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11. 灯台のある広場

先週休んだので2話分upしてます。

鈴が転げたような、という言葉がある。それがぴったりなダリアの笑い方に、ザイラはしてやられた、と思わずにはいられなかった。

「・・・笑わないでくださいよ」

「ふ・・・はは、ごめん。ごめんって。そんな顔しないで」

ね?と小首を傾げる様に、また頬の熱があがったのがわかり、逃げるように視線を外した。

(謝った時の上目遣いといい、今の動作といい・・・どうしてコレで1人で過ごせると思うんだよ)

普段、海賊の長として場を仕切り、他を圧倒できるだけの実力があったのもいけなかったのだろう。自身が女であり、そしてその中でも容姿が上の部類に入ることを分かっていないに違いない。

・・・加えて言うなら、ザイラの好みのど真ん中である。

(態とそういう事する奴もいるが・・・男に媚びる必要のない船長がやる必要ないしな)

こうして話している間にも、こちらを伺うように見ている者がいるのが確認出来る。わかっていて無視しているなら、1人で街を出歩くとは言わないだろう。 要するに、本人に男性の視線を集めているという一切の自覚がない。

(しかもこの人・・・)

視線を戻せば、微笑むダリアが目の前にいる。

「・・・とりあえず、移動しましょうか」

「そうだね。服は既に選び終わってるみたいだし・・・ごめんね、間に合わなくて」

そういえば、服を選び終わる頃には戻ると言っていたんだったか。

「気にしないでください。店長のご協力もあって、通常よりもかなり早く選び終わりましたから」

ザイラが手を差し伸べれば、ダリアもその上に手をそっと乗せる。それにザイラが目を眇めたことに、進行方向に既に目線がいっていた彼女は気が付かなかった。

「せん、・・・ダリアさん、」

「どうしたの?」


「あなた、貴族かそれに準ずる家の出身ですよね」


ぴくり、と乗せられた手が反応したのがわかった。ダリアは表情は変わらず笑顔のまま、ザイラを振り返った。

「どうして?」

「差し出された手に自身の手を重ねる、なんて庶民は普段しません。今みたいにスムーズにはいきませんよ。あとは紹介してくださったブティックです。値段こそ安くしてくださってますが、少なくとも先程の彼らのような子爵・男爵クラスでは手が出ない品質です」

その他にも気になったところは多々あったが、確信を持ったのはこの2つだ。

ダリアの手がするりと抜け、彼女は大通りに繋がっている人気の少ない、しかし見通しの良い路地へと入っていく。島民の生活道路なのだろう。2人並んで歩いてもまだ少し余裕がある広さだ。

ザイラも無言でその後ろをついて行く。

「・・・さっきの彼らが、子爵・男爵クラスだとわかったのは?」

しばらく歩いていると、不意にダリアが話しかけてきた。しかし、顔は相変わらず前を向いたままだ。

「服装です。服は真新しくそれなりに上等なものに見えましたが、靴は2シーズンほど前に流行したものでした。恐らく、観光地に来るからと服は新しいものを用意したものの、靴まで買う余裕、もしくは頭が回らなかったのかと」

情報の遅れは致命的となる貴族社会。上位貴族であれば靴まで気をつけていただろう。ましてや、長く履くつもりで買ったのなら、流行りのものは買わないはずだ。

「あぁ・・・だから恋人のフリをしたのか」

ダリアがポツリと呟いたのが、ザイラの耳に届いた。

相手が貴族である場合、使用人や部下として出れば立場を理由に太刀打ちできない可能性が高い。その為、彼女を連れ出しても問題にならなさそうな恋人として切り出したのだ。 港から遠ざかっているのか、石畳の緩やかな登り坂が続く。やがて連なっていたカラフルな家の壁を抜け、開けた場所に出た。

その光景に、ザイラは思わず足を止めてしまう。


「ここは・・・灯台、ですか」


ここに来るまでの道と同じ石畳の広場の中央には、真っ白で小さな灯台があった。その向こうには、落下防止のためか欄干があり、更に向こうには街並みと、海が広がっていた。

ただ、その欄干は元の色がかろうじて白とわかるものの、遠目から見ても風化しペンキは剥げている。

「───った、」

ズキリ、と急に痛みを感じ頭を押える。しかし、すぐ痛みはなくなり、気の所為だったかとザイラは内心首を傾げた。

「島の端に位置するんだけど、眺めが良くてね。サリィ───サリベルに教えて貰ってから、気に入ってるの」


私の避難場所だから、皆には内緒ね。


ダリアは一度振り返りウィンクしてみせる。

それに見蕩れ、一瞬何を話していたか頭から飛んでしまったザイラは、頭を振って雑念を追い出した。

「ねぇ、ついでにもう1つ聞いてもいいかしら」

既にダリアは欄干の前まで進んでいて、こちらを正面から見据えていた。

彼女の赤茶の髪と薄紅色のスカートが、風で軽く遊ぶ。

「えぇ、どうぞ」

「さっきの"mia fiore"って?どうして名前でなくてあんな呼び方したの」

予想外の質問で、ザイラは目を白黒とさせる。ダリアの表情は柔らかくもどこか真剣で、今一度その時の状況を思い返した。

「・・・万が一にも名前と顔を覚えられると、後々面倒かなと。もしかしたら、海賊だとバレる可能性もありますし・・・あと、特別な呼び方をしていた方が"勝手に勘違いしてくれる"のではないかと思いました」

ザイラは一言も、自分が貴族であるとも、ダリアの恋人であるとも決定的なことは言っていない。態度と雰囲気で相手に勘違いさせたのだ。加えて相手に対して丁寧な対応をしている為、嘘だとバレたとしても問題は無い。 そう言うと、ダリアは「なるほどね、」と苦笑した。

「あとは、」

「え、まだあるの?」

意外だと言わんばかりに目を瞬かせた彼女を横目に、ザイラは先ほどの男達のことを思い出して眉間に皺を寄せる。

「わざわざ貴女の名前を教えてやることもないかな、と。今後声を掛けてこないとも限らないですし・・・あんな三流なナンパ男、ツテが出来たとしても使えなさそうだ」

キッパリと言い切って、ザイラはハッと我に返る。

もしかしたら、いや、万が一だが。彼女が貴族にツテを作ろうとしていたとしたら、自分はただ邪魔をしただけでは無いのか。

そんな考えが過り、ザイラは慌てる。

「す、すみません。俺、ひょっとして余計なことを・・・」

戻って声をかけ直したほうがいいのだろうか。

いやでもアレはやっぱりツテを作っても意味は無さそうだから別の人を探したほうが・・・

と、1人あたふたするザイラ。

初めは唖然としていたダリアだったが、あまりの慌てように耐えきれなくなり、吹き出した。

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