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14.驚くことは沢山あって

今週は2ページupしてます

まずは座ろうという話になり、灯台のすぐ下に設置されたベンチにダリアとザイラは腰掛けた。ケイブ島の街並みとその向こうの青い海が美しく、眺めるだけで心が休まるようだ。


「とりあえず、された質問に答えるね」


ダリアの言葉に、ザイラは首を傾げる。

自分がヴァンパイアであり、彼女の幼馴染であることを知った衝撃が大き過ぎて、自分がどんな質問をしたのか、すぐには思い出せなかったのだ。

「貴族か、それに準ずる家の出身かって質問ね」

くすくすと含み笑いをするダリア。忘れていたことを悟られ、気恥しくなったザイラは首の後ろに手を置いた。

「半分正解ってところかな。私の家は布地を主に取り使う商家で、小貴族くらいの財産はあるからね。それに伴って教育も力を入れてたから、貴族の淑女に必要な教養は一通り身についてるはず」

貴族ではないが、そのように振る舞うことはできる、と。

「・・・それって、所謂お嬢様では?」

「うん。そうなるね」

あっけらかんと答えるダリアに、ザイラは頭を抱える。

本当に、何故、海賊として海に出るという発想がでたのだろうか。

聞けば聞くほど分からなくなったザイラに、ダリアは「でもなぁ、」と続ける。そして、ニヒルに笑って見せた。

「君には言われたくないね。ザイラの家は、私たちの街を管理する領主で、伯爵家よ」


「はくッ・・・えぇ?!」


驚きのあまり仰け反ってしまう。冗談ではないのかとダリアの顔を凝視していると、「驚き過ぎだよ」と苦笑した。

「シード伯爵家。ザイラはその本家の次男で・・・2歳上に、お兄さんがいる」

"お兄さん"の部分で、何故かダリアの表情に陰りが見えた。声の調子もやや暗くなり、ザイラは訊いても良いものか躊躇する。しかし、思い切るよりも先に彼女が話し始めた。

「古くからアグリルコーテ領を治める伯爵家・・・それが、表の顔」

「表の顔?」

不穏な言い回しに、ザイラは眉根を寄せる。ダリアはふわりと笑い、今は喋らないでと言わんばかりに、自らの人差し指をザイラの唇の前に立てた。


「ヴァンパイアが率いる暗殺一家・・・それも、とびきり優秀なね」


声のトーンを下げたダリアの言葉に、ザイラは目を見開いた。そしてふと思い出した。

そういえば、彼女は入団テストの際に、「殺しは無しで」と言っていなかったか。

(あれは、俺に向けて言ったんだな)

思い返せば、自分の動きにその鱗片はあった。血が苦手なため、戦う必要がある時は人体の急所を狙い、太い血脈を狙わないようにしていた。あれも知識がなければできない芸当であると、今更ながらに思い至った。

「受けた依頼は完遂。世界中にパイプを持っていて、特に情報戦では負けを知らない。裏の世界でシード家を知らない人は、まず居ないわね」

「それって、もはや貴族ではなくマフィアなんじゃ・・・?」

むしろ貴族と言えるのだろうか。

頭痛がしそうな内容に頭を抱えるが、ダリアは明るく笑う。

「あら、領主としての腕も確かよ?シード家が領主になって何百年と経っているけれども、領地の発展と治安改善は留まる所を知らないもの」

各地へ学校の設立や警備隊の設置等、軽く上げてもらっただけでも結構な数の施策を行っているようだ。ザイラは少し安心して、胸をなでおろした。

いくら過去を知りたかったとはいえ、自分が暗殺一家の一員だと言う話は、ヴァンパイアであるという事実と同等にヘビーだ。今にも胸焼けしそうな思いである。

(しかしなぁ、)

話を聞けば聞くほど、不思議に思う。

「なんで船長はそんなに詳しいんですか?」

領地の歴史はともかく、暗殺一家である事も全部自分が話したのだろうか。だとすると、自分は相当ザルで危機感のない馬鹿野郎であったことになる。

眉間にシワが寄っているザイラに、ダリアは彼が考えている事がわかったらしい。苦笑して、その肩にポン、と手を置いた。

「貴方と私は遠い親戚にあたるの。何十代か前に、シード本家のお姫様が我がシュガート家に輿入れしてね・・・以来、ずっと付き合いがあるの。今でもシード家主催のパーティは必ず出席するくらいは、交流があるわね」

