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ダンジョン・イン・アナザーワールド  作者: 風ビンくん
第2章  〈白なる葬願者〉
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第2章46 頑張れミナト!!!



 高級魚、イソガレイの煮付け定食を食べ終わった後。

 先程の熱狂とは打って変わり、男達は横の部屋で静かに規則正しく並んでいた。


 目の前の段差にはグシスが立っており、相変わらずその年からは考えられない程のオーラを放っている。

 その横にはシギ。絶対に許さない。


 ミナトが後方の列から恨みをねじ込んだ目線を向けるが、当然そんなの関係なく指示が飛んできた。


「今日は三班に別れ、雷轟の丘で魔物素材を回収する。ミナト君。君はクリスと共に行動してほしい」


「え……は、はい! 頑張ります!」


「ほっほ。元気良いのぉ……じゃ、残りの二班はいつも通りに」


 グシスが指示を終えて段を降りた途端、男達が声を合わせて一斉に返事する。


 ――危なかった。

 完全に油断していたミナトは意表をつかれ、思わずオドオドしながら返事をしてしまった。ふざけてはいけない。

 そうして胸を撫で下ろしていると、横からじとっとクリスから目を向けられてしまった。もうふざけない。


 一方、ばらけ始めた男達に紛れて眼鏡をかけた太男がシギに走って接近する。


「ふ、副隊長!」


「あ? どうしたそんなに急いで」


「巨躯の魔物を捌こうと冷凍室に入ったんですが、あの……燃え尽きてまして。死骸が」


「――燃え尽きただと?」


 予想もしていなかった返答にギラリと睨んだシギ。

 ただでさえ萎縮していた太男が更に萎縮してしまい、油っぽい汗が更に噴き出す。

 

 ――突如現れた巨躯の魔物。

 未探索の氷結の武器山深部から来たと考えられているソレの死骸は、今後の調査や貴重な資料に役立てる予定であった。

 しかし肉片一片も残さず消失したとなると、その物的損害は計り知れない。


 だが、いつまでも無駄な感情に囚われている訳にはいかない。副班長たるもの素早く立ち回る必要があるのだから。

 シギは早速、太男に返答を求める。


「原因は?」


「は、はい。ヤツは炎を吐いたという証言があるので、それ関連の器官から全身に燃え移ったのかと……」


「そうか……急だが、お前に調べてもらいたい事がある」


 例の冷凍室には関係者しか入れない。それに、そこは堅牢な作りであり、尚且つ厳重な警備だ。普通なら侵入など絶対に不可能である。

 だが、長年の経験から強い違和感を感じていたシギはある調査を依頼した。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



