様の心をお射止めください。ライバルは多いですが、私たちにとって姫以上の女性はいません」
古株の男が満面の笑みでそう言った。
「この戦いが終わったら軍神なんて肩書は捨てて一人の女性としての幸せをお掴みください」
「姫武将様!ご武運を!!!」
取り残される、これから間違いなく死ぬ、捨て駒にされた兵たち。
だが誰一人として謙信に恨み言を言うことはなく。笑顔で謙信に声をかけた。
「では、謙信さま!行ってらっしゃいませ!」
ここから一気に浜松城にいたノブナガ軍は動き出す。
見殺しにする兵を残して一気に撤退した。
謙信の決断はひどく残酷に写るが、これは戦国の世。誰も死なないで勝利なんてことはありえない。
兵を切り捨てる。その決断をして責任を負うのも将の役割だ。
あとまあゲームだし。
この日浜松城はA・H軍に攻め落とされるが、ノブナガ軍の主力はすでに小田原城へと逃げ延びていた。
まあ逃げ延びたと言っても疲弊した兵たち。
兵数も大分減っている。
勝てる可能性はない。
どう見ても悪あがき。
見苦しいと言われる行為だろう。
それは戦国時代であってもゲームであってもだ。
だがどんなに見苦しくて無様でもノブナガ軍は最後まで悪あがきをすることを決めていた。
そもそも戦争が始まった時からすでにもう悪あがきなのだ。
ノブナガ軍が勝利できる可能性があるとすれば、それはノブナガとランの帰還以外にないのだから。
*
なんとか小田原城に逃げ延びたノブナガ軍幹部は集まっていた。
まだウヌカルとタライは目を覚まさないので、謙信、ABCD、真田幸村、パプルの4人だ。
「随分減っちまったな」
開口一番空気の読めてないことを言うのはABCD。
「ぷにぷにとうちの武田も死んだしな」
こちらは空気を読まない真田幸村。
「とりあえずここまで逃げたけど、どれぐらい持ちそうなの?」
そんな二人を一旦置いておいてパプルは今一番聞きたかったことを謙信に聞く。
「真っすぐは向かってこれないはずよ。浜松城の兵糧はすべて持って来たし、寄ることができた補給地点の兵糧も全て回収した」
「でもよかったの?それって浜松城で戦う兵の兵糧でもあるんでしょ?」
「死にに行く兵に兵糧なんかいらないでしょ」
謙信はそう言い捨てるが、それは謙信が自分を押し殺して絞り出した言葉だと誰もが分かっていた。
「まあ、そうね、、、」
だからパプルも謙信の言葉を飲み込む。
「とにかく向こうは大軍。ここまでは兵糧は持たない。一旦戻るしかないでしょうね」
「でも向こうの明智ってワープ持ちなんでしょ?」
「軍隊ごとワープするのはさすがに無理。それができるなら戦争なんてあっという間に終わるし、柴田、羽柴軍の帰りを待つ必要なんてない。おそらく一度にワープできる人数、距離、回数には制限がある筈よ」
「そりゃそうだわな。ワープなんて反則技に制限がないならゲームバランスもクソもない」
ABCDも謙信と同意見だ。
「全軍をワープできなくてもワープを使える奴はいるんだ。時間を短縮する方法はいくらでも考えつくだろ。普通の軍の行軍スピードと一緒とは考えないほうがいい」
幸村は一応注意しておく。
「それはそうね。パプル、A・H軍の動きを探って来てくれる?」
「了解した」
「とりあえず今私たちに出来ることは立て直し。というか回復と北への増援要請ね。今のままじゃ籠城戦すら満足にできない」
「増援ってどこから呼ぶんだ?」
「この小田原城より北のノブナガの領地全てからよ」
「全てって正気か!?」
さすがの幸村も声を上げる。
「どうせここを抜かれたら負け。これ以上後退したらノブナガとランが向かっていたとしても間に合わない。ここが最終ライン。もう退けないわ。というかここで退けば死んでいった連中の思いが無駄になる」
謙信は覚悟を決めていた。
「確かにな。万が一にでも逆転の可能性があるとすればここがギリギリのラインだ」
ABCDも覚悟を決める。
「まさに絶体絶命だな」
幸村は呆れたように言う。だが幸村の覚悟も決まっていた。
「最初っから絶体絶命なの」
ボロボロのウヌカルが必死に身体を引きずりながら会議の場に現れる。
「「「「ウヌカル!!!」」」」
ウヌカルを見て4人が立ち上がる。
「ノブナガもランも最初っから絶体絶命だったの。たった二人で隠しステージの蝦夷にやってきて、アイヌをまとめて、大名でもないくせに大名を倒して、大名になっても今度は格上の大大名と戦って。一度だって勝ち目がある戦いなんてなかった。沢山の絶体絶命を何度も何度も潜り抜けてここまできたの!絶体絶命なんて慣れっこ。いつものこと。今更怖いものなんてないの!!!」
そう言ってウヌカルは不敵に笑って見せた。
ウヌカルは知っている。こんな天下分け目のお祭り騒ぎにあの二人が駆け付けないわけがないと。
ノブナガとランは絶対に来る。
言いたいことを言いきったウヌカルは再びその場に倒れこむ。
「ウヌカル様!!!」
ウヌカルをここまで連れてきた兵たちが駆け寄り、再びウヌカルを病室へと連れ帰っていく。
無理を言って病室を抜け出し、一言言って病室に戻る。
ただそれだけの事。
でもそのそれだけのことが与えたモノは大きかった。
火がくべられたのだ。
獰猛な獅子たちに。
「絶体絶命なんて慣れっこか。確かにその通りだ。絶体絶命ごときで負けるわけにはいかない」
「ふっ!ノブナガを待つ?時間を稼ぐ?悪あがき?ずっとらしくねぇこと言ってたわ。ノブナガ抜きで全てを終わらせて、帰って来たあいつを悔しがらせてやる。そんでもって大将交代だ!」
「まあこれぐらいのほうがスリルがあって楽しいわな」
「BLとはそもそも初めから絶体絶命の筈。この程度の障害乗り越えれなくては性別の差など乗り越えられるわけない!」
謙信、ABCD。幸村、パプル。各々の目が蘇った。パプルのはなんかちょっと違ったが。
『この絶体絶命を楽しまないでどうする?』
ノブナガならきっとこう言って笑う。
だってこれはゲームなんだから。
だってこれは戦国なんだから。
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