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ダンジョン・イン・アナザーワールド  作者: 風ビンくん
第2章  〈白なる葬願者〉
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第2章43 酒場での笑い話



「――お前らはもう知ってると思うが、今日入った新人だ!!」


「よ、よろしくお願いします」


「うぉおおぉおお!!」

「あんがとな あのバケモン殺ってくれて!!」

「魔装具の方も期待してるぜぇ!?」


 盛り上がりが激しい酒場の中央、シギがミナトの頭をガシガシと撫で荒らしながら紹介する。

 酒がもう結構入ってるのか、その場の全員が酒瓶片手に超ハイテンション大歓声。今の気分としては恥ずかしさ2割恐怖8割だ。


 面前の圧力にミナトが久々の緊張をしていると、シギが腕を荒々しく引っ張る。


「じゃあお前……ここに座れよ!」


「あ、あぁはい」


 よりによって一番絡みたくない、いや絡まれたくないオッサンの横に座らされた。本当にシギには繊細さの欠片も無い。

 今更な事実に気付いたミナトは立ち上がる暇もなく早速絡まれる。


「なぁ! 話に聞くとお前って寒さ感じないんだろ!? じゃあ最下層まで降りてってアイツら回収してきてくれやぁははははっ!!」


「アイツら?」


「なんだ、氷結は自殺の名所だ知らねぇのか!? 誰でも知ってる話だぞ!! わははははは!!」


(わ、笑い事じゃねぇ〜……)


 酒臭い息を浴びせられながら、ユラユラと肩を揺らされるミナトはドン引きする。


 氷結の武器山には最下層まで続く大穴が縦に開いており、そこに飛び込めば確実な死が待っている。

 加えて室内の温度が年々急激に下がっている事もあり、床に激突する前に凍死出来るとの噂もある。

 故に巨躯の魔物の存在も含め、他三つの迷宮に比べると厳重な出入り口だったのである。


 ――それにしても笑いながら言う事ではない。

 酔っ払いという存在に恐怖を感じ始めたところで、周りにクリスが居ないか探すミナト。


「お、クリス探してんのか? アイツだったらいねぇぞ。今風呂だからな」


「えぁ、そうなんすね」


 目線だけで気付くとは酒が入ってるにしては察しが良い。それもまたミナトにとっては恐怖材料の一つなのだが。


 それにしても、まさかクリスが風呂に入ってるとは。綺麗好きなだけか早寝か、それともこの場に来たくなかっただけなのか。

 絶対に3番目の理由だろうなと思いつつ、何か食べようとミナトは机を見るが、空き瓶以外何もない。本当に何もない。


「おい新世の星ぃ、早速明日は "雷轟の丘" で魔装具と素材採りだ。話によるとお前、魔装具を簡単に見つけれるらしいじゃねぇか? じゃあ簡単な仕事だよなそうだよなぁ!?」


(もう酔っ払ってる!? 耳が早いし圧もいや臭ぇっ!!)


 別に腹が減ってる訳ではないが口寂しく、なんならもう自分の指でも舐めてやろうかとミナトが考えていたところ。

 シギが肩に手を回して重心を掛けてくると酒臭い息でダル絡みしてきた。特に臭い。


 明日は新しい迷宮に行くと明かされてワクワクが止まらない。だが、それ以上にこの人達とこれからというウンザリの方が強い。

 

 もう精神的にヘトヘトになっているミナトであるが、酔っ払いシギは更に追い討ちをかける。


「聞いてくれよぉ〜あの爺さん、いつもいつも俺達にだけ当たりが強いんだよなぁ……ったくよぉ」


「はは……そうかもっすね」


「お前もそう思わねぇか!? なぁ!?」


「いやぁ僕は入りたてなので……すみません」


「んだよぉ失望したぜ失望」


(さ、酒の席怖ぇ〜!! もうこれを機に近寄らないでおこう……! 酒は怖い、怖いっ……!!)


