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10. mia fiore

先週upを休んだので2話分upします。

迂闊だった。

ダリアはにこやかに微笑みながら、胸の内でそう呟いた。

「宴の島で、この様に麗しい女性がおひとりで過ごされているだなんて!何たる悲劇でしょうか」

目の前には、2人の貴族らしい男がいる。恐らく歳は自分より少し上だろう。やけに芝居がかった様子で、隣にいる男に「そうは思わないか」と声をかけている。

「全くですね。これはもはや運命では?そうは思いませんか、麗しいお嬢さん」


いや、思わないです。


咄嗟に口からでかかったが、すんでのところで飲み込んだ。

(こう言った貴族の坊ちゃんは、下手に否定すると面倒なのよね・・・しかも、軽く飲んでるっぽいし)

なぜ声をかけられて振り返ってしまったのか、つくづく後悔しかない。ブティックまではあと少しなのにと、内心で溜息を着く。

「そんな、麗しいだなんて・・・この島には、私よりもその言葉にふさわしい方が沢山いらっしゃるのに。恥ずかしいですわ」


訳:私に構わず他を当たれ。


口元に手を当てて微笑めば、男たちは「なんと奥ゆかしい!」と盛り上がっている。

(これはダメだわ)

酔っているのもあるが、観光地に来て気が大きくなっているのだろう。相手が貴族であるならと、湾曲した言葉選びをしていたが、これでは埒が明かない。

「あの、申し訳ございませんが連れを待たせておりますので・・・そろそろ失礼しますね」

軽く膝を折ってその場を離れようとするが、男たちはダリアの行く手を阻んだ。

「では我々がそこまで案内致しましょう」

「そうですよ。貴女のような可憐な方をおひとりで歩かせる訳にはいきません」

「・・・お気遣いは嬉しいのですが、すぐ近くですので」

いっそ蹴散らすことが出来たら、どれだけ楽か。

しかしそんなことをすれば、島の警備隊が来て面倒なことになること間違いないだろう。それ以前に、相手は貴族らしき男だ。下手すれば罪に問われ、島の出入りが禁止となってしまう。

どうしたものかと、笑顔を張りつけながら計算しているときだった。


「あぁ、こんなところにいたのか」


賑やかな周囲の中から、耳慣れた声がダリアの耳に届いた。声の主を視界に入れる前に、ふわりと腰が引き寄せられる。


「探したよ、mia fiore」


柔らかに微笑む彼を、ダリアは呆然と見上げる。


「・・・ざいら?」


零れるように出た自身の名前に、ザイラは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに目を細め蕩けるような笑みを浮かべた。

「待ち合わせ場所になかなかこないものだから、心配したよ」

いつの間にか取られていた手を口元へ持っていき、その指の付け根あたりへ軽いキスをする。 我に返ったダリアは、一気に体温が急上昇したのがわかった。

ザイラは女性と間違えられることこそ多いが、10人いれば10人が認める美形である。そんな彼が間近で、しかも恋人を目の前にしたかのように振る舞う様は、凄まじい破壊力があった。今の彼を目にして、女性だと、ましてや海賊の下っ端であるとは夢にも思わないだろう。

ダリアは悲鳴をあげそうになったのを必死にこらえ、視線をそらしてやり過ごす。

そこでやっと、ザイラの格好がブティックに行く前とは変わっていることに気がついた。

白いシャツに、金の縁どり刺繍がされた黒のベストと、深紅のスカーフを合わせている。パンツも黒で、靴も綺麗に磨かれた艶やかな黒の革靴だ。

どれもこれも、上級貴族が身に纏うような一級品であることは明らかである。

「・・・おっと、これは失礼を。愛しい人を前にすると、どうも抑えが効かなくなってしまいまして」

呆然とこちらを見ていた男達を一瞥すると、彼等はようやく我に返った様子だった。

「彼女になんの御用でしたか?よければ私が伺いますが・・・」

完璧な笑みとはこのことか、と言いたくなるような煌びやかな笑みを浮かべるザイラに、男達は酔いも引いたのか頬を引きつらせる。

「あ、いや、お連れの方がいるならいいんです」

「我々はこれで失礼します」

そそくさと去っていく男達の背中が、街の雑踏の中に消えていく。完全に見えなくなったところで、ダリアはホッと息をついた。


「・・・ご自覚いただけましたか?」


「え?」

いつもより少しばかり低い---不機嫌そうな声に、ダリアはザイラを振り返る。聞き間違いではなかったことを裏付けるような表情に加え、先程の言葉の意味がわからず戸惑う。

ザイラは苛立たしげに髪をかきあげ、長く息をついた。

「普段の格好であればまだしも、今の貴女の姿は誰から見ても淑女そのもの・・・魅力的な女性です。そんな女性が酔っ払いも沢山いる街に、1人で出歩くのは危険極まりない」

ようやくダリアは、店を出る前にザイラがしつこく止めてきたことを思い出した。

勝手知ったる場所だからと浮かれていたことを自覚して、いつにない失敗をしたことに頭を抱えたくなる。

「その・・・ごめん、なさい」

あまりの恥ずかしさに、消え入りそうな声になってしまった。

反応がなく、ちゃんと聞こえただろうかと恐る恐る見上げると、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしたザイラと目が合った。

何故そんな表情を?と内心首を傾げていると、彼は勢いよくダリア腰を抱いていた手を離し、1歩離れた。 急にどうしたのかと目を白黒とさせていると、ザイラは顔を片手で覆った。

「・・・イエ。こちらこそ、緊急事態とはいえ船長に馴れ馴れしいコトをして・・・すみませんでした」

顔を完全に覆ってしまっていてその表情は見えないが、隠し切れていない頬や耳が真っ赤になっている。

自身でやった事ながら、距離の近さに驚いたと言ったところだろう。

そう思うと可笑しくて、ダリアは笑いを押さえられず口元を押さえたものの、声を漏らしてしまった。

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