火之迦具土神
ここは徳川軍本陣。
家康の前に今の状況を伝えるために兵が駆け寄ってくる。
「何!?忠勝がやられただと!?」
「はい!敵将の真田幸村に討ち取られたと」
「クソが!!!」
「現在は榊原様が真田軍の相手をしているとか」
「、、、そうか。榊原に負けはないだろう。だが忠勝がやられた。この状況をどうするつもりだ、指揮官!!」
家康はABCDを見る。
「もう手は打ってあるさ。本多の旦那は残念だったが、伊達政宗の首を獲ったんだ。上出来でしょ。安心しなよ、ノブナガの首を俺がしっかり獲ってやるさ」
ABCDは何の動揺も見せず余裕の表情で言い切った。
実際ABCDは本多にも榊原にも大して期待はしていない。家康にはもっとだ。
最初から自分の軍だけでノブナガ軍を倒すつもりだった。
なのでノブナガ軍の主力の一人、伊達政宗の首を獲ってくれただけで十分上出来だったのだ。
そしてすでにABCDはノブナガ軍と海岸へ自分の優秀な部下たちを送り込んでいた。
ノブナガ本陣へは444。海岸へは777。この2人はABCDにとっての右腕と左腕と言ったところだ。ちなみに444と777は兄弟。リアルでも444は777の兄である。
444は忍者の中位職『陽炎』。幻術や火遁の忍術に特化している。
潜入にも戦闘にもバランスよく対応できる職業だ。
444はノブナガ軍に忍び込み、ABCDからの合図を待っていた。
そして今まさにABCDが打ち上げた閃光弾により、ノブナガ軍への攻撃が許可された。
ここからは444がノブナガ軍を内側から切り崩していく。
。
弟の777は侍の中位職『大剣豪』。白兵戦に特化した職業である。徳川家康は知らないが、その戦闘能力は本多忠勝や榊原康政を凌ぐ。
そんな777が海岸に構えているのだ。ノブナガ軍の上陸は絶望的に思えた。
軍隊で上陸しようとするなら本当に絶望的だ。
*
「ヤバいよ!ウヌちゃん!海岸にめっちゃ軍隊いるよ!!!ノブナガの作戦もろバレだったよ!!!」
そろそろ上陸かと思ったら海岸は徳川軍に埋め尽くされていたのだ。
「ランお姉ちゃん、落ち着いてなの!」
「は、はい」
「これはノブナガも予測していたことなの!」
「え、そうなの?」
「私たちの役目はここであの徳川軍と戦うことなの!」
「え、戦うの?じゃあやっぱりヤバいじゃん!」
「なんとか持ちこたえるの!」
「でも結構な大軍だよ?ウチは式神しかいないんだからヤバいんじゃない!?というか上陸自体難しそうなんだけど!」
てか私さっきからヤバいしか言ってなくない?
「アニ、イモウト!海を凍らせて足場にするの!」
ウヌちゃんの指示でアニとイモウトが船から陸までの海を凍らせた。
まあ確かにこれで上陸したようなものなのかな。
「でもちょっと待って、ウヌちゃん!トリとえっちゃんがいないんだけど」
「二人は別行動なの!」
「えぇ!?それじゃあウチはコロポックルズだけじゃん!」
「そうなの!」
「そうなの!じゃなくてそれってヤバいじゃない!」
あ、またヤバいって言っちゃった。
「だから俺たちが来てる」
「ふわぁ、もう着いたのぉ?」
「あんたたち乗ってたんだ」
船内の奥からタライとマカミが出てくる。
乗ってたんだ。全然気付かなかった。
てかずっと奥で寝てたの?ん?ちょっと待って。やらしいこととかしてないでしょうね。
私は疑惑の目を二人に向ける。
「なによ、ラン。変な目つきで見て」
「マカミそれ以上聞くな。何となくわかる。ロクでもないことだ」
タライが残念な子を見る目で私を見てくる。
「それじゃあここからは徳川軍と全面対決なの!前衛はタライ、後衛はマカミとコロポックルズ、回復は私に任せるの!」
「私は!?」
「えっと、、ランお姉ちゃんは、、、何か、、その辺にいてなの!」
ウヌちゃん、完全に私のこと忘れてたね。
「ウヌちゃんって最近私の扱い雑になってきてるよね」
「え!?そ、そんなことないの!」
「ほんとに~?」
「ウヌカル生まれてこのかた嘘ついたことないの!」
「そうなの!?」
「そうなの!」
「そうなんだ。やっぱウヌちゃんは純粋無垢なんだね」
「という訳でランお姉ちゃんは私の側にいて私が言ったことをセイレーンに伝えて欲しいの!」
「うん、なんかしっくりこないけど、考えるのめんどくさいし、まあいいや!おっけー」
「本当にバカでよかったの」
「ん?ウヌカルちゃん、なんか言った?」
「んーん、何も言ってないの」
「そっか」
という訳で私たちは氷の上を渡って、海岸の徳永軍との戦いに動き出す。
*
「ふーん」
777は一瞬で凍り付いた海面を見て、ABCDが船一隻の上陸を阻止するためだけに自分たちを向かわせた意味をほんの少しだけ理解した。
だが所詮ほんの少しだけだ。