「なるほど、それで・・・ん?」

どうやら自分は馬鹿野郎でもザルでも無かったようだ。そう安心したのも束の間、ザイラはダリアの話の中で聞き逃せないものがあることに気がついた。

「・・・船長、」

「ダリアでいいよ。敬語も要らない」

他のみんなも好きに呼んで話してるし、と言うダリアに、ザイラはその言葉に甘える事にした。

「じゃあ・・・ダリア。確認してもいい?」

「どうぞ」

「今────"我がシュガート家"って言った?」

恐る恐る口にした質問に対し、ダリアは目を瞬かせる。そして首を傾げ、

「うん。言ったよ?」

と、さらりと返答した。

それにクラリと目眩を覚える。そして、ダリアに関して大半の疑問が解消された瞬間だった。


「世界を股に掛ける大商家じゃねぇか!!!」


小貴族なんてとんでもない。下手したら伯爵クラスの財力を持つ、世界的に有名な布をメインに扱う貿易商だ。

「この3年で常識身につけ直した俺だって知ってるわ!お嬢様どころかお姫様だろ!!」

世界中の結婚適齢期である男性の誰もが嫁に欲しがるであろうシュガート家の姫が、目の前にいる。しかも海賊の長として。

急に叫び出したザイラに目を丸くしていたダリアだったが、すぐににっこりと微笑んだ。完璧な淑女の笑みだ。

「口が悪いザイラって新鮮ね」

「さらりと話を逸らそうとしないでくれます?」

半眼するザイラの言葉に、ダリアは笑みを貼り付けたまま答えない。思わず溜息を漏らした。

「どうりで、あのお店の店主が敬うはずだわ・・・」

格式高い店なのに何故値下げのような事を、と思っていたが、シュガート家であれば頷ける。あのお店で使用している布は、シュガート家から仕入れているのだろう。

「話がそれちゃったけど、貴方の家について知っているのはそのくらいね。仕事内容は流石に知らないし・・・あ、ちょっと特殊な学校に通ってたくらい?」

肩を竦めて見せたダリアに、ザイラは目を瞬かせる。

「特殊な・・・?いや、それよりも俺、学校に通ってたんだな」

普通、貴族は学園に通わずに家庭教師を雇うものだと聞いている。しかも、伯爵家でありながら暗殺一家であるという家だ。学校に通っていたという話だけでも驚きだが、特殊という言葉がさらに気になる。

「通ってたよ。私も同じ学校」

ダリアはそれとなく辺りを見渡すと、口元を手で隠すようにして覆い、顔を僅かに近づけた。

「───"アグリルコーテ魔法・魔族学校"って、わかるかしら?」

声量を落としたダリアの口から出た言葉に、ザイラは唖然とした。


"アグリルコーテ魔法・魔族学校"とは、その名の通り魔法使いと魔族が通う学校の事である。その手の学び舎ではマイナーだが、他の学校では学ぶことの無い魔術や学問も多く、魔術を極めたい者はこの学園に通う事が多い。1000年以上の歴史ある学校である。

もちろん、普通の人間が知ることは無いだろう。それを知っていて、尚且つ通っていたとなれば、

「俺、魔法使いなのか・・・?」

かつて魔女狩り等の迫害を受けた、魔法使いであるということだ。

「ええ、そうよ。卒業してないから半人前で、校外での使用は禁止されてるけどね。それにしても・・・ヴァンパイアの存在は否定したのに、魔法使いはすんなり受け入れるのね」

ダリアは不思議そうに首を傾げる。それにザイラは一瞬言い淀んだが、彼女も魔法使いであるなら大丈夫だろうと、ある事実を明かした。


「師匠───ピットーリ・クレツィオニが、毎年のように特別講師にと依頼を受けては断ってたからな」


ダリアは目を見開き、ゆっくりと瞬きした。

「"ブックス"が?」

「アグリルコーテ魔法・魔族学校の卒業生らしい。賢者であると同時に、優秀な魔女だよあの人は」

「・・・初耳だわ」

口元に手を当てたダリアは、ザイラをまじまじと見る。疑るような視線に、無理もないと思いつつ頷いてみせる。

魔法使いは、魔法を使わない人間に知られるのを恐れる。なぜなら、魔女狩りで多くの同胞が姿を消したからだ。その団結力・・・いや、集団の暴力は未知数である。だからこそ、魔法を使わない人間に積極的に関わろうとはしない。

そんな中で、"賢者"として深く関わるピットーリ・クレツィオニは異端と呼んで差し支えないだろう。棺桶に1歩足を踏み入れているようなものである。

「通称"色彩の魔女"。ペイントマジックっていう、描いたものに命を吹き込む魔法が得意なんだ」

描いたものを一定時間だけ具現化させたり、使役することができる。その腕を見込まれて、教鞭をと何度も手紙で依頼が来ていたが、師匠いわく「血統魔法だから私しか使えないのよね」らしい。

「"色彩の魔女"が、賢者"ブックス"と同一人物・・・?」

ダリアは両手で頬を覆う。若干青ざめているようにも見え、そんな大袈裟なとザイラは笑う。彼女はムッとした表情をしてすぐ、溜息をついた。

「知らないから笑ってられるのよ・・・いい?"色彩の魔女"は魔法使いの中でも有名だし、アグリルコーテ魔法・魔族学校に通う人で知らない人はいないの!特別優秀だったと伝説の───第一期生なんだから」


第一期生。


ザイラはその一言に、目を瞬かせる。

「・・・アグリルコーテ魔法・魔族学校って、創立が、」

「800年くらいね」

やはり記憶に間違いはない。アグリルコーテ魔法・魔族学校の創立は1000年以上前である。その第一期生となると、だ。

「・・・えぇぇぇ」

ザイラの口から、間の抜けた声が漏れ出た。

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