*レストラン『海の青』
先週出来なかったので2回分upします。
レストラン『青の海』は、ケイブ島の目抜き通り沿いにあるお店だ。
外観は晴れた日の海のようなブルーを基調とした建物で、白塗りの木製の扉がよく映えている。店内は白い漆喰の壁が美しく、テーブルなどの設備はカントリー調で纏められており、なかなかに小洒落た、それでいて落ち着く雰囲気である。サリベルの両親が営んでいて、魚介料理が美味しいと島内外問わず評判だ。
そんな店内の最奥の席で、レッドムーン海賊団の一行は早めのランチをご馳走になっていた。
「なぁ、なんで船長とザイラを2人きりにしたんだ?」
すっかり食べ終わり寛いでいた所で、ザックが向かいの席に座っているサリベルに声をかけた。
サリベルは、食後のデザートであるお店自慢の干し葡萄のクッキーに手を伸ばしたところだった。ザックの質問に一瞬だけ手を止めたものの、何事も無かったかのようにクッキーを1つ手に取った。
「言ったでしょ。このメンバーで私以外なら、ダリアが1番島に詳しいからよ」
そう言って、クッキーを口に放り込む。
「そりゃわかるけどさ。別に2人きりにする必要は無かっただろ?むしろ、綺麗所な2人だけのほうが格好の餌になりかねないっていうか・・・」
真っ直ぐ見つめるザックに対し、咀嚼するサリベルの目線は机のクッキーにある。しかし、話は聞いているようで、咀嚼するスピードがだんだん緩やかになっていった。
「何より、あの二人はまだ気まずいんじゃねーかな、と───」
そこまで言って、ザックは口を噤んだ。サリベルはクッキーを飲み込み、コップを静かに仰ぐ。
「・・・そうやって逃げてたら、何も進まないでしょう」
コップから離れた口から呻くように漏れたサリベルの声に、ザックはギクリと肩を揺らす。様子を見守っていたカザイヤ達は、やれやれと肩を竦めた。
そう、サリベルは怒っていたのだ。
「第一、ザイラ君は確かに綺麗だけど、男でしょ?記憶がなくたって、いざとなればダリアを守ってくれるわよ。・・・まぁ、守りきれなかったら容赦しないけど」
目を眇めるサリベルに、ザックはそっと視線を机のクッキーに移した。火に油を注いだ自覚が漸くできたのである。
「時間作っては会うほど大切にしてた幼馴染を、あっさり忘れたですって?ふざけんじゃないわよ!ダリアがどんな思いでこの3年間探し続けたと・・・!」
たんっ、と軽く音を立ててコップが置かれた。
ダリアを応援してきたサリベルにとって、ザイラは正直言って殴ってやりたい男である。
記憶を失くしたことは不憫だと思う。しかし、それにダリアがどれだけ傷付いたかを考えると、やりきれない腹立たしさで拳を強く握り締めてしまう。
けれども、全く関係のない自分が感情のままに彼を殴った所で、記憶が戻る可能性はゼロに等しい。それならば、2人きりで話した方がまだ進展はあるだろう。
「それぞれ欲しいものは手の届く所にあるのよ?あの二人はいい加減に覚悟を決めて話すべきよ・・・また手遅れになる前にね」
そう言って、またクッキーに向かって手を伸ばす。
しかし、その手は空をかき、何も手にすることが出来なかった。フォンテーヌが皿ごとクッキーを奪ってしまったのだ。
サリベルは彼を睨むが、フォンテーヌはそれに苦笑して首を横に振った。
「気持ちはわかるけど、食べ過ぎは身体に良くないわ。美容と体型維持の大敵よ?」
あなた何枚食べたか覚えてる?と訊かれ、サリベルはお皿を見ながら思い返す。
自分の母がみんなと一緒にと出したクッキーは、お皿に山ほどあった。しかし、今は元々あった量の1/3は無くなっている。加えた言うなら、クッキーに手を出しているのはサリベルしかいない・・・全員、彼女の剣幕に手を伸ばしにくかったのだ。
サリベルは我に返り、顔を青くさせる。明らかに食べ過ぎである。
「・・・うん。ありがとう、フォンテさん」
「わかればいいのよ」
素直にお礼を言えば、フォンテーヌは元の位置にクッキーのお皿を戻した。
「後で、多少なら食べ過ぎても大丈夫なお菓子を作ってくるわね。今夜は必要でしょ?女の子の集まりには欠かせないもの」
パチンッと音が聞こえそうなほど綺麗なウィンクをキメたフォンテーヌに、遠くから見ていたらしい女性たちが数名倒れた。
コーヒーを啜っていたマルクスは、不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。
「・・・コック、いい加減に自分の顔の破壊力を自覚しろ。やるなら人目がないところでやれ」
そう言い終わるやいなや、マルクスはコーヒーカップを置いて立ち上がり、人集りの中心である倒れた女性の元へ向かった。それをどこか愉快そうにシンは見送った。
「面倒ナラ診ナけレばいいノニ・・・本当二律儀ナ方デスネェ」
「毎度の事ながらすげぇな。これで意識して振舞ったら、大半の女はフォンテに落ちそうだな」
ヒュウ、と口笛を吹くカザイヤに、フォンテーヌは嫌そうな顔をする。
「しないわよ。無意識ならまだしも、女性を意識して弄ぶなんて・・・クズ以外の何者でもないわ」
鼻を鳴らすフォンテーヌを、ザックは「男らしいよなぁ」と嬉しそうに呟く。サリベルもザックの言葉に何度か頷いた。
「会う度に王子様へ近づいてる気がするわ・・・恋人いないのが不思議でしょうがない」
「まずこの顔に耐性がないと無理だろ。毎回倒れられちゃ、会話も出来やしねぇ」
「なるほど、話す前に倒れちゃうわけね。そりゃ進展しない訳だ」
肩を竦めてみせるザックに、サリベルは考え込むように腕を組む。
「ちょっとそこ!私の話で勝手に盛り上がらないでちょうだい」
半場本気で自分に恋人が出来ない理由を考察し始めた2人に、フォンテーヌは呆れた様子で待ったをかける。
「面白そうな話じゃねぇか!俺も混ぜてくれよ」
「及ばずナがラ、私も考えまショウ!」
「面白がってんじゃないわよアンタたち!!」
弄る気満々のカザイヤとシンに、フォンテーヌは吠える。
ギャイギャイと騒がしくなった一行に、溜息を着く人物が一人。
「・・・お嬢たち、早く戻らねぇかな」
倒れた女性たちを診て早々に戻ってきたマルクスは、席から少し離れたところで立ち止まり出入口付近を見る。残念ながら、まだ2人が戻ってくる気配はない。もう一度溜息をつき、騒がしい席へと戻って行った。