やはりここまでの戦力は必要なかったと思っていた。
なんてったってこちらは一軍を率いているのに対し、敵は船一隻。
数が違いすぎる。いくら海を凍らせたところで一方的に殺される予定だったものが、少し戦って殺される可能性が出来ただけだ。
「海を凍らせたところでそこまで状況に変化はない!これが敵も大軍なら別だが、所詮少数!海岸から弓を放て!それで終わりだ!!!」
777の号令で徳川軍は海岸から一斉に矢を放つ。まさに矢の雨である。
―烈風斬―
だがその矢の雨はタライが斧を振って起こした突風によって吹き落とされる。
「さて、徳川軍。遊ぼうぜ」
前衛を任されたタライは矢を落としながら徳川軍に向かって駆けていく。
「矢はタライのおかげで大丈夫そうなの!マカミとコロポックルズもタライについて敵を凍らせていって欲しいの!」
ウヌカルがそう言ったときにはもうとっくにマカミはタライの後ろをオオカミの姿で走っていた。
タライと離れたくないのだろう。
という訳でマカミもこの場合、前衛ということになった。
あとはコロポックルズだが、、、
「俺たちは海凍らせて大活躍したから少しゆっくりしてから行くぜ!」
「ゆっくりするんだよ!」
コロポックルズは船室で温かいお茶を飲んでいた。
「まあ、しょうがないの。海を凍らせるには相当な力を使ったはずなの」
ウヌカルはとりあえずランとセイレーンを使って今の現状をノブナガに知らせる。
*
こちらはノブナガ本陣
空からは遂にセイレーンの鳴き声が響き渡った。
「やっとか」
「上陸には成功したようだけど、向こうは大軍を配備していたって!ノブナガどうするの!?」
「いや、それはそうだろ。バカじゃないならそうする」
「え、わかってたの!?じゃあなんで!?」
「本当の本命を隠すためだ」
「え!?」
船を出せば誰もが海岸から上陸して徳川軍の背を叩くと思う。当たり前だ。
だがそれは人間の兵たちならの話だ。
今回海から攻めこもうとしたのは式神たち。
式神には海の道の他にもう一つの道がある。空の道だ。
「トリは海岸から離れた更に奥、山岳地帯から徳川家康の背後を狙っている」
「海岸さえも囮だったってことね。でも今聞いた感じだと切り札はトリだけってことになるけど大丈夫なの?」
「余裕だ。あいつはある程度の眷属を持ってるし、分身も可能だ」
「え、火之迦具土神ってそんなことまでできるの!?」
「あんなナリだが、ゲーム中最強の式神と呼ばれてる奴だぞ」
「そういえばそうだったわね」
謙信もノブナガにヘコヘコしているトリしか見ていなかったから失念していた。
火之迦具土神とは『信長の覇道』において式神の王と呼ばれている最強式神なのだ。
たぶんランに関してはそんなこと全く知らないだろう。
「そういえばそうだったわね。〝炎神〟火之迦具土神。理さえも燃やし尽くすと呼ばれる神の一柱」
「小物感の強い奴だが、実力は本物。あいつがいなければ徳川と戦おうとは思わなかった。あれこそがウチの切り札だ」
*
「加具土命様!相当な数の眷属が集まって来ています!」
トリの横を飛んでいるのは彼の筆頭眷属である正鹿山津見神だ。
「見ればわかる。だが気を抜くなよ、マサ。この作戦に失敗は許されない」
「は、はい!」
通称マサ。
トリは道中で眷属たちを味方に引き入れ、安土と三河の狭間にある茶臼山から徳川軍の背後に向かって飛んでいた。
トリはウヌカルの指示でというか、ウヌカル経由のノブナガの指示で、船が海岸に近づく前に空へ飛び立っていた。
ノブナガの本命はこのトリ率いる航空部隊だ。
ウヌカルから伝えられたノブナガの言葉は一言だった。
『お前だから任せる』
ただそれだけ。
だがこの一言にトリは心から震え上がった。
確かにノブナガが怖くて従ってきた。だがノブナガという男が途轍もない人間だということもわかっていた。恐れとは別に憧れを抱くほど。
そんな主が自分だから任せると言ってくれた。自分に信頼をおいてくれた。
ならば確実にやり遂げて見せる。やり遂げなくてはいけない。
トリは自分に与えられた使命に誇りを持っていた。
、、、AIなのに。
AIであるトリがノブナガの命令によって、恐れや怒りといったような単純なシステム的感情ではない、尊敬や誇りといったシステム上にないイレギュラーな感情を発現させているのだ。
この光景を見て笑みを浮かべる男たちがいた。
『Akashic』本社、地下4階である。
「これはステージ2に上がったとみていいんじゃないか?」
「もう少し経過を見ないと確定はできない。だが間違いなくいい傾向ではあるな」
「やっと見えてきたってところかな」
「ああ、それは間違いない」
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