「――なぁ知ってるか? 今度は北の熱帯雨林で雲焼きが発生したって」


「マジかよ……最近、アイツら活発すぎやしないか? 怖ぇな」


 施設の玄関前で迷宮での探索に向け、装備の点検や計画の確認などの準備を行なっている中。

 二人組の男達は最後になるかもしれない会話を交わしていた。


 一方、端っこの方でポツンと立つミナト。

 身一つで十分であり、特に手伝ってくれとも言われないので周りを見ていたのだ。ちなみにクリスはどっか行った。


 途中何か手伝おうとは思ったが、皆は真剣な顔をして荷作っており、逆に邪魔になりそうなのでやめた。

 決してコミュ症だからという訳ではない。決して。


 勝手に一人で言い訳を始めたところで、男の子を抱えたルースが目の前を通った。


「あ、おはようございます。迷宮に行くんですか?」


「は、はい。実はこの度第十紫班に加入する事になりまして……」


「え!? 凄い! 見ない間にどんどん出世していきますね!」


 ミナトに気付いたルースが笑顔で声をかけてくる。

 相変わらず綺麗な金の髪と紫苑の瞳だ。少しその美貌を分けてほしい。


 しかしそんな夢など叶う筈もクソもないので、ミナトは諦めてオドオドと自慢する事にした。

 ルースは優しく裏の顔がないので、褒めてほしいというミナトの薄汚い心に気付く事なく本気で喜んだ。こんな天使見た事がない。


 自分の醜さに朝から泣きそうになったところで、ルースが胸に抱えた男の子がミナトを指差した。


「おにちーしゅごいね」


「しゅごしゅごこうろしゃん!? もう! やんゆー君かみちみち君かゆー君かハッキリしてくだちゃいね!!」


「ゆ? ゆちち?」


 子供の声は本当に人を優しい気持ちにさせる。それに超が付く程に愛くるしい見た目をしているので尚更だ。

 そういえば前回会った時に一言も喋れなかった。それを思い出したミナトは仲良くなろうと、この機会に話しかけようとする。


 だがミナトがありがとうという前に、またルースが赤ちゃん言葉モードになってしまった。

 頬を膨らませるルースに向け、顎に指を当てて上目遣いをする男の子。


 既視感。これはまずい。


「正解は……もちもちたー君でちた! ちゅ〜〜!!」


「ゆぅっ!? 僕は今いじめられてましゅ! たちゅけてくだちゃいね!! ん!」


「へへ。えへへ。だち君をあんむあんむあんむ〜」


「きゃ〜〜!!」


 頭に長いキスをされた後、ぷくっと小さな頬を膨らませる男の子。

 だが、それで可愛さ限界突破したニンマリルースに頭頂部をあんまあんむされてしまった。


 ルースがこのモードに入れば、もう誰の声も届かない事は身をもって知っている。


「じゃ……」


 周りはもう迷宮に向けて出発している。

 故に一言告げて去った。さようなら。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



 ―― "雷轟の丘" 前。


 今回も始めてみる型だ。ゴツゴツとした岩の洞窟の中に三つある通路が暗闇の中へと続いている。

 ミナトは多種多様な迷宮の形に興味を抱きつつ、整列した班の前で立つグシスの指示に耳を傾けた。


 ――気を引き締めなければ。本日が人生で初めての仕事なのだから。

 ちなみに横のクリスは大あくびした。心配。


「ここから三つに分かれる。真ん中はお前達、左はクリスとミナト君でよろしく」


「この鐘が鳴る前には絶対にここに集合しろ。じゃ、死ぬなよ」


「了解です!」


「……」


 最後列から敬礼するふざけクリスをじとっと見つめるミナト。

 だがグシス達はそんなクリスの調子に慣れてしまっているのか、それぞれスタコラと通路の奥へと向かってしまった。

 

