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ダンジョン・イン・アナザーワールド  作者: 風ビンくん
第1章 〈龍の願い〉
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第2章2 強制外出



 ――記憶喪失。


 先程の会話で判明した事だ。

 化け物に殺されかけた事、ルースやリア達との出会いの場面、一緒に行動していた場面、能力の使用方法などは、はっきりとではないが覚えている。


 だが、暗殺者との戦闘の場面は全く覚えていなかった。


 唯一、はっきりと覚えているとすればあの時の決意。ルースを守るという決意だけ。

 自分の異常性に気づいたあの瞬間。忘れてしまったのは吉か、それとも――、



               ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



「びぇええぇえん?? 死なないの? よがっだぁああぁっ……! びぇええええーーん!! 私、ルースですぅううっ!」


「あ、ど、どうも。僕はシシメミナトと申します」


「君、涙の量が凄いな……」


 そんな深刻な状況はさておき、ルースは勘違いして泣きっぱなしだ。

 床がびしょびしょになるぐらいの涙が溢れ出している。


 しかし、当のルースはそんなのお構いなし。

 感情のままに自身の名を叫び伝えた。そんな彼女に手を握られている。


 それに意識を集中させてしまったミナトは、ガチゴチに硬直してしまい、何故か丁寧に自己紹介をし返す。

 医者はミナトの反応とルースの涙の量に驚きながら、やれやれと頭を振った。


 そんな平和的でどこか朗らかとした雰囲気を、既に開いているドアをノックする音で切り替える男が居た。


「失礼します」


 そう言って、三人の視線を一気に浴びた男は一礼をした後に入ってきた。

 青を基調とした王子様のような服、つるが黄金色の縁なしメガネ、気品を漂わせる佇まい。

 おまけに金髪美白イケメン。これでもかという程に美の要素が詰め込まれている。

 そして、その美男はミナトを見つめる。


「あ、あの……どうしました? 何か?」


「エレタ警備組合からの指令で、貴方には我々と同行してもらいます」


 ミナトが不安になりながら聞くが、美男は淡々と答える。

 

 我々、という部分に引っ掛かったのも一瞬。

 美男の後ろからゾロゾロと、武具と武器を携えた屈強な兵士達が姿を見せ始めた。

 何やら、ただならぬ状況だということを認識したルース達はすぐに真剣な表情となる。


「その指令の内容を詳しく教えてください」


「ルースさん」


 そう言ってミナトの目の前に庇うように立ったのはルースであった。

 彼女は納得がいっていないようで、威嚇のような、不満気のような顔をする。


 それに構わずに美男は眼鏡を指で上げると、後ろの兵士達は三人を囲うように展開した。

 緊張がこの場を支配していく感覚をミナトは覚え、このまま戦闘に繋がるかと思えた。

 だが、美男が「まぁ、いいでしょう」と呟くと、ルースの後ろに立つミナトを指し――、


「貴方には廻神教に入信しているという疑いがかけられています」


「……? カイシンキョウ」


 初めて聞く言葉にオウム返しをするミナト。

 魔導機、ファシル級、ダバス級、そして新たに廻神教(かいしんきょう)

