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魔を穿つは鉄  作者: 武田コウ
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イレギュラー

 ソレはまさに悪夢そのものだ。


 正面から対峙したウィリアム・J・バーンズはゴクリと生唾を飲み込んだ。


 彼はここいらでは少し有名人だ。幼き頃から高い魔法適正を見いだされ、さらに騎士の家の出だということもあり、剣術の才能もそれなりだった。


 同世代の中では一番の出世頭だったし、今回の遠征でも大きな手柄を立てて、より高みを目指そうと意気込んでいた。


(おいおい、聞いてねえぞ……こんな化け物が参戦してるなんてよぉ)


 ウィリアムの前に立ちふさがったのは、巨大な鉄塊だった。


 否、それは人である。


 無骨な板金鎧に身を包んだ重戦士。その背丈は巨大で、自分では背が高いと思っていたウィリアムが大きく見上げるほどだった。


 右手には大人の女ほどの大きさの分厚い盾を持ち(主人に負けぬほどの無骨さで、その重量は計り知れない)、左手にはどっしりとした肉厚の片刃の剣が握られている。





 昨今、戦の勝敗とは軍にどれだけの魔法使いが所属しているかによって決まると言われている。


 確かに魔法を凌駕するほどの剣術、体術の達人は存在する。しかしそれは全体から見てほんの一握りのイレギュラーだ。


 現実は非常で長く鍛錬した兵士を、新人魔法使いが覚え立ての魔法で殺してしまうことなんてざらだった。


 故に、魔法使いと非魔法使いの間では埋められぬほどのアドバンテージの差がある。


 ウィリアムには、魔法の才能があった。


 だから、これまでの戦場でも相手に恐怖した事など無く、魔法というアドバンテージをもって堅実な戦果を積み重ねてきたのだ。


 しかし違う。


 目の前のソレは違う。


 そもこれほど巨大な兵士が、ウィリアムに気づかれることもなく、こんな近くまで距離を詰めてきていることが異常だった。


 その人間離れした巨体、身に付けている装備の重量からソレの桁外れな膂力が推測出来る。


 分厚い兜のスリットから覗く眼差しはどこまでも冷たく、まるでウィリアムの事を羽虫か何かだとでも思っているかのようだ。


 額からつぅーっと冷たい汗が流れ出ていることがわかる。


 ”魔法を凌駕する一握りのイレギュラー”


 そんな言葉がウィリアムの脳裏に浮かぶ。


(ふざけるな! 俺はこんな所で終わる人間ではない……やってやるさ、俺には魔法がある)


 ウィリアムは自分を奮い立たせると、キッと目の前の敵を睨み付けて魔法の詠唱を始める。


「”炎よ……”」


 しかしその判断は間違えていた。


 魔法とは強力な攻撃手段だ。しかしそれは、あくまでもある程度距離がある相手に対してのみ有効な手段であると言わざるを得ない。


 手を伸ばせば届くような距離の相手に攻撃魔法を放ってしまった場合、その攻撃の余波で術者本人にもダメージを与えてしまうだろう。


 そも、魔法使い相手にここまで接近できた戦士が、魔法詠唱の隙を与える筈など無い。


 ウィリアムが魔法の詠唱を始めた瞬間、ソレは動いた。

 右手に持った巨大な鉄製の盾を持ち上げると、無造作にウィリアムに向けて叩きつける。


 たったそれだけのシンプルな攻撃で、ウィリアムは一瞬にして真っ赤な肉片へと姿を変えたのだった。




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