 シギが見せつけた鐘と同じ物を腰に下げているクリスと、どう行動すればいいのか悩む。

 あまりにも奔放で頼りにはならなそうだ。人を助ける為に迷宮に単身で突っ込む度胸はあるが、実力はまだ未知数。


 彼を守りながら動けるかミナトが心配になった一方、シギ率いる一班は隊列を組みながら進んでいく。


「アリストスとリビア、ダラは前に。魔導機からの反応を頼りに遺体があったら教えろ。タリゴーラ、いつも通りで頼むぞ」


「了解しました」


 全員が真剣な面持ちとなり、それぞれ武器を構える。

 最後尾のタリゴーラは懐から球体の時計を取り出すと、それを浮かせ光らせた。


 ミナト達にはわざと伝えなかったが、2人組の探検者が先日この迷宮内で死んでいる。

 それらと共に遺品も含めて回収してほしいという依頼が管理協会から入っていたのだ。


 探検者の命は魔装具一個の値段より軽く、飢餓や戦争がノーマルなこの世界では誰も危険な迷宮内で死んだ奴をわざわざ運ぼうとしない。

 だからこそ、実力が高い第十紫班がそんな誰もやりたがらない依頼も受け付けているのである。


 そんな事つゆ知らずのミナト達は のほほんと会話していた。


「――なぁ大丈夫だったのか? グシスさん、たった一人で一番危険そうな方に行っちゃったけど」


 目の前には3つの穴が開いているが、向かって右の穴から激しい殺意が伝わってくる。

 恐らく、そこでは強力な魔物が跋扈してるのだろう。


 確かにグシスから強者のオーラをひしひしと感じる。が、今の自分より強いかは甚だ疑問だ。

 仕事初日で上が死んだら困る。


 だが、あの老人と付き合いが長そうなクリスはというと「あぁ大丈夫大丈夫」と手をひらひらと振った。

 それに疑いの目を向けるミナトに、びしっと自信たっぷりに人差し指を立てる。


「――だっておじいちゃん、最強だから」


 その言葉に一つも嘘はなかった。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



「ほっほ。相変わらずワラワラ出てくるわい」


 グシスの目の前には、雷光放つ巨蛇から腹に口が2つあるカエルまで魑魅魍魎が涎を出していた。


 ――ここ、雷轟の丘では好戦的な魔物が多い。


 他の迷宮に居る魔物は果てしない食欲から襲うが、ここでは例え腹が満ちていようとも殺しをやめない。

 加え、死闘に勝ってきた魔物は更なる戦いを求めて深層に潜っていく。


 つまり上層は比較的弱い魔物で構成されているのだが、人間レベルで言えば十分に脅威。

 そして迷宮自体が危険度で分かれており、右の穴は一番危険で無秩序なのだ。

 それこそ、今のミナトでも苦戦する程に。


 だがグシスは全く怯む事なく、それどころか魔物達を逆に睨み付け――、


「――さ。狩りの時間だ」


 生存本能が痺れて機能しなくなる程の殺気に当てられ、魑魅魍魎が全員怖気付く。


 ――逃げなけれぱ。

 そう判断して一歩半下がった途端、もう既にその場に居た魔物達の首は根こそぎ撥ねられていた。


「今回は何階まで潜ろうかの」


 紫の電撃をパチパチと鳴らしながら、グシスは自慢の白髭を掴み撫でた。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



 一方、ミナト達は早速魔物に囲まれていた。


「だぁあぁぁあぁあ終わり終わり終わりぃいわぁああぁんほぉおおおぉぉおん」


「急に頭おかしくなるな」


「コイツらは強い奴の匂いに惹かれて来るし数が多いし強いんだよぉおおお!! ミナトの馬鹿ぁああっ!! うわぁあぁぁあっ!!!」


「咆哮をあげるな」


「ひげぇ」


「なななんだその声は?」


 泣き叫びながらミナトの背中にしがみつくクリス。

 さっきからクリスが跳ぶ度、その手に持っている槍の先端がコツコツと頬に当たっているのだが全く気付く気配がない。

 

 そんな漫才をしている間にも、赤毛で160cmぐらいある猿群はどんどんと興奮していく。

 ドラミングや唾を飛ばして鳴き、熱を持った心を更に鼓舞していく。


 ――いつ襲われるか分からない現状下、ついにクリスはやってしまう。

 

「よしクリス! 一緒にやるぞ!」


「じゃあね! クリス、入口まで戻りまぁぁあす!!」


「なんでぇ? おぉおぉぉおぉお待て待て待てぇぇ……」


 クリスは槍を持つと、ぴょんと高く跳んで猿達の頭上を通り過ぎた。

 そして流れる様に素早く足を動かし、猿達に追いつく時間も与えないまでに素早く逃げてしまった。


 クリスの限界を超えた情けなさに思わず呆気に取られる一同。

 ミナトはその背に向かって手を伸ばすが時すでに遅し。柔軟にターゲットを変えた猿達が一斉にこちらを見た。


「はは、は」

 

 思わず声を震わせて笑うミナト。

 単身で人救いをしたクリスが一人で逃げた事から、流石にある程度の信頼はされてるのだろうか。いやそうであってほしい。


 ミナトは小さくなっていくクリスの背中を見送りながら、複雑な気分になったのであった。




© 2022 風ビン小僧

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