 覚える事が多すぎるという当分の悩みの種が出来た所で、ルースと医者の顔が険しくなる。


「まさか君が……? 一体何故」


「――待ってください! ミナトさんがそんなこと、そんなことするはずがないじゃないですか!」


 医者は眉間に皺を寄せながらミナトの顔を見るが、ルースだけは声を荒げて抗議する。

 ミナトは場違いだが、庇ってもらえていることに嬉しくなった。やはり、彼女だけなのだ。

 美男はそんなミナトの心情などつゆ知らず、彼に軽蔑と敵意の眼差しを向けながらルースに答える。


「だから疑い、と言っているでしょう。あと、ここで抵抗すれば疑いは確信に近づきますよ」


「――っ! そ、それは」


「ルースさんありがとうございます、僕は大丈夫ですから」


 言い返せなくなっても、なお言い返そうとしたルースを制してミナトは彼女の目の前に立つ。

 もうこれ以上はどうしようもないであろう。


 ミナトは美男と視線をぶつけると、屈強な兵士達がミナトを囲んだ。


「ミ、ミナトさん……」


 不安気な声を出すルースは今にも泣きそうで、弁が立たず申し訳なさそうな顔をしている。

 だが、何も悪くないし、彼女にはとても感謝している。ミナトは振り返り、微笑みながら――、


「じゃあ、ちょっと行ってきますね」


 どこか気の抜けた、まるで軽く外出に行くかの様なトーンで、その場に居る皆を呆気に取らせるのだった。



               ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



 ミナト達は今現在、長い木の廊下を歩いている。

 遠くに階段、らしきものがあるが遠い。


 そんな感想を抱く一方、彼は自分の周りを囲む屈強な六人の兵士達をチラチラと見ながら、VIPとボディーガードの関係を思い出していた。


 まるで自分が国の最重要人物の様な気分に陥って楽しくなってしまうが、実際問題ミナトは容疑者で連行中なのである。


(どこまで歩かされるんだろ……なんか、うんたら警備かんたらってアイツ言ってたけど、まぁ、遠くてもいっか。異世界の眺め楽しもっと。――ていうか、カイシンキョウに入信容疑ってなんだよ)


 調子に乗っているのか、まだ旅行気分が抜けきっていないのか。

 

(どうせ尋問されて自分が異世界人だとバレてしまうだろうし最初からバレてもいいや)


 ミナトはそんな浅はかな考えで、先程ミナトが初めて聞いたカイシンキョウについて詳しく教えてもらおうとする。


 その結果バカにされようが疑われようが、今のミナトにとってはどうでもいいことなのだ。


「――あ、あの。すみません」


 早速、ミナトは横にいる髭面兵士に声をかけた。


「カイシンキョウって、何ですか?」


 その兵士はまるで鬼のような顔をすると「黙れ!」と叫ぶ。

 ミナトは相手のあまりの迫力に萎縮してしまった。


(えー……そんなに怒らなくていいじゃん、まだ俺犯人って確定したわけじゃないでしょ?)


 ミナトは拗ねた。


「ふん、まぁいいでしょう……一般知識なのですがね」

 

 そう言ってルーティンのように眼鏡をクイっと上げた。

 どうやら、誰もが知っているビッグネームをミナトが全く知らないことが怪しいようだ。


(知らん知らん。後でどうせバレるだろうし。というかコイツが答えるのかよ)


 思わず心の中でツッコんでしまうミナト。


 お察しの通り、ミナトはこの美男が少し嫌いだ。

 なぜならルースを言い負かしたからである。


 そんな些か幼稚すぎる理由はさておき、美男は答える。


「廻神教というのは、この世界で最も凶悪な犯罪者集団です」


(うげ。カイシンキョウってやばいな。――じゃあ俺やばいじゃん。え? やばいじゃん)


 今更になって静かに焦りだしたミナトは捨て置き、話を進める美男。


「しかし未だ謎の部分が多い……構成人数や目的が不明なんです」


「なるほど」


 兵士達に睨まれた。相槌しただけなのに睨まれた。構わず話を進める美男。


「その中でも脅威と名を轟かせているのは通称 "墓崩し" "白い(けだもの)" ――そして、"断罪人" と呼ばれている者達」


(ん? 最後、何故かトーンが下がった。何かあったのかな?)

 

 ミナトは疑問に思いながら階段を下る。

 気づけば既にここまで辿り着いていた事に少しばかり驚きながら(これが相対性理論かぁ)とバカみたいな感想を持ったミナト。


「その内 "断罪人" の素性だけは判明しており、元々罪人を捕らえて収監したり、処刑することを生業としていた貴族御抱えの"高潔な一族"に生まれたそうです」


(――今思ったけど俺は今カイシンキョウの関係者って疑われてるのに、そんな話をして大丈夫だったの?)


 自分から聞いておいてなのだが。


「まぁその一族と彼らが住んでいた町の住人もろとも皆殺しにし、今や廻神教の中でも最も危険視されている狂人に成り下がったんですがね」


 美男がペラペラと話し終わったタイミングで木製の扉に着いた。

 窓や扉の装飾の間から外光が所々差し込んでおり、影がミナト達を包み込んでいた。

 ようやく、といったら変なのだが、やっと異世界の住人が踏み締めている地を踏めるのだ。


 そして、彼らが吸う空気や雰囲気に触れられる。

 これから目に映す景色は絶対に忘れることはないであろう。


 しばらく連行されている間だけの景色だが、一生心に刻み込むことを誓う。

 兵士二人が前に進んで扉を開け、今、ミナト達は影から解放される――。


「――さぁ、目的地はあの建物です。暇つぶしには丁度良かったでしょう?」


「え。近」


 ――目的地は、徒歩1分もかからない程の距離に建っていた。



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