出立
冬の風が体を通りすぎ、その冷たさにレイアはブルリと体を震わせた。
今日は出立の日。生まれてから今日まで過ごしてきた祖国との別れの日だ。
「いくぞ、お嬢ちゃん。すまんが馬は一頭しかいない、聖王国までの旅路は歩きだ」
ボディーガードを引き受けてくれた傭兵、”不動” の二つ名でしられる大男はコーデリクと名乗った。
小柄なレイアからするとまるで山のような大きさの男。こんなに大きな人間を、レイアは生まれて初めて見た。
コーデリクが連れているのは一頭の馬。普通サイズの馬であるが、コーデリクと並ぶと異様に小さく見える。
馬はいくつかの荷を乗せた簡易的な馬車を引いている。彼が言うには、この馬は自身が乗るためではなく、荷物を運ばせるために連れているという。
「というか、基本的に俺は馬に乗らない……いや、乗れないんだ。俺の体重を支えて走れる馬が中々いなくてな」
納得のいく話だった。
そして荷馬車をチラリと見ると、貴族出身のレイアですら見たことも無いような見事な万鈞鎧が確認できた。
「……凄い。見事な鎧ですね」
思わずそう呟いたレイアに、コーデリクはチラリと鎧に視線を向けて説明をする。
「名匠 ”魔鉄”の一品だ。通常の鎧よりも分厚く頑丈に作られているが、重量が桁外れだ……恐らく俺以外の奴では使いこなせん」
移動の時は邪魔だから荷馬車に乗せているというが、不意の襲撃に備えて武器だけは装備していた。
レイアと同じ大きさの巨大な盾を背負い、腰にはこれまた無骨な肉厚の山賊刀が一本。これらの装備も名匠 ”魔鉄”による一品だという。
”魔鉄”という名前に聞き覚えはなかったが、量産既製品ではなく名匠によるオーダーメイドの装備。こんな見事な装備一式を揃えるのには恐ろしいほどの資金が必要だろう。
傭兵とは、そんなにも儲かる仕事なのだろうか?
「こんな装備、どうやって買いそろえたのですか?」
レイアの純粋な疑問に、コーデリクは困ったような顔をしてポリポリと頬を掻いた。
「……気が向いたら話してやる。さあ、出発だぜお嬢さん」
何やらごまかされたようだ。
まあ、良い。
きっと長い旅になる。
仲良くなれば、きっとそのうち話してくれるだろう。
そうして、レイアとコーデリクは聖王国への旅を開始したのであった。
◇