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*とある無人島にて

先週upし忘れてしまったので2話分upします。

穏やかな昼下がりのこと。

人の手を知らない鬱蒼とした森には、苔むした太い木々がいくつも天高くそびえ、地面へ黒い影をつくっていた。とはいえ日が全く差し込まないというわけではなく、葉や枝の隙間から数か所スポットライトのように地面へ太陽の光を届けている。

その中の一つに、むき出しになった太い木の根があった。日がいつも当たっているのか、その一角だけは苔むしておらず、綺麗な木の茶色が見えている。そしてその上で、気持ちよさそうに目を瞑り、横たわっている男がいた。


男はまるで彫刻のような美しい容姿をしていた。男らしく短めに切られた髪はプラチナブロンドで、日の光でキラキラと輝いている。その肌も陶磁器の様に白く、それは日の光を浴びて一層際立っていた。


「―――やっと見つけた」


あどけない少女のような声が、男以外に姿の見えない森に響いた。

やがて男のそばに現れたのは、赤みがかかった茶髪を腰辺りまで伸ばした少女だった。髪は歪みのない綺麗なストレートで、彼女が動くたびにサラリと揺れる。

「日光浴?こんなところで寝ていたら、灰になるわよ」

呆れた様子で腰に手をあて、男を見下ろす彼女。その瞳は鳶色で、日の光を浴びてキラキラと輝いている。彼女の言葉に、男は耐えかねた様子でク、と口をゆがめた。

「いつの時代の伝承だよ。第一、俺達が日の光を浴びた程度で灰になるなら、魔女狩りも待たずにとっくに絶滅してるさ」


いったい何処からそんな伝承ができたんだか。


そんなことを言いながら、男は目を開き、傍らに立つ女を見上げる。その瞳は金色で、闇夜に浮かぶ満月を連想させた。

「そうね。実際にはニンニクだって大丈夫だし、木の杭を打ち込んだどころじゃ死なないわよね」

「いや、木の杭は流石に死ぬと思うぞ?まぁ・・・俺達に打ち込めるような実力があればの話だが」

喉の奥で、実に楽しげに笑う男。ひとしきり笑うと、男は気だるげに起き上がり、大きく伸びをした。

「・・・さて、行くか。しっかり休めたか、リリー」

少女―――リリーがこっくりと頷いた。

「おかげさまで。貴方を探す為に少し歩いたけど・・・・どうってことないわ」

肩を竦めて見せたリリーに、男は面白いと言わんばかりに口元を歪める。

「さすが。シュガート家の名は伊達じゃないな」

「よしてよ、あの程度歩いたくらいで」

大げさだとリリーは笑う。

実は今いるのは、海のどこかに浮かぶ名もない無人島であり、島には手付かずの自然が広がっている。男の方向感覚が確かであれば、今自分がいるのは島のほぼ中央で、停泊している。

船からここまでは、通常の女性が歩けば片道3時間はかかるであろう位置にいるはずである。それを“あの程度”で済ませてしまえる彼女に、末恐ろしいなと内心苦笑をもらした。そんな遥々来た彼女をいつまでも待たせるわけにはいかないと、男は腰を上げる。


見渡す限り木々ばかりの樹海を迷うことなく歩き始めた男に、リリーも無言のままついていく。その途中で、今思い出したといった様子で「あ、」と口を開いた。

「さっき報告が入ったんだが・・・ダリアとザイラが接触したらしいぞ」

男の言葉に、リリーの表情が怪訝そうに歪む。

「・・・確かなの?」

「あぁ。シード家の伝令係メルクリウスからの話だ、間違いない・・・ただ、」

そこで言葉を切った男に、リリーはチラリと視線を送る。男は楽しげな笑みを浮かべ、歩く先を見据えている。

「ダリアに会っても、記憶は戻らなかったそうだ」

リリーは無言のまま目を見開く。やがて彼女は酷く傷ついた表情を浮かべ、「そう、」と消え入りそうな声で呟いた。

「せっかく会えたのに・・・記憶がないなんて、」

既に握りこまれていた彼女の拳に、さらに力が入った。

「そもそも《ブックス》の紹介で入ったくらいだからな。あれだけ世間に名前を広めても思い出せなかったんだ。ただ会っただけじゃ、思い出せねぇさ・・・それだけの事をしたしな」

目を細め、どこか遠くを見つめる男は口元に笑みを浮かべてはいるものの、その瞳にはどんな感情も読み取ることはできなかった。

彼は意識的に強くその眼を瞑り、やがてゆっくりと開く。

「・・・けどまぁ、いずれにせよ、ザイラはダリアの元に辿り着いていただろうさ」

だろう、と不確定な言葉を選びながらも、男はどこか確信をもった自信のある声でそう言った。リリーは意味が分からないと言わんばかりに眉根を寄せる。

「何でそんなこと言えるのよ。記憶を無くしたままなんでしょ?」

記憶を無くしているのなら、相手が覚えていたとしても本人にとっては赤の他人も同然である。そんな状態で、辿り着くもなにもないだろう。

しかし、男は自信に満ち溢れた表情で、不敵に笑った。

「辿り着くさ。俺達が、一度惚れた女の血の匂いを忘れるわけがない」

その言葉にリリーは一瞬唖然とし、次いで呆れた、それでいて少し嬉しそうな笑みを浮かべた。

「すごい自信ね・・・それは感?それとも経験からかしら?」

クスクスと笑いを漏らせば、男は満足そうに笑みを浮かべる。

「勿論、両方だよ。わかっていて聞くとは、いい性格してるじゃないかリリー」

「あら、貴方に似たのよ?クラッド」

男―――クラッドは「心外だな」とおどけて肩を竦めて見せたが、その表情はまんざらでもなさそうだった。


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