 突然泣いたかと思えば声を荒らげるし、勝手に失望される。

 生まれて初めて酔っ払いと対峙した訳だが、ミナトはもう金輪際大人の世界に入らないと決意した。


 シギは机に置いてあった瓶を掴むと、後ろに倒れる勢いで一気にあおる。


「そんな飲んだら明日に響きますよ」


「うるせぇ! へんてこおしゃれ野郎!」


「へ、へんてこおしゃれ野郎……?」


「わざわざ髪を黒に染めてるからだろ!? 黒髪は禁術行使野郎の証っていう言い伝えがあんのによ!」


「え、えぇ……?」


「それによ! なんでお前サッみぃ迷宮にあんな軽装備で行けるんだよおかしいだろ! それにあのバケモン殺すし!! やっぱ禁術か!? 禁術使いかオメェっ!?」


「……」


 ――散々だ。


 馬鹿とか阿呆とかではない、新しい異世界ならではの悪口に物凄い傷付いたミナト。

 いや、顔前で叫ばれた勢いでそう感じただけかもしれないが、なんかもう傷付いたのであった。


 周りが盛り上がってる中、一人だけシラフ。

 本日二回目の疎外感に泣きそうになった時、最初に絡まれたおっさんがシギにガンを飛ばす。

 するとそれに気付いたシギとの間で一気に火花が上がり、その緊張感で更にミナトは泣きそうになった。


「おいシギ! 飲み過ぎだろ!!」


「あぁん? 何だテメェ?」


「まま! 落ち着いて落ち着いて! 仲良く飲みましょうよ、ほらほら」


 ――これ以上は酔っ払い同士、殴り合いの喧嘩になる。


 そう判断したミナトは、中身が何故かあまり減っていない酒瓶を掴むと、それぞれの口にありったけ注ぎ込んだ。

 明日に仕事が控えているのにこれだけ飲む酒豪達だ。きっとこれで喜んでくれると思っての行動だったのだが――、


「ふげぇえん」


「おぎょ」


「やべ……変なのチョイスしちゃった……?」


 奇声をあげた後、二人仲良くその場に倒れる。そしてそのままイビキをかき始め、深い眠りへと落ちてしまったのだ。


 ――やらかした。

 そのあまりにも異質な光景に頭を抱えるミナトは、そっと例の酒を元に戻す。

 だが、事件性のある一部始終を見逃してくれる筈もなく、千鳥足で近付いて来た別の酔っ払いに絡まれる事になったのだ。


「ははは! ガキィ!! それ度数がエゲちぃやつじゃぁねえかっ!! 殺す気かってんだ馬鹿野郎がっ!!」


「すみません、はは……ぁはは」


「――なぁ、なんで俺っち達が毎日毎日こうやって飲んでるか知ってるか?」


「い、いえ……何でか教えてくれますか?」


「それはな!! 職業柄、いつも飲んでた仲間が居なくなってる事があるからだ! だからいつ死んでも良いようにって、こうやって毎日酒盛りをしてるって訳だうわはははっ!!」


(だから笑い事じゃねぇ〜……)


 怒っているのか笑っているのか分からないオッサンが急に真面目な顔をした。と思ったら笑い事じゃない話を大笑いしながら語った。

 自分から言っておいてだが、こういう場合は愛想笑いをする限ると学んだミナト。

 それにしても毎日とは。本当に仕事をしているのだろうか。


 こういう人が本当に実在していた事に驚く暇もなく、酔っ払いBがフラフラと誘われて来た。もうお腹いっぱいなのだが。


「あっれぇ? それって確か神潰しだよなぁ? ……ほほぉ」


「……ん? え? な、何ですか?」


 突然、例の酒とミナトを交互に見た男は何かを思いついたかの様に手を叩く。


 ――嫌な予感しかしない。


 すぐにその場を離れようとしたが、その前に大勢の男に囲まれてしまった。

 怖い。無理。どうか許して下さいと土下座しようか本気で迷っていたところ、先程の酔っ払いBが空気が揺れる程の大声をあげる。


「今からコイツが神潰しを一杯飲んでくたばるかどうか! 賭ぁけろ賭けろ賭けろぉっ!!」


「そんなモン賭けになんねぇだろうがよぉっ!! すぐにぶっ倒れるに決まってらぁ!」

「巨躯の魔物をぶっ殺したんだそんぐらい余裕だろ」

「俺は賭けるぜお前のその……未来に!!」


 一人だけ主人公がいた様な気もするが、今はそんなのに耳を傾けている場合ではない。

 危機危機。危機だ。人生最大のピンチだ。人が一人死んでしまう。


 だがもう既に期待と嫌疑の目がミナト一人に向けられており、最早途中で止める選択肢はない。

 急に日本に帰りたくなったミナトであるが、パッと腹を決めるしかないのだ。もしここで断ればどうなるのかも分からない。


(くそ、くそぉ……! 僕は屈するしかないのかぁっ……やるぞ。やってやるっっ!!)


 比較的即決したミナトは例の酒瓶を両手で持つと、目をギュっと瞑って天に祈る。

 神潰しは神を酔い潰せる程に強い酒、という意味。大量に摂取すれば失明レベルのブツがどんどんと喉奥に流し込まれ――、


「――ふぅ。おいし」


「……」


 一同、静まり返る。


「……俺ぁ、酔い。覚めちまったよ」


 このふざけた糞遊戯の主催者は冷や汗をかき、周りの見物客達は手に持っていたあらゆる物を床に落とした。尻餅をつく者もいた。


「な、なんか。お先に失れぇやぁぁ……」


「うわぁああ!! ミナトぉおおっ!!」


 気まずくなったミナトは静まり返った空気に耐えきれず、足早に立ち去ろうとしたその瞬間。一気飲みした影響なのか、その場で真っ直ぐ倒れてしまった。

 男達は頭を抱えて叫ぶが、飲ませた張本人に叫ぶ資格など無い。


 ――次々に焦りが伝播していく中、シシメミナトは奇妙な夢を見た。



© 2022 風ビン小僧

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